家事本、処方しておきますね。【1】
【相談者:砂東真実】
29年という人生のすべてを実家で過ごしてきたのですが、このたび結婚して兼業主婦になることになりました。旦那は独り暮らし経験があるため、家事は一通りできるとのこと。ですがいかんせん帰りが遅く、平日にそれらのスキルを発揮してもらえるとは思えません。一体どうすれば、夫婦揃って人間らしい暮らしが送れるのでしょうか。
【回答者:砂東真実】
本読めば?
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そんなわけで、結婚が決まってまず最初にしたことは、家事本を買いそろえることである。
昔から作りもしないのに料理本を読むことが大好きだった私にとって、こんなにベストなタイミングがあるだろうか。
企画作りに悩めばアイデア出しの本を買い、思考の浅さに悩めば思考力の本を買い、リリース作りに悩めばリリースの本を買ってきた、そんな私である。
当時買いそろえたラインナップはこちら。
・まるごと家事の基本の本
・常備菜の本、簡単レシピの本、野菜オンリーレシピの本など料理本
・豊かな暮らしを夢見る本
特に、豊かな暮らしに関しては、昔から執着と紙一重の憧れがある。
何を隠そう、私はかつて、激務ながらもせめて一人の時間を充実させるべし、と、帰宅後の夜中の3時に茶葉から紅茶を淹れていた本末転倒系女子だったのだ。
引っ越し前、使い古しのタオルでぞうきんを二枚を縫った。渾身の手縫いだ。すぐにぼろぼろにならぬよう、ふちを折り込んだため、たいそう縫いづらかった。
準備は万端だった。
いざゆかん、嫁に!!
結果からお話しさせていただくと、私は同居開始3日目に、本を買った。
『しない家事』(マキ著)
という本だった。
たった二人分の二日間の夕食作りと二日分の洗濯物干しをしただけで、入社一週間目の新卒社員のごとく疲れきった私という船は極力家事をしない方向へ舵を切ったのだった(笑うところだよ)。
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『しない家事』は当然だが、旦那を立派な主夫へと変貌させる術を書き記した育成本ではなく、
「いかに無駄な家事を減らし、必要な家事は短時間で終わらせるか」を綴った「時短家事本」だった。
時短。
ゆっくり、ていねいという言葉を連想させる豊かな暮らしとは真逆の概念のように思われる。
しかし、ゆっくり夕飯を作り、ていねいに洗濯をし、呑気に風呂や食器を洗っていたら、あっという間に一時を回る(後に暗黙のルールで、食器洗いと風呂洗いは旦那の仕事となった)。布団に入る頃には、心は豊かどころか、数回物干し竿を拭いたら真っ黒になってしまった手縫いの雑巾(諸行無常である。そういう用途のものとはいえ)のごとくボロボロになる。
時短家事こそ、心の豊かさのために必要とされるスキルなんじゃないのか!?
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こうして、無知な私は毎朝毎晩茶葉から淹れた紅茶(休日は淹れる) を飲みながらぞうきんを縫う(何故か引っ越し前に一瞬針仕事にはまり、懲りずに縫おうとしていた)生活を一旦諦め、ティーバッグでもいいから確実に喉を潤し、徐々に臭いを発する雑巾ではなく、洗って使える紙タオル(一日で使い捨て)でキレイなテーブル、水回りを保つ生活を選んだわけだが、ここに行き着くまでに読破した大量の家事本から学んだ家事スキル……ではなく、家事本の選び方をご紹介したい。
つづく。