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「いけ。いくな。いけな。」

11月16日 午前8時50分 家を飛び出た。

久しぶりに疲れもしんどさも

何もわかっていないくらい全力で駆けた。

1秒でも早く、止まるな、進め。生きろ。



国道沿いにあったペットショップ。

親と一緒に観に行くのが好きで、よく行ってた。

14年前のあの日も同じだった。

違ったのは、ちょっと大きめのキミを

抱っこさせてもらって、妙にしっくり来て、

気づいたら5日後には家族になってたこと。


懐かれてたのかと聞かれれば

たぶん と言わざるを得ないくらいに

ツンデレなやつだった。


おもちゃを投げても持ってくるが渡そうとしない

名前を呼んでも振り向きはするが、来ない

両親共々、縫うくらい噛まれたことが何度もある


でも知っている。

夜、こっそり布団に入ってきて添い寝してくることも

帰ってきた時は全力ですり寄ってきて、頭を撫でろとアピールすることも

泣いてる時にそっと寄り添ってくれることも

本当はちゃんと懐いてて

飼い主に似て、不器用な寂しがり屋だったって。

家族にしか見せない顔があったって。



今年の1月、キミは入院した。肺炎だった。

私たちの指輪を運ぶという大役を任された結婚式を控えた2ヶ月前のことだった。

頑張れ、指輪持ってきてくれるんだろ?

晴れ舞台、一緒に写真撮るんだろ?

いくな、頑張れ。

そんな願いが届いたのが、1週間後には元気になってくれた。


一方で、キミを知っている全員が口をそろえて

そんな大役できるのか(笑)と言った。

その期待を裏切ることなく、リハーサルは散々なもんだった。

おまえはエサがないということ聞かないのか と呆れたことを覚えている。

なのに本番、リハーサルは茶番だったのではないかと思わせられるくらい

大役を立派にこなした。

ああ、そうだった、キミは空気を読めるやつだったな。

賢いからこそ、私たちをいつも出し抜く。

得意げな顔をしているのを見て、ほんと憎めないやつだと思った。


それから体調を心配していたが、寝ている時間は多くなったものの

それ以外は入院前と何も変わらないまでに回復していた。

定期的に親から送られてくるキミの日常を見て

どこか安心してたのかもしれない。

いや、忘れてたんだと思う。



11月16日、別に特別な予定はなかったが

なんとなく有休をもらっていた。

前日の夜、何しようかなんて考えていた矢先に電話が鳴った。

急に呼吸が荒くなったとのことで、緊急入院になったというのだ。

その日はいつもと変わらず、散歩して、公園で遊んで、定期検診にも行ってきた後だから大丈夫だと思うけど と母は言った。

なんとなく胸騒ぎはしたが、大丈夫だろうといつもと変わらない夜を過ごした。

いや、今思えば気にしないように努めていたのかもしれない。


翌朝、容態がよくないと連絡を受けた。

親は大丈夫だから無理に来なくて平気と言ってきたが、

何をしてても手につかず、気づいたら家を出ていた。

病院に着くと、治療を続けるか連れて帰るか判断をしなければいけないといわれた。

頭が追い付かない中、気づけば病室に案内されてた。

たくさんの管がキミにつながって

見たこともない苦しそうな表情に胸が締め付けられた。

なんとなく感じていた気配が、一気に現実味を帯びて、襲ってきた。

泣くな、だって泣きたいのはキミの方だ。

頑張れという想いが届くようにキミに触れたとき

辛いはずなのに、苦しいはずなのに、起き上がった。

ばか、安静にしてろよ。

素直に甘えてきやがって、涙止まらなくなるだろ。

両親が先生と話していた数秒で

「いけ」と「いくな」がたくさん交錯して

気づけば「連れて帰ろう」と声に出していた。

帰り道、撫でると、もっとなでろと頭を寄せてきた。

家までのいつもの15分がとてつもなく長かった。

キミの好きなあの日向に早く連れて行ってやりたい。

だからまだ「いくな」


たぶん家に着いてからは、そんなに長い時間じゃなかったと思う。

けど、家族4人にとっては穏やかな永遠の時間だった。


「いけな」



私がたまたまお休みで、家族3人そろってた日に

行ってしまうなんて、最期まで空気が読めるんだな、キミは。

そんな空気の読み方しなくてもよかったのに。

あと2年くらいは、一緒にいても良かったんだよ なんて。


明日キミは、美しい灰になる。

しばらく触れることも見ることもできなくなる。


まだいつもの場所で、いつも通り寝ている君を見て思うことは

泣きすぎて痛くなった頭も

ぱんぱんに腫れた目も

無我夢中に走ったせいで筋肉痛になった足も

全部そのままでいい。

だから名前を呼んで、来てくれなくてもいいから

いつもみたいに振り向いてくれないかな。

強がってしまうけど本当は寂しがり屋だし、泣き虫な私は

きっとしばらくはキミを思って泣いてしまうと思う。

飼い主に似たキミも多分同じだから、そっちで寂しがってないか心配だよ。

まだ時間かかるけど、待っててよ。

会ったときは、いつもみたいに全力ですり寄っておいで。

キミが逃げたくなるくらい撫でてあげるね。

それでまた名前を呼ぶから、

いつもみたいに振り返ってね、

ショコラ。


だいすきだよ。


R.I.P. 

2007.1.21-2021.11.16




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