ルックバック

大学時代の後輩、井上に贈る。

井上との出会いは僕が大学4回の時に掛け持ちのバイトとして初めたガストだった。

僕はルームサービス(デリバリー)で井上はキッチン。

普通に行けば仲良くなることはない。だが、僕は一人暮らしということもあって賄いをよく食べていた。必然的に井上に賄いを作ってもらうことになる。

だがその日は店自体が忙しそうで賄いを作る暇もなさそうだったので頼むのをやめた。

そのまま上がろうとしていたら、井上も同じ時間に上がって来た。

「今日は賄い食べないんですか?」

あまり人と話さなさそうな見た目だったので、そのように話しかけて来たことに驚きながら、今日は忙しそうだったからやめとくわ、と伝えた。気にせずいつでも作るんで次から言ってください、と言われそこから仲良くなっていった。

話初め当初はバイト先で少し話す程度だった。というのも、井上には彼女がおらず、僕には彼女がいたからだ。飯くらいは行ったもののそこまで遊んだりする仲ではなかった。

しかし、僕の就職が地元になることが決まってからその環境は変わった。

僕が彼女に振られたのだ。

ショックだった。いろんなことが考えられなかった。誰かに話していないと変になりそうだった。そりゃそうだろう。初めてちゃんと好きになった彼女でまだ好きだったのだから。心が保てなくなりそうだったので井上に連絡した。

井上はすぐに飲みに連れていってくれた。そこから色々話をして、井上の境遇だったり、好きな人の話だったり、いろんな話をした(もうほとんど覚えてないけど)。そこから井上と多く遊ぶようになった。ほぼ毎日井上が僕の家に来た。支えになっていた。中崎町の古着屋に服を買いに行ったり、東京まで=LOVEのライブを見に行ったりもした。大学4年間の中で井上と過ごした半年間が1番濃かったと思う。それほどに楽しかった。

しかし、半年もすると支えとなっていた井上もそれが普通になってくる。いることが普通になるのだ。そして僕はそのタイミングで新しい彼女ができてしまった。彼女ができると僕はそちらばかりになってしまう。

だから僕は井上を蔑ろにしてしまった。

するべきではなかった。もちろん何も思っていない訳ではなかったが。

井上は寂しい人間だから僕以外に友達がいなかった。だから1人で寂しいだろうとは思っていた。けど僕は言い訳を作ってしまった。今までの遊んでいた時間がおかしいのだ、今までがおかしくて普通に戻っただけだ、と。

その後も何回か井上と会ったがどこかギクシャクしてしまっていた。

そうして僕は大学を卒業し、地元へ戻ってきた。彼女は大学の近くで作ったので遠距離だった。地元も友達がいるにはいるが、大学を違う場所にすると疎遠になってしまう。必然的に僕はひとりぼっちになった。そこで井上の存在の大きさに気づいたのだ。あんなに自分を慕ってくれる後輩はいなかった。話の合う後輩はいなかった。M-1を観ながら、2人であんなにも議論できる後輩はいなかった。あんなにも楽しい後輩はいなかった。

僕は一生の後輩となるはずだった井上を失った。

井上は僕が就職する前にガストで彼女ができたようだ。それだけが救い。あいつはひとりぼっちではなくなった。ただ、僕が蔑ろにした事実は戻らない。あんなに楽しかった日々を続けたかったのに、自分が1人にならないと気づかない己の愚かさに悔しくなる。

ごめん井上。俺はどこかお前を支えている側だと思っていた。けどそれは違った。俺がお前に支えられていたんだ。許してほしいなど都合の良いことは言わない、ただ謝らせてほしい。これからの人生、大学時代を思い出すと、お前との半年間ばかりを思い出すだろう。それだけ楽しかったし、苦しい期間を支えてくれたんだ。感謝してもしきれない。本当にありがとう。恩知らずな先輩でごめん。元気でやれよ。

中川

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