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会社名「ヌシヤ」に対する想い

 「ヌシヤ」という会社名を聞いただけで、漆器業界に精通している方々にはピンとくるかもしれません。しかし、“塗師屋(ぬしや)”が何かを知らない方も多いのではないでしょうか。
 輪島市の漆器業界には「塗師屋」という存在があり、かつては輪島市内にも何件もの塗師屋が看板を掲げていました。
 塗師屋とは、漆器の企画から製造、販売までを手掛ける、いわば漆器のプロデューサーと言われています。お客様のニーズを把握し、商品やイベント・催事の企画を行い、職人たちと共に製造やデザインを考え、スケジュール管理や価格調整を行いながら、最終的に商品を全国のお客様の元へ届けます。
 塗師屋は漆器に関するあらゆる知識を持ち、製作の一連の流れを全て把握しています。言うなれば、塗師屋は漆器のスペシャリストです。
 
 私の会社名「ヌシヤ」は、そんな漆器のスペシャリストの塗師屋に憧れ、そうなりたいという想いを込めて名付けました。
 
 塗師屋さんは、個性豊かな方々ばかりです。
 漆に徹底的にこだわる塗師屋、新しい漆の素材や技法を生み出す塗師屋、デザイナーとともに革新的なデザインに挑戦する塗師屋、木製素地以外のアイテムに漆を施す塗師屋、業務用漆器を得意とする塗師屋、額や絵画など美術品の制作を行う塗師屋、仏具を手掛ける塗師屋、現代のライフスタイルに合った日用品を作る塗師屋、作家の作品を扱う塗師屋など、そのスタイルは実に多彩です。
 どの塗師屋も、それぞれの哲学と技術を持ち、一つとして同じ塗師屋はありません。
 現在、多くの塗師屋では製造を外注に出すケースが増えてきており、形態も各事業者ごとに様々です。しかし、オンラインショッピングやその他のツールが普及した現代においても、塗師屋は今もなお、全国を回り、直接お客様に商品を届けるために大きな車で営業する姿を見かけます。年のほとんどを輪島市外で過ごしながら全国を巡る塗師屋たち。大変な仕事だろうと思い、声をかけると、ある塗師屋はこう言いました。
「誰かに販売を任せてもいいんだけどね。でも、お客様と直接話すと元気が出るんだ。」その言葉を聞いて、私はなぜ彼らが自ら行商の旅を続けるのか、少し理解できたような気がしました。
 しかし、東京にいると、まだ多くの人が「輪島塗って何?」という反応をします。「輪島塗っていいものだと知っているけれど、実際に触ったことはない」「どこがいいのかよく分からない」といった声をよく耳にしました。塗師屋たちが全国を巡って広めているにもかかわらず、輪島塗がまだ十分に知られていない現実を改めて実感しました。
 
そして私は「ヌシヤ」として、輪島塗を広める活動をしようと決意しました。漆器のスペシャリストである塗師屋のサポーターとして、漆器の魅力を全国に伝えていきたい。

 それが私にできること、私なりの「ヌシヤ」としての役割だと思っています。
 
だからこそ、私は「塗師屋」ではなく、「ヌシヤ」と名乗るのです。