にゃい

大きく変わりゆく社会の中で「変わらない幸せ」の在り方を紡ぐ研究をしています|京都大心理臨床 ▷ 一橋院地球社会|物語|言葉|写真|ラジオ|カタチないものを手の平で掬うように。

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ゆれながら、かがやいて。

 この小説について何かを書き記すことが本当に「正しい」ことなのか、今でも確信を持つことができずにいる。真冬の朝の白い吐息のように淡く儚い言葉で紡がれた彼女の世界は、それを幼稚な知性と感性とで無理に捉えようとした瞬間に、すっと私の手を逃れてどこかへと飛び立ってしまう。彼女の物語に触れたという記憶は、夢と現の曖昧な境界線上で混じり合い、少しずつその輪郭を失っていってしまう。本書の「あとがき」を記した文学評論家の川本三郎氏は、読者に次のような忠言を加えている。 感動的、素晴しい、

    • 境界線を融かす。

       第九十八回の芥川龍之介賞作品である池澤夏樹の小説「スティル・ライフ」の冒頭に、次のような文章が登場する。  君は自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はきみのことを考えていないかもしれない。でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。  大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中

      • 悲しみとは大切なものを認める感情であるということについて。

         本格的に写真を撮り始めてから約1年が経つ。  毎日の忙しない生活の中でつい見過ごしてしまう何かを目に見える記録として残しておきたいだとか、自分がこの世界を記録する感性を見つめ直し続けていたいだとか、コトの始まりはそんなことだったように思う。  写真を通して自分は何を表現したいのか。写真を撮るということが今の自分に対してどのような意味を持つのか。ふとした瞬間、心が動かされる景色と出会う度にシャッターを押し続けてきて、少しずつ自分が紡ぎたい表現の在り方が見えてきて、写真とい

        • さみしさとぬくもり。

           アメリカの小説家であるエイミー・ベンダー(Aimee Bender)による短編集「燃えるスカートの少女」の一編である「癒やす人」には、二人の「変わった」少女が登場する。火の手を持つ少女と、氷の手を持つ少女。 ♭  そんな火の少女が「人を傷つける」危険な存在として牢屋に投獄される場面がある。彼女を見た主人公のリサは、水を用いて病気の人々を「癒す」ことのできる氷の少女に助けを求める。彼女たち二人はそれぞれの手を重ね、中和することで「普通の生身の両手を持つ」少女になることがで

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        ゆれながら、かがやいて。

          記憶のあしあとをたどる。

          自分の記憶を思い通りにコントロールできるようになりたい、と思うことがある。 でも、例えば「暗記パン」というひみつ道具を使ってテストの範囲を丸暗記しようとしたのび太くんのような、そんな使い方がしたいわけではない。 そうではなくて、他でもない自分が生きてきたことを証言してくれるはずの記憶の曖昧な態度に辟易としたり、少しずつ薄れていく友人や恋人との思い出を惜しく思ったり、思い返したくもない過去に捕われて眠れない夜を過ごしたり、そんなことの積み重ねに、ほんの少しだけ疲れてしまった

          記憶のあしあとをたどる。