
【少し脱線】トランプ政権と為替市場
2025年1月20日にトランプ氏が第47代アメリカ合衆国大統領として就任式で演説を行います。前提として、為替相場は米国の金融政策(FRBの金利動向)や日本の金融政策(日銀の金融緩和)、世界的な景気動向、地政学リスクなど多岐にわたる要因の影響を受けます。そのため「トランプ政権になったからドル円が必ずこうなる」というように単純には言えませんが、相場に大きな影響を与えるのは間違いありません。今回は少し脱線して、トランプ氏が大統領に就任(2017年)してから退任(2021年)するまでのドル円相場を振り返っていきます。
1. トランプ政権下で重視された政策とドル円への影響
大型減税・インフラ投資への期待
2016年の大統領選後、トランプ氏の掲げる「大型減税」や「インフラ投資計画」による景気拡大が期待され、金利上昇とともにドルが一時的に買われました。
実際、2016年末〜2017年初めには、ドル円が約100円台から一気に118円付近まで急伸した局面もあります。
保護主義的な貿易政策・米中貿易摩擦
トランプ政権は関税引き上げや中国への強硬姿勢など“貿易戦争”とも言われるような政策を取りました。
こうした貿易摩擦が激化するとリスク回避が高まりやすく、結果的に円(いわゆる安全資産の一つと見なされる)が買われてドル円が下落する局面もありました。
FRBの金融政策(利上げ/利下げ)
トランプ政権時代、FRBは一時利上げを進め、その後景気減速リスクや貿易摩擦の影響から利下げに転じました。
ドル円は金利差が意識されやすく、米国の利上げはドル高要因、日本の超低金利や量的緩和は円安要因になりやすい、というのが一般的な見方です。
地政学リスク・世界景気動向
トランプ政権下で北朝鮮問題や中東情勢が緊迫した時期には、リスク回避の円買いが進行することもありました。
一方、世界の景気拡大期には株価が上昇して投資リスクを取る動きが強まり、ドル円が上昇(円安)する展開になることもありました。
2. トランプ政権下でのドル円の値動き(概観)
2016年末〜2017年初め: 「トランプ大統領誕生 → 減税・インフラ投資期待 → 米金利上昇 → ドル買い」で、一気に円安(ドル円上昇)が進行。
2017年後半〜2018年: 一進一退の動き。減税などの実行が進む一方、北朝鮮問題の緊迫化や米中貿易摩擦への警戒感が高まり、株価・ドル円ともに乱高下する場面がみられた。
2019年: 米中貿易摩擦が本格化。関税引き上げ合戦の影響で景気減速を懸念したリスク回避が強まると、円高(ドル円下落)方向に振れることが多かった。
2020年: 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的拡大に伴うパニック相場が発生。ドルが急騰→急落する中で、リスクオフ時には円買いが強まるケースが目立ち、ドル円相場は乱高下した。
3. 今後のドル円の変化を考える上での主要ポイント
米国の金融政策(FRB)動向
たとえ政権がトランプ氏であろうと、バイデン氏や他の大統領であろうと、FRBの金利見通しやバランスシート縮小・拡大といった金融政策の方向性が、ドル円に大きく作用します。
米国の財政政策(減税・インフラ投資など)
追加の大規模財政支出や減税が実施されると、インフレ期待が高まり金利が上昇しやすく、ドル買い要因になります。
逆に「財政赤字拡大への懸念」で長期金利が上がりすぎると、株価が下落してリスク回避が進む場合もあるため、相場の動きは一筋縄ではいきません。
米国以外のリスク要因(地政学リスクなど)
依然として地政学リスクや新興国市場の混乱、世界経済の成長鈍化などが見込まれるときには、投資家がリスク資産から逃げて円(安全通貨とされる)に資金を移す場合があります。
日本の金融政策や経済状況
日銀の超低金利政策が続けば、長期的にはドル円を下支え(円安方向)しやすい要因となります。
しかし日本国内の景気後退リスクが意識されると、リスクオフの円買いが起こる場合もあるため、一概に「日銀緩和=円安」で動き続けるわけでもありません。
まとめ
トランプ政権下(2017~2021年)のドル円相場は、減税・インフラ投資期待によるドル高や、米中貿易摩擦や地政学リスクによるリスクオフの円高など、ポジティブ/ネガティブ要因のせめぎ合いで上下動が激しい展開となりました。
為替相場は、政権の政策だけではなく、各国の金融政策や世界経済動向、地政学リスクなど多くの要因に左右されます。トランプ氏の政策が好感されてドル高になる場合もあれば、同時に高まる保護主義的なリスク回避の流れによって円高が進むこともあります。
結局のところ、政権の交代そのものが長期トレンドを決める唯一の要因ではなく、政策内容が市場の「金利見通し」や「リスク選好度」にどのように影響を与えるかが大きなカギとなります。今後もドル円は、米国の金利動向・貿易政策・世界景気の強弱・地政学リスクなど多面的にチェックしていく必要があるでしょう。