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COMME des GARÇONS HOMME のウールギャバパンツ【着る】

 服を着る、ということは、今日何をするか、ということなので、あるいはまた、これから何を食べるか、ということとも全く離れているわけではないので、それはつまり、私がどうしたいか、私という人間としてどうありたいかを、いわば選択することなのだと思う。

 あなたがさっき手に取った一枚の服は、今日のあなたの行動の伴侶であり、世界との距離の測り方であり、また逆に街の人々があなたを見る際の手がかりであり、例えば清潔な白いシャツを着ることは今日はカレーうどんを食べないことを自身に課すことであり、その第一ボタンを閉じることは首元をきつくすることであり、袖をまくるときはカフスのボタンを外さないといけないのであり、「誠実な人」像を勝手に与えられる可能性がやや高まることであり、つまりあなたが着る服によって、あなたの行動は規定され、あなた自身の輪郭(外面の輪郭も内面の輪郭も)が浮かび上がってくる。

 「普通」の服を着たい。地味な格好をしていたい。都市生活に調和しながらも精神的に明確な個を持つ人でありたい。外見の記号としてではなく私の内面を浮かび上がらせる服。私が私であることを邪魔しない服。私を前へと推し進めてくれる服。「着心地がいい」とは必ずしも「楽である」とはイコールではないと思う。それはつまり、あなたの今日の行動の選択にとって相応しい服であって、その選択に合致した服のことだ。

ウールギャバパンツ

 COMME des GARÇONS HOMME のウールギャバパンツ。細身のストレートシルエット、鈍い光沢をもったウールギャバ素材、折伏縫いによるパッカリング。
 あなたはこのパンツを履くとき、どんな行動をとるだろう。それは人それぞれなので正解は一つではない。でも無限でもない。これを履いて就寝するにはいささかタイトすぎるからだ。

 私の場合、このパンツを履くと、東京の街を歩きたくなる。タイトなパターンによって、ヒップがキュッと持ち上がる。ウール素材なのでナチュラルな伸縮性がある。そして裾のシルエット。ストレートシルエットにより、ややフレアして見える。裾幅に余裕があるので歩くと裾が揺れる。この揺れが心地いい。柔らかく揺れるのは、やはり素材がウールだから。裾は8cm詰めた。私の身長だとハーフクッションほど。裾の処理は三つ折り。裾からステッチ位置までの幅が広い。

折伏縫い
裾のステッチ

 決して「楽な」パンツではない。歩きやすさだけで選ぶのだったら、もう少しゆとりがあるパンツを選んだ方がいいのだろう。

 重要なことは、歩きやすさのために服を選ぶのではなく、むしろその逆で、選んだ服によって歩きたくなる、ということ。

 それは、服が持つ機能だけでは語れない。服がもたらすイメージも行動に作用する。この服がもたらすイメージ。私にとってそれは、「若さ」だったり「アクティブ(あるいは「スポーティ」)」だったり、「都会」だったりする。

 それらのイメージと機能が混ざり合って私にある種の行動を惹起させるのである。(あるいは、服としての機能がイメージを作り上げるのかもしれない。)もしこれが折伏縫いでなかったら、裾の処理がまつり縫いだったら、裾が揺れなかったら、硬いコットンだったら、ダボっとしていたら。「東京を歩きたい」という気持ちは湧き上がってこなかったかもしれない。

 「歩く」以外なら。このパンツを履いて何を食べたいか? パティが肉厚で野菜がたっぷり、ナイフとフォークが一緒に運ばれてくるタイプのボリューム満点のハンバーガーが食べたい。

 何と合わせようか。今の季節なら。
 トップスは白杢のスウェットシャツ、その上にスイングトップを羽織る、足元はスニーカー。全体をスポーティな要素でまとめてみよう。
 全体のシルエットで言えばタイトだ。リラックス感はあまりないかもしれない。でも歩きたくなる。街を突っ切って。

 では、このアイテムはスポーティに特化したアイテムかというと、いや、そんなことはない。

 ウールギャバはスーツに使われることも多い素材だ。そしてすっきりとしたシルエット。上にシャツを羽織ればほどよいドレスダウンが楽しめる。また、このアイテムは同素材のジャケットとセットアップで着ることもできる。本来はオムが提案する「スーツ」(つまり、ドレス)なのであって、当然シックなスタイルにもマッチする。

オムのシャツの記事でも書いたが、ドレスの要素はどこまで残すか、カジュアルの要素はどこまで入れるか、この選択の集積こそがオムの真骨頂であって、デザインの秀逸さもさることながら、色んなスタイルに合う懐の深さも持ち合わせている。

 オムのアイテムの基礎はベーシックにある。それはつまり、上質な普段着であって、また着飾りたいときの一張羅にもなる。月並みな表現になってしまうがワードローブに一着は入れておきたいアイテムだ。

オムのタグが好きだ
無印良品の服ブラシとともに

 最近ギャルソンのことばかり書いているな。
 服作りについても書きたいのだけれど、最近は少しやることがあって(服作りはまとまった時間にガーっと進めたい性分)、でも1,2週間に一回くらいのペースでは更新したいので、しばらく手持ちの服についての記事が多くなる。ギャルソンの服はあと1着かな。今のところは。再度プリュスのシャツについて書くことも可能。(そしたらあと2着だ。)

 ただ、単に紹介するだけなのも芸がないので、今回は「服が着用者の行動を規定する」という視点で書いてみた。

 あー、同型のウールトロも欲しいし、ワンタックの型も欲しいなあ。ジャケットも欲しいよ。セットアップで着て、何をしようかな。

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