チャレンジの神様が宿る島「隠岐の島海士町」 奥野一成 離島へ行く(前編)
隠岐の島海士町の「隠岐國学習センター」で奥野が実施した講演の様子を3回に渡ってお送りします。当日は島前高校の生徒一部と海士町の大人の方も参加して頂きました。
はじめに
奥野:皆さんこんばんは。私、奥野と申しまして、農林中金バリューインベストメンツという会社でファンドマネージャーの仕事をしています。
この本(教養としての投資)読んだ人いますか?あれ、誰も読んでませんね(笑)
この本、実はものすごく売れていて、累計45,000部*売れているんです。一般的にこの手の本って1万部売れたらベストセラーだそうなんです。初めて出した本がこんなに売れちゃって、出版社の人も驚いているんです。嬉しくてつい自分で言っちゃうんですけどね(笑)
え、凄い?ありがとうございます!
*2020年10月16日時点の発行部数
ところで皆さん突然ですが、「ファンドマネージャー」という職業であるとか「株式投資」とかってイメージ湧く人いますか?
受講者:株を安く買って高く売るイメージでしょうか?
奥野:株式って毎日値段が付いているから、安く買って高く売ったりすることを繰り返す人、職業としてのファンドマネージャーは一般的にはそのようなイメージですよね?
もしくはそういうイメージすら湧かないかもしれませんが、私がやってるファンドマネージャーは、ちょっとそういうイメージとは全然違うんです
「投資ってそもそも何?」っていうような話を、まずお話しさせてもらいます。皆さんがこれから自分の人生を切り開いていくときに、どこかのタイミングで「投資」というものに必ず直面することになると思います。たとえ将来どんなことをやるにしても、私がこれからお話しする「大きな意味の投資」をいつかやることになるんですね。今日言ったことを将来のどこかで思い出してくれればいいなあと思います。
加えて、これからキャリアを作るときに、どのように考えればいいのか、これから将来どうなっていけばいいのか、ということも、僕の失敗談なんかも交えながらお話しできればと思っています。
儲かる「仕組み」を見つける
奥野:私はファンドマネ-ジャーという職業をやっています。
例えば、トヨタの株とかソニーの株とか色々な会社の株がありますよね。「株価が5,500円のときに買って、次の日に5,700円に上がった、そのときに売ったら200円分儲かりました」、というのが一般的な株式投資と思われているんですけど、私がやっている株式投資っていうのは全然違うんです。
そんな200円とか、短期的にちょっとの金額だけ儲けたぐらいで喜ぶような話ではないです。じゃあ何をやってるのかっていうと、本当にいい会社の株式を持ち続けて、その株の価値がずっと上がっていくのを楽しむことなんです。
「え、何を言ってんの?」って感じですよね。実は本当にいい会社の株というのはずっと上がっていくんです。例えば、コカ・コーラっていう会社があります。皆さん、この中でコカ・コーラ飲んだことない人?はい、みんな飲んだことありますよね。
ここで質問です。今世界の人口って何億人いると思いますか?
高校生A:70億?
奥野:すごい!これをちゃんと言える人は、実はそんなにいないですね。
1990年代、ちょうど今からいうと20年ぐらい前の人口って、これがだいたい65億人ぐらいなんですよ。そこからものすごい勢いで増えているのですが、今77億人なんです。皆さんぐらいの年になると炭酸飲料って絶対飲むことになるし、飲んだことない人はいないはずです。ところで日本にいるといろんな種類の炭酸飲料がありますよね。
例えばキリンさんもありますし、サントリーさんもあるし、コカ・コーラもそのうちの一つですね。でも海外に行くと、コカ・コーラかペプシか、ドクターペッパーちょっとあるだけなんです。もう3社でほとんど寡占されている、決まっちゃってるんです。
なので、コカ・コーラを100円で買うと、そのうちの20円がコカ・コーラの利益に「チャリーン」と落ちる。すごくないですか?100円売ったうちの20円がコカ・コーラの利益として残るんです。
何故コカ・コーラがこんなに儲かるかというと、先ほど言ったみたいに、コカ・コーラの向こうを張って炭酸飲料なんか作っても、あんまり儲からないからみんなやらないんです。それが炭酸飲料業界の「構造」になっていて、コカ・コーラは20円儲かる「仕組み」になっているわけです。
最初に言ったみたいに65億人の人口が77億人、90億人と増えていく中で、必ず炭酸飲料を飲む人は増えていきます。人口が増えれば、炭酸飲料飲む人がやっぱり増えるじゃないですか。そのときにコカ・コーラとペプシしか選択肢がない。半分以上の人はコカ・コーラを必ず買う、というのが、「コカ・コーラがずっと儲かる理由」なんです。しかも20年前から今に至るまでずっと儲かり続けている。そういう会社を見つけて、そういう会社のオーナーになったら嬉しくないですか?
企業の「オーナー」になる
ところでオーナーという発想は分かりますか?
いわゆる「持ち主」になるということです。例えば海士町のフェリー乗り場の前のところで、イタリアンレストランを開業したい考えたとします。
あそこの前の土地を借りてレストランを建ててシェフを雇って厨房機器を入れて、そこのレストランの「オーナー」になると想像してください。
みんなレストランに行くと、レストランでシェフがいろいろ作ってくれるじゃないですか。でも、シェフ自身はレストランで雇われて料理を作っているだけで、レストランの「持ち主」ではないわけです。レストランの「持ち主」っていうのは、また別にいるんです。
もちろん、この作る人である「シェフ」は確かに重要なんですけれども、一番儲かるのは、実はその「オーナー」なんです。このレストランが儲かったときに、必ずその利益を取るのが「オーナー」だから。
先ほど出てきたコカ・コーラの場合であっても、コカ・コーラというビジネスが本当に儲かるんだったら、その事業の「オーナー」になればいいというのが、実は「株式を持つ」ということで、もっと言うと「株式に投資をする」ということなんですね。ここまでちょっと難しいですか?
高校生A:何となくわかります。
利益は問題解決の対価
奥野:なかなか難しいですよね。実はお金を会社に投資をして、会社がしっかり利益を出していたら、その「オーナー」である「投資家」が儲かるという構造になっているのが、「株式投資の世界」なんです。
どんな事業をやるときでも、利益を出さなきゃいけないですよね?利益が出ないものっていうのは長く続かない。利益を出さないで事業をやるということはとても難しい、難しいというかずっと持続的に続くことはなかなかないわけです。
日本人は「利益を出す」っていうのが、ものすごく後ろめたい気持ちになったりするじゃないですか?「たくさん儲け過ぎたら悪いんちゃうか」とか、「高く売りつけちゃったんじゃないか」とかって思って気を病む人って結構多いんですけど、私に言わせると全然気にする必要ない。
何故か?それは利益というのは客さんが満足をした結果、対価として付いてくるものだからです。だからたくさん儲かる会社は、たくさんの大きな問題を解決したっていうことなんですね。
例えばナイキっていう会社ありますよね。今年の1月、去年の12月でも、テレビで駅伝を見ていると、みんなピンクの厚底シューズを履いてませんでしたか?あれ、ヴェイパーフライと言われているナイキの厚底シューズを履いてたんですね。去年の箱根駅伝では8割以上のランナーがこのシューズを履いていたと言われてます。
元々長距離を走る人っていうのは、薄くて軽いシューズが一番いいと言われてたんです。そんな中、一昨年あたりから、ナイキがこの新しいシューズを作りました。あの厚底の中には実はカーボンプレートが入っていて、その反発力を利用することで、ランナーの体力の消耗を数%だけ軽減することができるようにしたんですね。
これは短距離や100メートル走を走る人にはほぼ関係がないわけですが、42.195キロ走る人にとってみると、ほんの数%軽減するだけで、圧倒的に体力が温存されるんです。だからヴェイパーフライを履いている選手がどんどん記録を塗り替える。
ナイキは何をやったかっていうと、マラソン選手が「体力をいかに温存するか」という問題を解決したっていうことなんです。僕が「問題を解決する」っていうのは、そういう意味で言ってます。
その対価であるヴェイパーフライの値段は普通のシューズよりも随分高いです。でも、それを履いて走ることで人よりも体力の消耗なく速く走れるならばその方がいいということで、喜んでお金をたくさん払うわけです。お客さんがお金をたくさん払うと、ナイキは他の会社よりも儲かる。これが、企業が「儲ける」という仕組みです。
「体力の消耗を少なくして速く走りたい」というランナーの問題を解決するために、膨大な研究をして、誰も作らなかったあの厚底シューズを開発して、それを作って売ることで儲けています。
ナイキは1960年代の後半に作られた会社ですけれども、このようにずっと継続的に問題を解決してきて、その利益を少しずつ継続的に積み上げてきたんですね。これがナイキの利益の額です。ずっと上がってますよね。
要はアスリートの問題を解決しているわけですが、アスリートの数もどんどん増えているんです。今、先進国の人たちの10%がマラソンをします。どんどん増えてます。というのは、やっぱり人間って長生きしたいですよね。皆さん、長生きしたいですよね?でも、動けなくなってでも長生きしたいと思います?
受講者:思いません。
奥野:そうですよね!みんな「健康で長生き」したいんです。健康で長生きしたいから、走り始めるんですね。
日本でも昔は2-300万人しか走っていなかったんですが、今は1千万人ぐらいの人たちが走るようになってます。日本でも10%ぐらいの人たちが走るようになっています。先進国だと、だいたい人口の10%がランナーになっていく、その比率っていうのもどんどん増えていくんです。
それが世界の人口、さっき77万億人っていう話をしましたが、これからいわゆる発展途上国の人たちも、どんどん富が蓄積していって、先進国化してくる。先進国並にまではいかないまでも、ある程度富が蓄積してくると、やっぱり同じように、「健康で長生きしたい」と思うようになるわけです。人口はこれからもずっと増えていきますけれども、そういったシューズを履いて、マラソンをしたいっていう人も大きく増えるわけですね。
利己と利他の調和
奥野:それが今までずっと続いてきているのでナイキの利益がずっと増え続けるわけです。皆さんは馴染みがないかもしれないですけど、長い目で見ると、企業の利益が増えれば必ず株価も上がります。だから、ナイキの株価っていうのもずっと上がり続けているわけです。
例えば、この辺りで買った人は、いま多分普通に30倍、40倍以上になってますね。ここで1万円で買ったものが、30万円、40万円になってる。これが、「ナイキのオーナーになる」ということなんです。
ナイキが儲かるとそのオーナーである株主というのは、同じように株価が上昇することで儲かります。儲かるというか、「豊かになります」と言った方がいいかもしれないですね。
それと同時に、自分が金持ちになるだけではなくて、ナイキがマラソン選手の問題を解決するわけです。その対価がナイキのさっきの縦棒グラフの利益なわけです。ナイキがたくさん儲かるということは、たくさん社会の問題を解決したということだし、儲け続けるということは、ナイキという会社が社会のためにずっといいことをし続けてきたということの結果なんですね。
つまり「ナイキのオーナーが儲かる」っていうことは、社会もちょっとずつ良くなっているということなんです。株式投資というと、「自分の儲けだけしか考えてないんちゃうの?」「そんなことやって、なんか意味あるの?」っていうふうに思う人も多いわけです。
「自分さえよければいい」というのは、熟語で言うと「利己」ですね。「投資は利己的な行為だ」と思う人がいたとすると、その人に対して言いたいのは、「ナイキに投資をして利己心を満足させると同時に、ナイキがちゃんと儲けることで社会も良くなってるんだ」ということです。
これは「利他」ですね。利己の反対です。利己と利他っていうものが、ある意味調和した状態、そういうものを作っていくっていうのが資本主義の本質なんだと思います。
皆さんは、好むと好まざるに関わらず、資本主義という世界にいます。資本主義っていうのは、そういう利己と利他というのが、うまく調和して、世界が良くなっていくという動きなんですね。
資本主義の本質
奥野:例えば有名な話で言うと、もしライト兄弟が単に「飛行機を発明しました」っていうだけだと、今、皆さんが普通に飛行機に乗るほど豊かな世界にはなっていないはずです。飛行機というものが発明されただけでは、世界は変わらないんですね。
そこに「投資家」がいて、「この飛行機という技術はすごい。これに投資したらすげえ儲かるんじゃない?」と考えた。もちろん実際にそういう人は儲かったはずなんですけど、お金を出す投資家の存在があって初めて飛行機をたくさん作ることができるようになったわけです。
ライト兄弟が飛行機を飛ばして100年以上たってますけれども、今は世の中が随分便利になっている。これが資本主義という考え方です。資本主義には確かに悪い面もありますよね。貧富の差が拡大してるとか、よく新聞に書かれるような話もありますが、実は資本主義というのは、そういう「社会を良くする」仕組みでもあるのです。
だからよく歴史書なんかでは、「資本主義というのは、人類の近代における最大の発明」と言われるわけですね。いろんなものが実は資本主義によって便利になっている、住みやすくなっているっていうのは、そういう側面がある。
それをちゃんと促進する動きが、「投資」ということになります。「投資」というのはいったい何かというと、「オーナーになることで儲ける」とともに、繰り返しになりますけれども、「この企業が社会の問題、お客の問題を解決していくので、みんなで幸せになりますよね」という概念です。
一流経営者を部下にする
奥野:じゃあオーナーになるって、やっぱりイメージ湧きにくいかもしれないですね。
面白い話をしましょう。ここに世界の一流の経営者がいたとします。例えば、ボブ・アイガー、これディズニーの会長です。
ディズニーランド行ったことある人?みんな行ってますよね。ディズニーランド行くと、お父さん、お母さんは皆さんに対して、ご飯代やお土産代も含めると大体1万2-3千円くらい払うことになります。1日でですよ。
それぐらいディズニーランドに払うわけですけど、ウォルト・ディズニーっていう会社、これ上場しているので、同じ1万数千円でこの会社の株を1株買うこともできます。それによって「自分はウォルト・ディズニーのオーナーです」って言うことができるんですね。
これで何が起こるかというと、ミッキーマウスが世界中で踊りまくって、みんなから1万2千円ずつ集めてくれるんです。その一部は「オーナー」である皆さんのものです。株を買うということは実はそういう行為になるわけです。ミッキーマウスが皆さんの部下になるというのが、ディズニーに投資をするという本当の意味なんです。
ところでさっきのボブ・アイガーですけど、彼はウォルト・ディズニーの社長として現金報酬だけで年間20億円もらってるんですね。これを時給換算するとだいたい100万円ですね。年間200日、1日8時間ぐらい働くと、時給換算で100万円!すごいと思いません?
うちの大学生の息子に話をするんですが、例えば彼がマクドナルドでアルバイトをすると、時給がだいたい1,000円です。でも、ディズニーの株を買うことで、時給1,000円の人間が時給100万円の人間を部下として使うことができる、オーナーになるというのはそういうことなんだ、と。
さっきの例で言えば、イタリアンレストランのオーナーになったら、そこのシェフを部下として使うことができるというのが所有者ですよね。
株式投資も同じです。「時給1,000円の人が、時給100万円の人を使うほぼ唯一のやり方」が「株式投資」なんです。痛快だと思いませんか?
受講者:素晴らしいと思います!
(中編につづく)