お仕事アクティビティの捉え直し
なんとなく元の鞘に戻ろうとしている昨今。
ウチの会社でもリリースというか宣言っぽいものが出た。
個人的に振り返りが甘いと自覚はしているが、そんな人間ですらぬるま湯に感じるほどに、検証作業が苦手な企業に属している人間として、今一度、考えていることを言語化して、さらに取り組みを続けたい。
情報の解像度
Covid-19によってオフィスがロックダウンされて、否応なくいまだかつてないほどに在宅勤務が推進され、リモートワークのトライアルが社会全体として行われた。
そのフィードバックとしてよく言われるのが「オフラインでは得られる情報量がオンラインでは得られない」というものだと思う。実際、オンラインミーティングでは五感のうち聴覚と視覚だけが頼りである。嗅覚、触覚、味覚は得られない。さらには、第六感としての雰囲気やら気配やらもオンラインでは削がれるという人もいる。
確かにそれは間違いない。だけども、
「そもそもその情報は本当に必要なのか?」という疑問がある。
つまり、情報量すなわち解像度が高けば高いほど良いのか?ということである。多少乱暴にいうなれば、「映像コンテンツは4Kに越したことはない」って言うてるようなものではないのか。
“細かにあらゆる情報を取ってたら安心症候群”の最たるものではないのか?そんな疑問をあえて呈して考えてみる。
オフィス改革プロジェクト
インフォバーンでは、一昨年から昨年にかけて、オフィス改革プロジェクトと称して、オフィス改装を行っている。その際に、基本スタンスとして導入されているのは、ABW = Activity Based Workingである。仕事内容に応じて、働く場所や時間を自律的に決めるというものである。(参考:コクヨ)
フリーアドレス(最近はなんだかんだ固定化が進んでいたとはいえ)によって、この強制的な在宅勤務シフトを比較的スムーズに受け入れることができたことは、大きな異論はないと思う。
ただ、オフィス(フィジカルに対面すること、そのためのスペース)を起点にした思考であったことは否めない。
オフィス改革プロジェクトでは、なぜオフィスを改革するのか?から問いを進めて「なぜインフォバーンは存在するのか?(WHY)」を定義したうえで、それを実現する具体的な「オフィスのカタチ(WHAT)」を余白を残して実装し、社員やパートナーによって「どのように機能させ押し進めるのか(HOW)」をフラットに継続的かつ自律的な解釈を進めていくスタイルを試行した。
その後、想定どおりに進んだことと、まったく進まなかったこと、それぞれあるが今回の事態によって、なおざりになっていた事案が進んだことは、ポジティブに捉えることができる。
アクティビティの捉え直し
この機会に、まったくもって特別なことではないし、オフィス改革プロジェクトでも提示したものではあるが、「アクティビティ」について大きく3つにパターン分けして、さらにオフィスを起点としない発想で捉え直す必要がある。
1)“ソロ”ワーク
基本的に一人で取り組む仕事や業務。
企画をプレゼン資料としてまとめたり、インタビューを分析(“心の声”に耳を澄ます)したり、校正したり、請求書や領収書などのペーパーワークも含まれる。
2)“チーム”ワーク
チームで取り組む仕事や業務。
企画や事業のアイディアを考えたり、分析レポートを解釈したり、進捗を確認したり、そのフォローをしたり、ニューカマーや新卒メンバー、さらにはパートナーとのさまざまなプロジェクトワークが含まれる。
3)“ネット”ワーク
あえて、前出の“チーム”とは分けているが、具体的なプロジェクトにはなっていない社内外の人(さらには人以外も含まれていくかも)とのコミュニケーション。いわゆる雑談や飲みニケーションはここに含まれる。
これらを改めて捉え直す必要があると思うのは、フィジカルに人と会う価値について語るときに、アクティビティそのものを整理することなく、「実際に会って進めたほうが早い(ラク)」というのが、紛れこむことが多いように思うからである。
フィジカルに人と会う価値
たとえば、オフィスの価値として
・集中できる環境の提供
・偶発的な発想(いわゆるセレンディピティと呼ばれているもの)
が挙げられがちである。
しかし、これら二つは環境としては相反している。
集中したいのに、偶発的に話しかけられては迷惑でしかない。さらには、固定化したネットワーク(仲良しグループ)で、いつものスペースを陣取っていて、果たして本当に偶発的な価値を生むことができるのか。楽観的すぎるのではないか。つまり、セレンディピティを感じられる人の属人性に委ねすぎているのではないか。(これは新卒OJTにも通じる課題)
それらの疑問から、改めてアクティビティを整理する必要があるのではないかと考えた次第である。
ソロワークスタジオ
ソロワークで求めるものの一つは先に述べたとおり「集中」だろう。在宅では集中できないという人は少なからずいる。
ただ、そういうことであれば、電車に乗ってオフィスまで来なくても、チャリで行けるコワーキングスペースや近所の図書館で十分ではなかろうか。
集中するためにわざわざオフィスに行くというのはもはや効率が悪すぎないか。(職住近接でオフィスが近所って場合には良いだろう)
ただ、他に求めるものがある。それは「設備」であると思う。
広大なグリーンバックで全身ウェビナーができるとか、3Dプリンターやレーザーカッターがあってプロトタイプができるとか、遠隔地を繋ぐホワイトボードがあるとか、超ワイドなディスプレイで校正作業ができるとか・・・。
すなわち、「特定ワークのためのスタジオ機能」はオフィスの価値と言えるのではないか。
チームザラザラワーク
「実際に顔を合わせた方が進めやすい」というのは間違いないが、これが“新しい仕事”でなければ、もはや怠慢でしかないとも思える。
つまり、顔を合わせて進めなければならないということは、その仕事が“仕組み化”されていないということであり、仕事の進め方を根本的に見直すべきであると思う。もしかすると、このことを無意識的にも察知するからこそ、オジサンたちはよりラクな“これまでの仕事の進め方”に戻そうとしているのかもしれない。
この”仕組み化”はとりもなおさずいわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれているもので、Digital Opitimization(デジタル最適化)ではなく、Digitalを前提にした変革という意味では、Digitally powered Transformationのほうがまだ誤解がないようにも思うが、さておき“仕組み化せずともイイ感じに仕事が進む”ってのはオフィスの価値ではないし、そうしてしまってはDXがまた”お題目”に逆戻りである。
しかし、「まったく新しい仕事を作る」ということについては、冒頭の“第六感”が必要になると思う。
前者と後者の違いは、「摩擦(スムーズとザラザラ)」であるのではないか。仕組み化してスムーズに進むべき仕事はオンライン、対して、新しい仕事とは衝突や議論を生むものであり、ザラザラしてナンボである。
オンラインはザラザラには向いてない。オンラインに「喧嘩のあとに笑い合える土手」はなかなかない。
撹乱セレンディピティネットワーク
“ネット”ワークは“会う価値”の総本山とも言える。メタファーとして頻出する「カフェとしてのオフィス」もほぼここにあるのではないかと思う。
ただ、「人が集まれば価値が出る(価値あるものが生まれる)」というのは、楽天的すぎるのではないかと思う。つまり、何かが起こるのを期待するのみの“受け身のセレンディピティ”では、オフィスの投資対効果として見合わないのではないだろうか。
かといって、「能動的なセレンディピティ」ってよく分からない。いや、なんならウザそう。
そこで最近知った受動態でも能動隊でもない「中動態」ってのが良さげなのだけども、ともあれ何らかの仕掛けが必要であると思う。
(注: 受動態は中動態のひとつであるとはいわれている)
たとえば、
・固定席完全禁止(シャッフル)
・そもそも出社日も席もランダムに指定される(シャッフル)
・なんだったら、ログインするには隣の人の助けがいる
くらいの強制撹乱装置としてのオフィス(場)は、“中動態”的と言えるかもしれない。(上記はあまりに短絡的で極端だけど)
ユーザーの意図を汲むパーソナルエージェント(たとえばSiriのスゴイやつ)同士がネットワーク化されて、まるでランダムに決められたような席で、運命のように仕組まれた雑談を隣の人とするのかもしれない。
さよならエスパー
オフィスで感じられる第六感をフル稼働させて社内コミュニケーションして、クライアントのオフィスで察知した隠れた課題感からRFP以上の提案をする(してきた)というのは、そうありたいと願う幻想なのではないかと(大いに)自戒を込めて思う。
情報の解像度を決めるのは、コチラではなくアチラであり、高い解像度によって知ったかぶりをする時代は終焉させられたのではないか。
会議が終わったあとに、クライアントはポロッと本音を言うものだとよく言うが、それはオジサン(俺)が物欲しげに見つめてくるから、場つなぎで喋ってるだけでした、ごめんなさいってことちゃうのかな。なんつて。
働き方のトラブルメイキング
IDLはプロフェッショナルなデザインチームとして、振り子を元に戻すのではなく、より批判的に、トラブルメーカーとして捉え直していこう、もっともっと実験して、まだ見ぬ地平を目指そうということを、オンラインチームチャットにて見解の一致をみた。(京都にオンライン党の党首がおられるので心強い。ちなみに、その昔、彼のヘアスタイルは正岡子規であったが、これからオードリー・タン氏を目指すそうだ。しらんけど。)
セレンディピティをデザインし、イノベーションの触媒としての価値を出すべく、自分たち自身を実験台にしていければと思う。
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