いかにしてデザイン組織をデザインするか <DesignOps 生い立ち編>
デザイナーが所属するデザイン組織(部門)は、他のどの部門よりも洗練された(クリエイティブな)環境で仕事ができる。逆に言えば、そうであってこそセンスあるアウトプットが出せる・・・
しかし、たいていの場合、そんなことはない。
システムインテグレーターがセキュリティ雁字搦めの環境に閉じ込められ、広告代理店が自社のブランディングをロクにできないように、多くのデザイン(もしくはそれに準ずる)組織は自身の仕事をデザインできずに“真っ白な袴”を履いている。
昨今の「デザイン経営」というキーワードの浸透によって、良くも悪くも“デザイン”が受容され、そのスコープ(期待値)が拡張すればするほど、このギャップは大きくなるばかりである。
そこで注目されているのが「DesignOps」(デザインオプス=デザイン運用)である。
DesignOpsとは
前回のエントリ「トランスフォーメーションを阻む3つの壁」のなかで
いかに“日常回帰”するか、すなわち「デザイン」を業務に組み込み、持続的に運用する必要性について言及した。
「デザイン」が経営に採り入れられ組織化されたときに、それをどのように運用するべきかについて実践的にまとめた取り組みがDesignOpsである。
Dave Maloufというインタラクションデザイナーを中心にDesignOps HandbookとしてまとめられたドキュメントがinVisionというオンラインツールベンダーのサイトに公開されている。曰く
つまり、DesignOpsとはデザイナーがクオリティの高い仕事をするためのメソッドやプロセスも含めたありとあらゆることを対象にしている。デザインをより価値あるものにするために、属人的ではない組織的な取り組みを目指すものである。そのうえで、属人的な能力を発揮すべき領域へのフォーカスを高めて、存分に本来の仕事をするのだ。
「デザイン」の特性
DesignOpsのHow toではなく、そのコンセプトを理解するべく、まずはそれがどのように発想されたのかを知ることは大切だと思う。そこでHandbookを読み解いていきたい。
Maloufは最初に、デザインとは次の3つの特性を持つと言っている。(カッコ内は私の大いなる意訳)
Serendipity by design(非連続な思考)
The culture of interruption(ときにはトラブルメイキング)
Deconstructive creativity(ちゃぶ台返し)
様々な人が様々な観点から口を挟んで建設的に批評し、解体と構築を繰り返し、ときに偶発的な相互作用によって新しいアイディアを生み出していく。
ユーザー中心設計と相まって組織にHuman understanding and empathy(人間理解と共感)をもたらす実践者となる。まったくもって相違ないだろう。
Maloufは、Savannah College of Art and Designのインダストリアルデザイン学部でデザインを教える立場になる。そこで、システムデザイン思考に傾注し、Design for sustainabilityを考えるようになる。
アジャイルとのミスマッチ
ソフトウェア開発の手法としてアジャイルアプローチが受け入れられ、大きな成果をあげている。アジャイルアプローチとは「組織横断的なチームが協力してプロジェクトに取り組み、小さなサイクルを回しながら開発を進めていく手法」である。
Maloufはアジャイルが製品開発現場で主流になったことにより、デザインが劣勢となり、デザインの価値が後退したと言う。デザインをStudio Cultureとして次のようにアジャイルと対比している。
アジャイルはウォーターフォール型の開発から脱却し、実装することに重きを置いているとはいえ、課題解決のためにリスクを抑えて正しく進めるという点においては同様であり、前述した3つのデザイン特性を体現する態度とは相容れない部分もある。
デザイナーがエンジニアに最適化された環境で働くことで、デザイナーは孤立し、その仕事が矮小化され非効率になっている様子を目の当たりにしたMaloufは、クラウドベンダーでデザインオペレーションに取り組むことになる。彼はこの時点での問題として次のように言っている。
開発者やプロダクトマネージャーは、製品が予定通りに出荷されたかどうかで成功を判断し、ユーザーのニーズを満たしているかどうかでは判断していないという。
いや、言い過ぎやろと反論したい方もいるだろうが、ともあれうまくハマってなかった、と。
DevOpsとLean Startupとの出会い
そんなときに彼はDevOpsとLean Startupを学ぶことになる。
DevOpsとは、アジャイルアプローチが「開発」にフォーカスしているのに対して、その後の「運用」もスコープに入れて、開発チームと運用チームとでツールや人、手法を連携し、アプリケーションやサービスの開発実装スピードを上げる取り組みである。
DevOpsにもそのエッセンスは包含されているがLean Startupとは、製品やプロダクトの方向性が有効かどうかを判断するために、実験として小規模なスコープで検証することでビジネスリスクを低減しながら前進させる取り組みである。
これら2つを組み合わせることでアジャイル開発サイクルは、素早く反復的に学びを得ながら品質を上げていく活動へと昇華し、デュアルトラックアジャイルとして実践的にまとめられることになる。
つまり、ユーザーに検証されたアイディアを届けるDeliveryトラックに、そもそものアイディアの仮説を立てるDiscoveryトラックが加えた2つのトラックを並行して進めるわけである。
デザイナーとしてのコミット
ここにデザイナーはいかにしてコミットするべきか。デザイナーの“探索”という観点を加えるために、Maloufは3つ目のトラックを追加した。それがUnderstandingトラックである。
Understandingトラックはユーザーニーズとインサイトから「正しいもの」をつくることを意識したものである。(正しく作る前に)
これはまさにデザイン思考のダブルダイヤモンドと対応するものであるが、1stダイヤモンド(左側のダイヤモンド)である「Discover」と「Define」を包含し、2つ目のトラックである「Discovery」は、1stダイヤモンドから2ndダイヤモンド(右側のダイヤモンド)にも掛かるようなポジションにあり、「Delivery」トラックは2ndダイヤモンドの「Develop」から主に「Deliver」に位置づけて理解するのが良いのではないかと思う。
デザインのオペレーション
DevOpsという開発者にとって最適な環境を整備する取り組みに触れてきたMaloufは、デュアルトラックからトライトラックに発展させ、デザイナーにとって最適な環境を志向し、実践を通してDesignOpsへと進化していく。
DesignOpsで目指す
「デザイン(そこにコミットする人)の価値を高めること」
という活動は、デザインのスコープが拡張され、関わる人のバックグラウンドが多様になり、イロ・モノ・カタチを作って整えるだけではない様々なデザイナーがパフォーマンスするための最適な環境を全体最適で考えている。
本当に価値を発揮すべき領域に、意識的にフォーカスして、コミットすることが重要である。Maloufがいうところの
これは二項対立を煽り、Craftが不要と言っているのでは決してない。
プロフェッショナルとは何なのか?
プロジェクトワークを適切に遂行することは当然としても、効率化されているとは言い難い勤怠管理や請求書タスクをそつなくこなす“優等生”を求めるのは“組織の偉い人”であって、そんな“そつのないデザイナー”が、果たしてデザイナーのあるべき姿なのかどうかは一考の余地があると考えている。
そこには冒頭「デザインの特性」で触れたDesign for sustainabilityが根底にあると解釈している。サステナブルな事業やサービスをデザインするのはもちろんだが、そのためにはそのデザインそのものがサステナブルでなくてはならない。
今回はDesignOpsの思想を読み解くべく変遷を辿ったので、すこし抽象的な内容になってしまったが、次回は、より具体的にDesingOpsの中身を読み解いていきたいと思う。