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見えなくても会社でランチ

ラジオの相談コーナーで、あまり仲良くない派遣社員とランチをするのが苦痛だとい
う若い社会人からの相談があった。
いつも自分が誘っていたけど、突然誘わなくなるのも気まずくなるしどうしたらいい
かという事だった。毎日会わなければならない人との距離感は難しい。


  そういえば、かなり前だが視覚障碍者社員のランチ問題について友人と話をした
ことがある。

全盲の彼女は私より前に就職した。彼女がどうしていたかは覚えていないが、印象的
だったのは別の部署にも見えない人がいて、彼の事は毎日交代で誰かがランチに連れ
て行っていたらしい。それを称して彼女は「うさぎ当番」と呼んでいた。

小学生よろしく、昼休みにも「業務」として面倒な当番を押し付けられる健常者社員
。多分電話当番みたいに振替昼休みをもらえるわけではなかろう。

でもこれはあくまでビジネスライク。前述の「あまり好きじゃない派遣社員と云々」
の人のように気を使って仲良さそうにしなきゃいけないわけじゃないから逆に気持ち
的には楽なのかも知れない。


そして私もいよいよ就職した。

そこには私以外にも弱視の超ビッグサイズな不思議ちゃん(女性)がいた。彼女も私も
お弁当を持って行っていたので、外に食べに行ったり階に行ったりする必要はなかっ
た。しかし、そこでもなぜかうさぎ当番制が採用されていた。
諸族が総務だったので、総務部の若手、中堅、ちょっと年上の女性グループが曜日ご
とに私たち盲人とランチをする制度になっていた。
平成初期、財閥系の古い体質の会社だったせいか、そこには女性の総合職はいなかっ
た。ほとんどの女子社員は縁故で就職していたらしく、年齢問わず、お嬢様っぽいお
っとりとしたいい人が多かったので私たちもそこそこ楽しいランチタイムを送れてい
た。。中には私たちがいるのにもかかわらず、自分たちが出かける予定の話をしてい
る人がいたが、それは彼女個人のデリカシーの問題?!

しかし、途中で不思議ちゃんが入院したり、いろいろあって、うさぎ当番は何となく
消滅していった。当時は私もまだかなり見えていたしアレルギーもなかったので、持
参のお弁当がなくても、買いに行くのに特に困ることはなかった。


それ以降、うさぎ当番があった職場はない。しかし、見えないとお弁当を買うのも大
変だ。ましてや外食何てもっと無理。まず空いている席を探せない。メニューが読め
ない。出された食べ物がどこにあるかよくわからない。かと言って、忙しい店員さん
に介助をお願いするのはかなり厳しい。
やはり栄養バランスやコスパなどあらゆる側面から考えると、あらかじめ買っておく
か自作弁当しかない。

そうこうしているうちに食物アレルギーも発症してもう弁当一択になった。忙しい昼
休み、コンビニの外国人店員に「この中で卵と乳製品を使っていないお惣菜はありま
すか「なんて無体なことは聞けない。


しかし、もっと恐ろしい話がある。今の職場の同僚だった男性、糖尿病だったのに毎
日お昼はコンビニのとろろそば。なぜ山菜じゃなくてとろろかというと、残ったつゆ
は遠くにある給湯室に捨てに行かなければならない。盲人にそれはかなり無理ゲー。
だから全部つゆを飲んでしまおうという事でとろろがチョイスされた。

おいおい待てよ、糖尿でそんな食事をしていたら透析になっちゃうよ。彼は心筋梗塞
の既往もあったのだ。私は事あるごとに彼に昼ご飯をどうにかするよう忠告していた


そんなある日、事務担当の社員さんが深刻な顔をして入ってきた。「○○さん、今日
心筋梗塞で倒れたらしいんだけど蘇生しなかったんだって・・。」

確かにそのころ彼は体調が悪そうだったけれど、全日には普通に会社に来て「また明
日」って別れたばかりだ。小学生の子供もいた人だったのにどうするのだ。


以前晴眼のおじさん社員が彼をランチに連れて行ってくれていたこともあったが、好
き嫌いが多すぎたり昼休みの時間になっても仕事を追えないで待たされたりしていた
のでだんだん誘わなくなっていった。

合理的配慮というマニュアルはあるけれど、所詮は人間関係。前にいた派遣の女性は
男性の分は買ってきてくれたかもだけれど、私が頼んでも嫌な顔をしたはずだ。


盲人にとって昼食を確保することは見えている人に比べて考えられないほどハードル
が高い。見えていてもランチ難民になる人もいるらしいのに移動困難な私たちは下手
したら食べ物を確保できない可能性がかなり高い確率である。

そう考えると、うさぎ当番はありがたい制度だ。私のような自作弁当族には必要ない
けれど、申し込み制でうさぎ当番を選べるなら、ランチストレスから解放される視覚
障碍者はかなりの数いるんじゃないかな。



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