豊津徳【HozuTalk】08「書とアート」
山本豊津(東京画廊)×角田陽一郎(バラエティプロデューサー)のアートを巡る知のライブトーク第8弾!
テーマは「書とアート」
4月23日金曜20時頃より生配信! 豊津徳08【HozuTalk】
東京画廊の山本豊津とバラエティプロデューサー角田陽一郎のアートトーク
今回のトークテーマは、「書とアート」
ぜひご覧ください!
豊津徳も寿司特も週間ICUCも、未熟者の私にとってはノートを用意して聞きたいもの、できれば教科書とか読み物として欲しいもの。文字起こしが趣味になって本当によかった。
私の趣味の文字起こし。月イチのお楽しみ【豊津徳08】です。
Ayako Someya、北田朋子、坂巻裕一 書をアートへ
2021/4/24–6/5
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角田 東京画廊のオーナー山本豊津さんと月イチでやっております【HozuTalk】豊津徳でございますが、今回も東京画廊に来てみました。ということで早速入ってみたいと思います。さあ、なんかね、新しい展示をやってるみたいなので。どんな感じなのかちょっと…豊津さんいらっしゃるかな?
コンコンッ
豊津 こんばんは〜(^^) いらっしゃいませ!
角田 (笑) どうも豊津さん!1ヶ月ぶりでございます。じゃあちょっと入らさせていただきます。
豊津 はい、どうぞ〜!
角田 さあ、ということでまた新しい展示をやってるってことなんで。今回は東京画廊からまた中継でお送りしたいと思います。
豊津 はい、ありがとうございます。
角田 前回はね、垂線って言うやつでしたけど、今回はまたちょっと色々面白いんですけど。テーマはなんなんでしょうか?
豊津 テーマは「書を現代アートへ」というテーマです。
角田 書を現代アート。書っていうのは書道の書。
豊津 書道の書です。
角田 今回はまさに書とアートについてのお話ということで。書を現代アートということは、前回はお一人の方の個展でしたけど…
豊津 今回は3人。
角田 3人。はぁぁ楽しみ。
豊津 3人の女性の書家と、それから男性の書家。で、ご覧の通り文字は一切分からないんですよね。
角田 うん。ボクも書って仰ってたから書道なんだろうなと思ったら字がないなと思いました。
豊津 これ1点だけ。「うちわ」っていう。ダンボールに書いた…
角田 (笑) 「うちわ 坂巻」って書いてありますが。
豊津 坂巻さんっていうアーティストの名前です。
角田 (笑) また…現代アート面白いなー。ということで。じゃあ早速1個ずつ、よろしくお願い致します。
豊津 まずあの書っていうのは漢字ですよね。漢字を…まあ文字を我々は文化的に美しいっていう概念持つんですが、文字を美しいと言うそういう社会は東洋だけなんですよ。英語圏はないんです。
角田 文字は便利だっていうのはありますけど。それをアートとして、というのは…。
豊津 というのは、文字の成り立ちが西洋の文字と東洋の文字が違ってて。
角田 だってあれですもんね、西洋の文字ってアルファベットだから。
豊津 そうです。だから表音文字でしょ。音節を繋いでるから単語が横に長くなるじゃないですか。漢字は表意文字だからスクエアの中に入るわけですよ。
角田 そうか。だから、キャンパスの大きさというか。
豊津 そうそう。というか元々中国の文字は絵から。
角田 象形文字でしょう?
豊津 そう、デフォルメして文字にしてたから。だから絵なんですよ。だから僕たちは書に美しいという概念を持つのは当然のことなんですよね。
角田 そうですよね。だって、山だって山を象形してるというか。
豊津 そういうことですね。でも皆さん文字見ると意味を読んじゃうじゃない。意味を読んじゃうと意味の方に引きずられるから、美しいってことは二の次になっちゃう。それを逆転しないとグローバルなアートならない。
角田 その逆転をどうするか?みたいなことなんですね。
豊津 そう。で、ここにいる人たちは書家なんだけど逆転の実験をしているわけです。だからそれぞれ全く文字に関係ないように見えるけど、すべては文字に関係してるんです。
角田 パッと見ですね、さっきの「うちわ」以外は全然文字が関係ない…
豊津 そう、「うちわ」以外は文字は一切ない。
角田 …気がするんですけども、それを今日は紐解いていく、と。まさに「書とアート」豊津徳。
豊津 まず書というのは我々が文字と言ったとき漢字はね、最初は紙の上に墨で書くもんではなかったんですね。甲骨文字、ご存知のように骨を傷つけてて。傷つけることが文字だったんです。
角田 そっか。だからあれ、骨に何か…
豊津 そう、引っ掻くわけですね。
角田 占いとかで使ったりとか言いますもんね。
豊津 そのうち文字というものが大事になってきたんで、石に彫るようになったんです。だから中国行くと…
角田 石板というか、壁画だ。
豊津 磨崖碑(まがいひ)って言うんですけどね、崖の壁に文字を書く。それから石の床に文字を書くという。そうしたらだんだん紙というものが出来て、紙の上に墨で書くっていうのが、、、
角田 スタンダードに。
豊津 ところが紙が貴重だったので、ごく限られた人しか文字のことができなかった。
角田 そりゃそうですよね。だって紙って中国て発明ですもんね。
豊津 そう。蔡倫(さいりん)という人が初めて大量に紙を作った。で、今日ここにあるのは支持体であるベースにどういうことを施して書というものを成立させるか?ということですね。
角田 そっか。だから紙、紙じゃなくてもいいんだけど、何に書いてるか?っていうことも大事っていうこと?
豊津 大事ということ。で、今回はうちはベースが紙であるということを前提にしてるのと、もしくはパネルの上に書く、と。これは西洋で言うと板の上に描いた油絵と、それと考えていただければいいです。
角田 板とキャンバスの違いみたいなのが、紙とパネル。
豊津 そうそう。で、ここにある作家は書の中で我々が美しいという中に、書の持ってる一番の性質が「滲む」ということですよね。紙の上に墨を下ろすと滲むじゃないですか。その滲むということは…ここに滲ませる時にコントロール効かないよね。
角田 うん。だってどこまで広がるとか、どこまで垂れちゃうとか、全然分かんないですもんね。
豊津 そうそう。西洋の絵画は線を書いてこっち側が赤、こっちがが緑って、きちんと分けられる。これが西洋の絵画。日本の美術、東洋の美術はそこの合間が自然性に任せると言うところがあるわけですよね。
角田 そっか。そもそも書道もそうですもんね。だって滲んじゃって…ボクいつも小学校のとき書道やってて、うまく書けたなーと思ったら滲んじゃって失敗したなーとかありますもんね。
豊津 それからもう一つ、あなたも小学校でやったときに、重ねちゃいけないってことよね。一度書いたものを修正すると怒られる。この一気呵成で書くっていうのが西洋の絵画とは違う。
角田 そっか。だからさっきのキャンバスに油絵でやると重ねますもんね。
豊津 だから時間が見えないでしょ。
角田 …時間を見るんだ?!流れというか。
豊津 ここに滲みの原点が発生して、ここに至るまでにある時間があるって事が視覚的に見えるよね。この時間が見れるって言うのが墨と水の特徴。
角田 この絵を、絵っていうか書を見るだけで時間の流れが分かるんだ。
豊津 そうそう。それから自然の性質ね。私たちは自然の中の一部であるということがこの中で分かるわけ。人間のコントロールが効くのと効かないものがあるということですよね。
角田 もうこれだけで効かない…効かないっていうか実際この黒い塊が、黒と言うかこの色が固まりがどんな…そもそもこの色合いになるかとか、どんな形になるかとか、だってこの毛細管状態に何でなるか分からないんですよね。
豊津 よく見るとこれリアス式海岸ですよね。だから我々の陸地って溶岩が海に流れてこうなるんじゃないの?
角田 あああ、同じことなんだ。だから溶岩が大地になるのと、この紙の上に書が広がっていくのって、実は同じことなんですね。
豊津 地球が出来上がっていく中とか、それから人によってはコロナにみたい見えるって。
角田 コロナ、ボクもちょっと思ってました。これコロナみたいですよね。
豊津 でもコロナは膜があるわけですよ。ね。これはどんどんやっていくと…膜がないんですよね。だから生命って膜の中に守られてるから、これは生命じゃない。
角田 ここで止まるのは何で止まるんでしょうね?
豊津 あの、乾燥。
角田 あ、そっか、そっか!その液体状なものが蒸発しちゃって。はぁぁ。
豊津 で、ここにあるのは全部文字に関係ないかというと、今日アーティストの説明を聞いたら、全部鉱物の組成式?いわゆる石の、鉱石って言うのかな、石の元素記号あるでしょ?あれから来てるんだって。これはある有名な鉱石の元素記号を書いています。
角田 これ?!1、2、3、4、5、6…
豊津 ところがそれ、染みちゃう、、、
角田 8個だから……なんか、そういうのがあるのかな。
豊津 (元素記号の)一部だと言ってたけどね。それは全部ここにある作品…
角田 それじゃあこっちも見てみましょうか。
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豊津 だからこれもそうなの。ある記号を書いてるんだけど、記号が時間とともに染みちゃうから、もう別の方になっちゃう。もともと文字だったんだけど、時間とともにそれが拡大して違うものになっちゃったってことだよね。だから文字が持っている視覚的な問題の方を重要視して、意味を捨てたってことでしょう。
角田 ちなみにこの作品はどなたの?
豊津 Soneyaさん。
角田 Someyaさん。Soneya Ayakoさん。あの、これ、今のジェンダー論が叫ばれているこんな社会で言うのもなんですけど、これやっぱりちょっと女性が書いなってボクちょっと思ったんですよ。それって何なんでしょうね?
豊津 う〜ん、やっぱり一つは女性が持っている、生物の持っている根本的な問題。
角田 が、描かれているんですかね?
豊津 そういうものが感性的に出るのかな?
角田 なんか…、こちらも同じですよね?
豊津 それか、あと…ある種のきめ細やかさ。
角田 ね。それがちょっと面白いのは、これってさっきの話だと全く、ある意味偶然に支配されているものなのに、きめ細やかさが…。
豊津 そう。いやもうこれはね、かなり大変なの、こっちは。ここで発生して…これに同じ染みの花が咲いてるでしょ?これは大変なの。
角田 これもうなんか細胞分裂みたいですね。
豊津 だからこう、僕たちが自然というものを見ている中に、例えば境界とかね、そういうものを生物的な次元で見ると、何が境界かも分かんなくなっちゃう。だからそういう流動的なもの、…動的平衡って、ほら、福岡先生が。そんなようなものが自然の中にあるってことが…。
角田 これって二色っぽくなってるのはポタ、ポタ、と二回やってるということなんですか?
豊津 いや。そうじゃなくて、一色で…。たぶん墨を擦った青墨って青い墨って書くんですけど、青墨を何種類かブレンドして使ってるから、その青墨の種類によって粒子の浸透度が違うんだと思う。それがこういう現象を生んでるんじゃないかな。
角田 これ、ちなみに紙なんですよね?
豊津 これは全部紙です。薄い紙の上でやって、それで後でパネルに貼るんです。
角田 これ細胞的とも言えるし、花みたいですよね。
豊津 そうですよね。だから…やっぱりなんか、その自然の中で起こる現象をそのまま表現してるから。
角田 と言う意味で、さっきの元素記号でしたっけ、鉱物の記号だって言ってましたけど。あの、象形文字ですよね、やっぱり。そう言う意味でもね。
豊津 そうです。まさに。だからそこで、もう僕たちは鉱物の意味を必要ないから、これを見て美しいなと思うとか、それから今あなたが言ったようにもっとイメージを膨らませて、色んなものを自分の中で解釈すればいいわけだから、そこまで広げるとアートになるわけですよね。
角田 すっごいなー…。これが書だって言われないと……何なんですかこれは?ってやっぱり思っちゃいますね。
豊津 だから書ってさ、書くっていうことでしょ?文字を書くっていうことだから、文字と書は違うんですよね。だから書くって動作のことを重要視してるわけだから。
角田 そっか。…そっか。これ何なんですか?って、書って言ってるのは別に…、文字と限る必要はないってことですね。
豊津 そういうことです。
角田 はぁぁぁ、面白いなぁ。…で、もうお一方、もう一つこの作品…
豊津 それは北田さんって人です。
角田 あっ、こっちは…。
豊津 これはSomeyaさん。
角田 Someyaさんのを見ちゃいましょう。Someyaさんの一番大きいやつはこれですね。
豊津 まぁ、だからこれはかなり墨が薄いですよね。だから一応ここを中心にして、色がだんだん濃くなる展示に。で、こっちも左側に色が濃くなる展示にしてあるんです。
角田 色が濃くなる感じを撮りたいので…ちょっと待ってください……今、この作品が一番薄くて…あぁこうなって…こうなって…で、これが一番濃い、と。はぁぁ、面白いですね、皆さん(笑)
豊津 色々考えるんです(^^)
角田 色々考えられますね。はい。で、続いてSomeyaさんの作品が…今度は北田さん。
豊津 この北田さんは彼女より読もうと思えば読める。
角田 …読める?!ちょっと待ってください、これ読め、読めるぅ??よ、読めます?みなさん…読める?
豊津 これは「品」っていう字です。
角田 ああ!ホントだ!これ伝わるかな…「品」って。ああ、「品」。
豊津 ね。面白いのは白い紙の上に墨を乗せて字を書くでしょ?この人は白い紙の上にこの色を溶剤を薄ーく膜を張って、それで刷毛で支持体を見せるんですよ、ベースを。だから墨というのは、書というのは文字を書くと周りが余白になるんだけど。
角田 逆をやってるんだ。
豊津 そう。余白を自分で作って「品」っていう文字を作ってるんですよ。だから文字を書くことと反転しているわけ。だから、いわゆる書の部分になるところが隅っこに波のようになるわけですね。
角田 面白いですね。だから反転して…逆にいうと反転してないと書で言えばちょっとちょっと濃いところとかがあるところが、反転してるからちょっと厚くなっているところが…そういうことろってことなんですね。
豊津 そうです。それで所持材料である墨の厚みをここで表現しているわけですよ。だから立体化してるでしょ?ということはこれは水面じゃない。波で…波は打つでしょ、すると波ってある程度あるから海は立体化があるんだけど、ただの平面だと、波がないとただのたらい。あそこに波が風で起こるから僕たちは立体感を持つし、ボリュームを感じるんだよね。
角田 つまり波立たないと何も感じないっていうことをこれで表現してると。
豊津 そういうことです。それは書くということの所作とオーバーラップしてるわけね。
角田 つまり書くってことは涙立たせるってことなんですね。あぁ、なるほどなー。
豊津 そういうことなんです。で、これな何の字か分かります?
角田 ちょっと待ってください、これですね?え、エ、S?だから…口二つ…
豊津 「己」
角田 ああ!!そっか!「己」だ!…ちょっと待ってください、もうちょっと引かないと見えないですね。…これです、これ。「己」。品の隣は己なんですね。ほら、これ、「己」になってる、皆さん。
豊津 普通だったらさ、「己」もこう書くわけでしょ?彼女は違うじゃない。ここに空間を作ることによって結果が「己」になってるだけ。
角田 それってこの「己」って何なんだろう?って言うまた命題にもなりますよね。
豊津 そうそう。
角田 これが書だって言われ…、言われてもちょっと書…書…あぁ書ね。でもこの子の感じって墨ではないけど書ですよね。
豊津 うん。そうなの。そうするとこれだと文字がわからない、漢字が分かってる人でもこれ自体で美しいって感じてくれるじゃない。美しいっていうことが先にあってから意味に発生しないとアートにならない。文字っていうのは美しいよりも先に意味が…
角田 意味があるから、その字を読んじゃうから、字の情報が先に我々の方にきちゃんだけど、これはそれを…排除というか、順番を変えた。
豊津 それが最初の僕が「アートは資本主義の行方を予言する」に書いたように…、
角田 最初の豊津さんの著作ですね。
アートは資本主義の行方を予言する (PHP新書) 山本豊津 著
豊津 そう。使用価値を失わないと交換価値にならないということを言っているわけ。
角田 使用価値を価値を失わないと交換価値にならない。はぁぁぁ。
豊津 だからアートってのは交換価値になるのは、アートそれ自身が昔、イラストである使用価値を失ったんだよね。写真によって奪われたから。
角田 そっかだからそれまでは、写真ができる前までは記録用とか。イラストだったんですね。
豊津 それは使用価値があるからアートにならないんですよ。ところが今の社会はみんなアートが価値があるものと思ったけど、みんな分かりやすいのは…使用価値がある方が分かりやすいから、山が描いてあったり薔薇が描いてあったりするのをアートと言うんですよ。
あれはもうアートじゃないんですよ。
角田 アートじゃないんだ!
豊津 それは僕たちにこれは薔薇ですよ、山ですよ、っていう伝達の意味だから文字性が残っているというでしょ。
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角田 また…(嬉) ちょっと待ってください…なるほど。ちょっと待って下さい、ボクの中で整理しますよ…。つまり、使用価値というものは文字の中でも文字が持っている情報と同じであり、それが書として字を書いてるんだけど、そこに文字情報を入れてないから使用価値がなくなり、つまりこれはアートになってるっていう(笑)
豊津 そういうことです。
角田 なるほどね〜!面白いですね。
豊津 面白いでしょ。
角田 使用価値がないものに価値を感じているというか、豊津さんは価値を皆さんに与えてるじゃないですか。価値がないものに価値を与えてるわけですよね。
豊津 貨幣は僕たちが日常に使ってる以上は使用価値でしょ?資本になったとき交換価値になるんですよ。だから資本は活用しないと意味ないじゃない。活用されてこその資本だから。銀行に預金しておくのは使用価値、交換価値にならないんです。今、銀行は1000万円以上を保証しないとしてるから、貨幣は交換価値としては1000万しかないんです。使わないと。
角田 そういうことか(笑) いくら持ってても1000万分の価値しかないんだ。使わないと。はあ〜、面白いっすね。皆さん、それだけがこのアート、これでもう表現されちゃってるってことですね。もう1個の方も見ちゃいましょう。
豊津 こっちね、なんていう文字だから聞いたんだけど、僕忘れちゃった。これもなんか文字があるんだけど。
角田 何だろう?
豊津 なんていう文字って言ってたっけなー?さっき聞いたんだけど。ちょうどね、お客さんが来ちゃったんで、うちのスタッフは聞いてたんだけど。
角田 じゃあ、これ明日からですもんね。明日からこの展覧会が開始なので、そのときにスタッフの方に…
豊津 ただ彼女はことさらこれが文字だってことは言わなくていいって言ってた。ただ今日はね、あなたとこいう形だから、僕はそういう風に説明しました。
角田 今、「誰でも、みんなが、同じように使用できるのが使用価値なのかな」ってコメントが来ましたけど。
豊津 そういうことです。
角田 だからアートって使用できなくていいんだ。使用できちゃダメなんだ。
豊津 できちゃったらそれは使用価値だから。そうすると日本人の使用価値とフランス人の使用価値は違うじゃない。ね。で、どっちの使用価値もなくなるとそれを最初にやったのはマルセル・デュシャンじゃない?
角田 デュシャンの「泉」ですね。便器。
豊津 あれは「泉」という交換価値に変えたわけじゃない。
角田 ただの便器なのに。
豊津 でもそれは美術館っていう交換価値に変える装置がなければ便器は便器ですよ。
角田 あれがトイレにあったらただの便器ですもんね。
豊津 そう。それを美術館に置いて、その活用によって、、、
角田 その代わり便器としての使用価値はなくなるんですよね。なるほど。で、これが…お名前…?
豊津 北田さん。
角田 北田さん。この方も女性ですか?
豊津 女性です。
角田 やっぱ女性っぽいんだよなぁ。何なんだろう?これ、女性っぽいって言っちゃうことが今のジェンダー社会で良いのかどうかはあるんですけど。なんかでも感じますね。なるほど。じゃあ、3人目の作品。
豊津 いや、これも同じ北田さん。
角田 あ、北田さんの作品。
豊津 北田さんはまさにこの溶剤の中に墨を入れたんです。
角田 あー!そうか。皆さん見えますかね、これ。墨だ。すごい!
豊津 で、もうちょっと盛り上がりを作りたいんで、墨の他にセメント入れたんだって。
(笑) そして乾いたらヒビが入っちゃった。
角田 このヒビはまさに炭っぽいですね。で、これが字なんだ。「品」だ。これも字が分からないやつですよね?
豊津 これも「品」です。ここに四角が三つ。
角田 こちらでお値段聞いていいですか?お値段を言わない方がいい?
豊津 この一番大きい作品で60万円です。
角田 これ60万円ですよ、皆さん。お買い得ですよ?(笑) でも、買う人いますね。全然いるな。ボクも60万あったら買うな。
豊津 だからこういうの部屋に掛けといた方が来た人がびっくりするじゃない。そこにコミュニケーションが発生するでしょ。山の絵掛けてたら山でしかないじゃない。富士山の絵は富士山でしかないけど。
角田 花だったら花綺麗だねになっちゃうけど、これなんですか?って言いますもんね。
豊津 すると今の話で約20分は保つわけよね。
角田 (笑) 確かにそうだ。いやー…、ボクこれちょっと欲しいですもん。これ。これちょっと欲しいですね。
豊津 それいい作品ですよ。
角田 今これまたコメントをもらったんですけど「テレビを化石にしたらこんな感じ?」って(笑)
豊津 (笑)
角田 確かにテレビっぽいですよね、これ。
豊津 いいよね(笑) でもさ、よく考えてみたらこの平らな面っていうのが僕たちにとって
ものすごく重要じゃない。なぜかというと地球上に平らな面ってほとんどないんですよ。
角田 そう。それがまたね、前回の垂線の時に垂直なものがないという意味で言うと、平面っていうものは果たしてあるのか?という。
豊津 そう。そうすると僕たちが大事なのは、この平らな面を作るということが文明なんですよ。
角田 あ。だからこれ文字…文字がね、文明と言われたらまさにこの平な面っていうのは…。
豊津 そう。平らな面が文明で、その上に文字を書くというのは文化なんですよ。だから大事なのは文明とは何か?ということは、この平らな面を作ること。それから白。純粋な白を作ること。というのは純粋な白は無いじゃない。ね。それから純粋な黒を作ること。で、この白と黒と平面。
角田 だから黒で、こっちは白なのか。
豊津 で、よく考えて下さい。じゃあ千利休は黒楽茶碗作ったでしょ?中国は黒い器がないんですよ。
角田 無いんですよね。青磁とか白磁ですもんね。
豊津 だから中国のすごさは白い物を徹底して白く作った文明なの。その白磁を作ったから千利休はそこから離脱するために真っ黒いのを作ったんです。
角田 はぁぁぁ面白い。ダメだ、面白い…!
豊津 面白いでしょ。うん。
角田 千利休が黒いのを作ったてのはそこまでの意味があるんですね。
豊津 そう。なぜかと言うと黒いものの上にもの書けないじゃん。究極の世界だよね。
角田 これで終わっちゃいますもんね。
豊津 そう。白い物は上に書けるじゃない。それが陶磁器でしょ。
角田 だからある意味、絵柄が出てますもんね。
豊津 そう、絵が描ける。
角田 黒いの、絵柄ないですもんね。
豊津 そう、柄がない。今日、面白いこと聞いたんだけど。友達がね、ジャック・マイヨールって人がいるじゃない。
角田 はい。海に潜る方ですね。フランス人の。
豊津 海に潜る人ってものをなるべく考えないようにするんだって。
角田 え?瞑想と同じってことですか?
豊津 そう。考えると脳が酸素使っちゃうから。だから僕たちの身体って20%、頭が使ってるでしょ?
角田 脳が動き始めちゃうと酸素使用量が多いから潜れないんだ。
豊津 そう。潜れないの。
角田 じゃあジャック・マイヨールとか深海でずっと潜ってるときって…
豊津 あれはものを考えないようにする訓練なんだって。
角田 じゃあ、瞑想だ。
豊津 そう。そうすると禅宗のお坊さんが座ってることに近い。だからジャック・マイヨールと禅宗は似てる(笑)
角田 同じだし、さらに言えば、黒の話で言えば、黒くしたことで何も書けないってことで、何も考えるなってこと。面白い、鳥肌立っちゃった(笑)
豊津 そう。だから千利休は大徳寺の禅から来てるでしょ、お茶って。だからそこで全部符号するの。
角田 だからボク、禅とお茶がなんでくっ付くのかな?ってのが分かったようで分かってなかったんですけど。ちょっと確かに思想的にはそういうことなんですね。
豊津 すると、ただ真っ黒い絵を見ながらさ、そこまで話が出来るのが面白いじゃない。で、もう1つ大事なのは、彼女はこれに至る前にこれを作ってるんですよ。
角田 これ。…これ、何だこれ?
豊津 コーヒー豆。
角田 (笑)
豊津 で、実験的にこれを作ったらさ、彼女も気がついてなかったんだけど、ここにひび割れができるじゃない。ひび割れが出来たとき地が見えるってことでしょ。これじゃん。
角田 …地が見えるってことは、つまりさっきの、これの…これと同じってことだ。
豊津 そう。それが人為的にヒビを広げたってことでしょ、これ。
角田 ヒビが人為的になるとこう、カクカクなってるんだけど、元々のコーヒー豆だとそれはこういうことだと。だからこのヒビの存在とさっきの字の空白の存在は、考え方として一緒ってことなんですね。
豊津 そう。そうすると彼女がこのヒビをなぜ作ったかが分かって来るじゃない。
角田 (笑)確かに。
豊津 ここの人為的な地と、ここの奥にある地が一緒。するとここに表面っていう概念が生まれるわけ。で、この表面と言う概念が人工的な意味なの。それが僕たちの人にものを伝えるときに表面を作るってことだよね。だから彫刻見てても僕たちは表面しか見てないでしょ?ぐるっと回って。
角田 ((やばい、面白い。))
豊津 面白いでしょ、これ。
角田 いやぁ、面白い。…そっか、でも最初にこのコーヒー豆を彼女が作られて、…なんか気づいたんだな。
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豊津 そう。どこかで彼女が…心体的なのか感覚的なのか、そこまで人為的に作り上げてアートにしたんですよ。だからこれだとまだアートにならないんですよね。
角田 あー、だからこれは解説のように置いてあるんですね。
豊津 そうそう。ただただ彼女が作る試作の過程を見せたほうが一般の人には分かりやすい。それで展示してあるんです。
角田 そうなんすよ。完成品だけを置くことじゃないってことはボクは豊津さんに習ったんですよね。それがそのプロセスというか過程。
豊津 そうなんですよ。
角田 面白いですね、皆さん。あ、なんかコメントが。「その書はコーヒーの良い香りするのかな?」
豊津 はははは!
角田 嗅いでみいましょうか? ──う〜ん、しません(笑)
豊津 はははははは!!
角田 しなかったですね(笑) で、そのこっちの説明に行っちゃっていいんですか?「うちわ」。
豊津 これは「うちわ」っていう坂巻君の作品なんだけど。この作品を説明する前に、彼の新作をお見せしましょう。
角田 3人目の方ですね。酒巻さん。入っちゃっていいんですか?
豊津 いいですよ。これです。床を映してあげて下さい。で、なるべくその紙のところ踏まないように。
角田 ちょっと待って下さい。床を、床を見せたいんですけど…見えますか?床。ここにこう、なんかこういうものがあるんですよ。分かります?これ何ですか?マス目模様というか。
豊津 これはね、書の中でもっとも大事なのは拓本という概念なんです。昔は文字を岩に刻んだわけですよ。その刻んだ文字を紙に取るんですよ。それを拓本って言うんです。
角田 魚拓とかの。
豊津 そうそう。で、その拓本を何のためにやるか?というと、岩の上に…それでここに全部作ったものを1回全部外して、1回目まとめたものがコレなんです。
角田 ん?ちょっと待って下さい、整理すると、床に1回…拓本?
豊津 作り方を言うと、ここに紙を貼るんですよ。で、これをポンポンポンポン叩くわけ。するとこのPタイルの目地に紙が食い込んでエンボスになる。
角田 ああ!エンボスになりますね。
豊津 エンボスになった後に彼は四角い黒い印を押すんですよ。
角田 これ印を押してるから、白いとこだけ残るからこういう十時の形になる、と。
豊津 すると彼は全て東京画廊の床を拓本で撮取ったわけですよね。
角田 皆さん…床を拓本で取ったんですって!で、取ったものを展示したのが、、、
豊津 取ったものを一旦全部外して、もう1回ここに。これが第1回目の(笑)
角田 それが、これです(笑) これが東京画廊のPタイルの拓本。
豊津 そうです。
角田 これはもう作品…ですね?作品っていうか、作品なんですけど…。
豊津 それで、ちょうどほら、あそこ3つだけ飛び出てるから、あそこ3つだけ。
角田 なるほど。ここに入り口のが3つ飛び出てるから、こっち側(壁の作品)も3つだけ飛び出てる、と。
豊津 それでこの1つづつをなぜ2回やったか?っていうと、今回ここで展示したこれ(床の作品)は1個1000円で売ってるんですよ。
角田 え?これ1個というのは、本当に1個?
豊津 1個。だからこれは後で角田君に1個1000円で買ってもらう。
角田 (笑) なるほどね!!
豊津 もう10個売れたんだけど、明日また何十人か来るから、みんな1000円で買うと、ここに集まった人がこの作品を持って集まるとこれ(壁の作品)が出来るってことです。
角田 これ(壁の作品)は1個目のやつで…。ちょっと待って下さい、今(カメラが)大変なことになってます、ぁぁぁ大変なことになってます…、ぁ、大丈夫です。すいません、生放送、生配信なものですから、すいません、はい。えっと、ということで1回目のやつはこれで、これ1個1000円で売ってるらしいので…1、2、3、…
豊津 で、これ(壁の作品)は売らないですよ。これはまとめて1個で売ります。
角田 …9、10、11、12、13。13×7だからこ…これ(壁の作品)いくらくらいでうってるんですか?
豊津 これ、20万くらい。
角田 ああー、そうですね、13×7だから20万くらい。
豊津 で、これ(床の作品)が1個1000円。
角田 1000円ですかー。
豊津 で、ここに番号ふってあるから、だから角田君は何番って言ってくれればそれをあなたに売った後に、また次の時には僕が渡す。
角田 じゃあボク17番買っていいですか?
豊津 あ、そう、17。はい。
角田 買っときます。
豊津 (17番を探す)はい。ここが17番。
角田 ちょっと待って下さい、もう1回…どこですか?
豊津 これ。これ角田君の17万です。で、これを、、、
角田 ちょっと待って下さい。カメラが大変なことになってます。ちょっと待って下さい、、、どれが17番ですか?もう1回指してもらっていいですか?
豊津 これが角田君の。
角田 17番。
豊津 コレクションになる。
角田 これ、ボク、17番買います。1000円で。
豊津 分かりました。決定です。
角田 山本豊津さんに…買わされました(笑)
豊津 拓本というのは既に何百年も前に書かれた文字を、その時は使用価値があったわけですよ。ね?お経だったりね。ところが何百年も経つとそれは拓を取ると美術になるじゃないですか。ってことは昔の記憶を拓に取るという事ですよね。あるいは東京画廊の床の記憶を拓に取って作品にしたわけ。だからこの建物が無くなっても東京画廊という記憶は残るわけです。彼が考えたのは、手紙ってあるでしょ?手紙って角田君に僕が出した時点で用が済むじゃない。すると角田君は捨てるわな。ところがさ、それを消息って言うんだけど、織田信長が秀吉に出した手紙は価値あるでしょ?ということは手紙を残してたから価値がある。でも、もしかしたら信長がメモを書いてたかも知れない。それも取ってあったら価値がある。で、彼はみんなが捨てた文字をこうやって拾って、記憶として作品化したわけですよ。だから段ボールに書いてあるのが大事なの。だから彼は前にやった展覧会では知り合いの人が書いたメモとかそういうものを取っておいて、インスタレーションで使うんですよ。だから文字に持ってる記憶というもの、それを知っても、もうこれは一度使われたら使用価値ないでしょ。
角田 もう要らないですね。だからさっきの使用価値がないんだ。
豊津 でも記憶という概念で作品化すればもう1回交換価値が生まれるってこと。これ1万円なんですけどね。
角田 (笑) この「うちわ」1万円だそうです。1万円ですって(笑) これ何でもいいってことですよね?
豊津 うん。でも坂巻君のサインがないと…
角田 そうか?!信長のサインがないと、秀吉のサインがないと、意味ないですもんね。
豊津 ということは彼がこれをやったってことがアートなの。
角田 デュシャンになり切るわけですね。
豊津 で、角田君が今からやってもアートにならないです。
角田 坂巻さんのパクリですからね。パクリですからね…。で、これは?
豊津 これは彼女が青墨を使って、、、
角田 彼女というのは、誰?
豊津 Someyaさん。
角田 Someyaさん、最初の方ですね。
豊津 Someyaさんが青墨を使う前に墨汁でやったの。だからまだ彼女にとっては墨汁の方が安いでしょ?
角田 墨汁…、書道で使うやつ?
豊津 うん。だからほら、デリケートさが違うじゃない、青墨の作品と。リアス式海岸が大雑把じゃん。でももう既にこれはね、Co2なんですよ。二酸化炭素。
角田 ああ、なるほど。さっきの元素記号だ。
豊津 だから彼女がこれをどんどんどんどん青墨にして、青墨を混ぜ合わせて、ブレンドして、それであそこまできめの細かいものに持って行ったことですよね。
角田 こっちにね。これは確かに思考の、制作プロセスが見えます。だって正直こっち(墨汁)やっぱりこっち(最初に見た作品)の方がちょっと欲しいですもんね。
豊津 このデリケートさがすごく大事。これもすごいけど、これもすごいよね。
角田 うん。ボクね、買うならこれかな。なんかね、ちょっと寂しいし。はぁ〜。これちょっとやっぱ多すぎる感じします、これは。これはちょっと多すぎる感じするもんなー。でも…分かんない、好き好きかも知れないですけどね、こういうのってね。へぇ〜。
角田 これボク好きですね。
豊津 それ、いいでしょう?!
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角田 うん。なんかね、生命体な感じもするし、なんかこの2021年のコロナの中でこの作品が生み出された意味ってなんかある気がしますね。はあ〜、なるほど。というのが、書を…タイトルなんでしたっけ?この展覧会の。
豊津 書を現代アートへ。
角田 書を現代アートへという展覧会で4月の25?
豊津 明日。24日から6月の5日まで。
角田 6月5日まで。
豊津 間に10日くらい連休が挟んだりしますから。だから6月5日まで。
角田 これ、東京画廊で見るときどうすればいいですか?豊津さんに言えばいい?
豊津 ああ、あのね、うちのホームページに寄って。今予約制にして三密にならないようにしてるから。
角田 画廊は三密にならないから、ね、そんなに多くの方が来ないから。
豊津 僕が居ればね、角田さんの番組見て来ましたって言えば予約しなくても入れますよ。
角田 (笑) なるほど。いやぁー、面白かったですねー。これ…これね、やっぱりいっつも、前回もそうですけど、東京画廊の面白さは豊津さんの解説がないと分からないところが面白いですね。これ、紙に書いてあって解説されてもただ”ふぅん”しか思わないんだけど、豊津さんが解説すると楽しそうに喋るじゃないですか。
豊津 だって彼らがここに展示するまでに4年かかったんだから。
角田 うわぁ、4年かかったんだ。だから最初のこっちの方(墨汁、うちわ、珈琲)から始まって、色んな試行錯誤して。
豊津 色んなことをやりながら彼らと。
角田 かなり定期的にディスカッションしながらなんですか?
豊津 うん。展覧会…、彼らグループ展やってるから、そこへ僕が招かれて、山本さん見てくれって言うと僕が見て、それで僕が個人的な感想を言って、それでフィードバックして、また行って…ということを何回か繰り返してここに至ったんです。だから僕が楽しそうにしてるのは一緒にコミュニケーションしてここまで来たなっていう、お互いの満足感。
角田 まさにオリンピックだ(笑) 4年間の思いがあるわけですね。いやぁ、ありますね。そっか、この作品群は4年間の思いが連なったものなんですね。
豊津 だから出産するのはお母さんだけど、出産を手伝うのは産婆さんじゃん。だから僕は産婆さんの役割(笑)
角田 そういうことですね。いやー、面白かったですね。はい。そういうことですかね、今日は。
豊津 そうですね。はい。
角田 次回また1ヶ月後ぐらいにやりますけど、次回はまた展覧会…じゃなくて、次回は久しうぶりにまた対談ですね。
豊津 また何かやりましょうか。ちょっと課題を2人で考えて。
角田 考えましょうか。はい。ということで東京画廊でお送りしているところで、今日はテーマは【書とアート】ということで、山本豊津さんの解説で…楽しみましたでしょうか皆さん。
豊津 ぜひ。
角田 ということで、また、よろしくお願いします。じゃあ、さようなら〜。配信止めまーす。
豊津 あ!あとね。
角田 あ、止めないの?いいですよ。
豊津 この前衛の書っていうのは中国、韓国にはないんです。
角田 ないの?!!
豊津 日本人が考えたの。
角田 何か中国とかで書の前衛ってあるような気がするんですけど…ないんですか。
豊津 無い。で、ちょっと前衛っぽいのが唐の時代にあった。
角田 唐の時代に…。唐の時代ということは紀元前7世紀とか8世紀とか。
豊津 そうそう。唐の時代にもう中国はその近くまで行ったの。それで結局唐が…あれはなんだ?宋になるのか?
角田 唐次は宋ですね。
豊津 で、政権が代わったんで無くなるんですよね。で、どんどんどんどん具象的になってくるの。
角田 まさに書道、文字を書くようになっちゃうんですね。そっか、今の中国の現代アートの書みたいなのもみんな字が書いてありますね。だから具象にまで行ってないんだ。だから象形から漢字ができて、漢字からまた象形に戻ったっていうのは、日本で平仮名ができたこととちょっと被るところがありますね。
豊津 だから日本人は中華文明というものを得たけど、中華文明の中に西洋から影響を受けたものを入れて前衛書道、前衛書っていうのを作ったわけ。これこそ世界に行けるんじゃないかといったら香港のMプラスって美術館が買ってくれたんですよ。初期の60年代の前衛書ね。その60年代の前衛書がいったん途絶えるんですよ。それが2000年に入って蘇る。
角田 また復活してきて、この4年間かけてこれが出来ている、と。
豊津 それは何故かというと、アートが全部具象になっちゃったから。今アートって村上君以降全部具象になったでしょ?DOBくんとか。ね。だからアートがどんどん具象化してるから、書は抽象化しようっていうんで僕は今前衛書にすごく興味を持ってるの。
角田 これ、これが日本、…これこそクールジャパンですよね、本当の。これが本当のクールジャパンですよね。
豊津 そう。だからクールジャパンはこういうことを知っってクールジャパンやらないと意味がないんですよ。
角田 そうだし、それやれば日本は全然イケますよね。
豊津 いける。イケると思う。
角田 もう全然イケると思ってるから豊津さんはやってるわけですね。
豊津 上手くすれば何年後かに北京もしくは上海の美術館で前衛書展があります。
角田 ああー、それ、その時一緒に行きます。北京に。
豊津 行きましょう、行きましょう。ここに聴いている人たち皆んなで行きましょう、ツアーで。
角田 ツアーで。ツアーを山本豊津さんが主催すると言ってますので。豊津さんの解説で。…「中華文明を起こしたのと中華文明の影響を受けたのは全然進む道が違うんだ」って。素晴らしいこと書かれてますね。
豊津 そうです。で、僕たちは明治にその中華文明から西洋文明に乗り換えたわけです。
角田 だから日本ってそう言う意味では西洋文明的なところもあるじゃないですか。それも日本的にだいぶ変わってますもんね。
豊津 そうするとね、さっき千利休が黒楽茶碗作ったときに、何故出来たか?というと、堺の承認が鉄砲を輸入したからよ。鉄砲があればアジア全域が征服できるって考えたのも信長なの。そこの下で千利休が黒楽茶碗作ってるっていうのが面白いでしょ。
角田 面白い。だからその発想の…ぶっ壊すというか、発想のすごい転換、拡張、みたいなものが、むしろ本場じゃない日本の方が起こり易いんだなー。色んなものが入るから。
豊津 だから日本は自分で文明作ってないから、人の文明を咀嚼して分解するのが得意。
角田 どう改変していくか?それこそ陶器で言えば窯変させずというか。墨汁で言うと流すというか。あああぁー面白いですね。
豊津 だからさ、今このね、どなた知らないけど、その文明と文化の問題はもうちょっとみんなで掘り下げても面白くなると思う。
角田 面白いですね!はい。ということでございました!ありがとうございました。失礼しまーす!
豊津 どうもー!ありがとうございました!遊びに来て下さい〜!
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アートに敷居の高さを感じるのはここなんじゃないかな。私には使用できないけど、使用できる人たちだけに価値を発揮する、その自分に理解できないという感覚が目の前に形を成して見えていると、劣等感というか高尚さを感じるのかも知れない。
Wikipediaに載っててちょっと驚いたんだけど、近年の研究で「泉」とその他多くの作品はデュシャンの作品ではないらしい。
学校の勉強も美術も大人になって何の役に立つのか?だから私は作家の名前や作品を言われても全然分からないけど、デュシャンの泉は先日、偶然ネット記事を読んで知っていた。それから、ジャック・マイヨール。これは分からなかったというか、Experience the Underwater World Through the Eyes of a Free Diver | Short Film Showcase この人と勘違い。名前は知らなかったので検索するとギヨーム・ネリー。この方もフランス人。インタビューが載っていて「これはある種の瞑想」「五感の全てで無限を体験できる世界」なのだそう。
学校の勉強というか、何でも見聞きして、詳しくは無いけど知っているというのはとても大変で手間がかかるけど、人生の燃料になるんだと思う。重い燃料を持って面白いことをしに行くと、また燃料をもらえるんだろう。
青く深い海の精霊、フリーダイバーのギョーム・ネリー
前々回のNo.6「デザインとアート」で、豊津さんがNewsPicksスクールで山田五郎さんと対談するというお話。五郎さんのYouTube で豊津さんのことが少し話題になってましたね。アートを買わないような一般の人にとって画廊は敷居が高いけど、どこか、若いアーティストの作品を見る場所は無いか?という質問に、五郎さんが「それが画廊だよ!」と回答。
美術館が出来て悪かったことはアートを買う意識がない、アートは日常生活に関係ないと思うようになったこと。アートは暮らしを豊かにするものだから普通に家に飾ってよくて、アートに興味を持つなら買うのが一番。豊津さんは買うとなると一生懸命考えて買うからとずーっと言ってきたけど、やっぱり皆んな買うのに躊躇する。そこでちょうど開催されていた東京アートフェアで、どういう作家がどういう技法のどういう作品かを説明できることを条件に、5〜10万円で買う、買わずとも選ぶことになった。お二人とも驚いたのは、皆んなちゃんと人に説明できるように勉強して買えて、誰もとんちんかんなものを買わなかったこと。
高いものを売ってる画廊もあるけど、高いものタダで見られてラッキーぐらいに思えばいいと五郎さんは仰っていた。
【祝10万人!】山田五郎 オトナの教養講座 生配信
【山田五郎×山本豊津】Creative GINZA with 東急プラザ銀座×Bunkamura【第3部ダイジェスト】
子供の頃、海外では日本人に教えると全部真似されると言われているんだと聞いた。今でもそう言うかは分からない。今は中国やベトナムの方がそうかも知れない。一昨年くらいの記事には日本から来る企業見学ほど迷惑なものはないとあった。見せる側は何も得るものがないし、見るのも表面だけ、そもそも本当に見学だけしてありがとうと帰ってしまうから、真似なんか出来ないし、出来ないからまた見学に来ようとする、と。
豊津さんの言う通り日本は文明を起こしたことはないけれど、文化はある。平面が文明、文字は文化。日本の文化のスタートは真似なんだ。改変して独自のものにして行くというより、勝手になって行くのかも知れない。つまり勤勉に真似る。真似る作法というか、真似道というか、パクりましたで終わらせない真似とはどんなものか?どう考えて独自のものを生み出したか?をもっと知っておく必要があって、それはたぶん豊津さんとか五郎さんとか、アートにあるんだろうな。