ゆらゆら揺れるワークとライフ
ワークとライフのバランスを解く本をたくさん読んできたけれど、読むたびに思うことが変わるのは、自分の中の「ワーク:ライフ」が都度都度変わっているから……な気がする。
それこそ仕事を始めた当初は、「ワーク9.5:
ライフ0.5」というトンデモな比率で生きていた。
終電で帰ってそのまま明け方まで仕事、数時間寝てシャワーだけ浴びて会社へ、という生活を送っていたのだから、ライフが入り込む隙間がない。休日はほぼ寝ていた、もしくは、持ち帰り仕事をしていた。
どこだって仕事場になる。そう、パソコンさえあればね!(当時は通勤時かんも惜しく、携帯に文字を打ったりしていた。見かねた現在の旦那がポメラくれた)
当時は毎日時間に追われ、ダッシュしすぎて浮いている、みたいな状況にいたため、口癖はずばり
「地に足つけたい」。
多くはないが実家に食費を入れられるくらいは稼いでいたし、一応毎日ごはんを食べ、会社に行き、(大方)ベッドで寝ていたので、浮世離れした生活をしていた訳じゃなかったのだけれど。
あまりよろしくないよね、とは思っていた、らしい。
状況が変化したのは3年前のこと。
転職した会社が比較的ホワイトだったため、定時プラスアルファを週に何回か、で帰宅できるようになった。
そして何を思ったか私は、ワークばかりだった生活に、ライフではなく「New!」を突っ込んだ。
習い事や社会人サークル。帰って休めばいいのに、自ら忙しさに飛び込んだのだから始末に終えない。おそらく、働いていない間に、自分が停止しているように思えて怖かったのだ。
そして昨年、青天の霹靂がやってきた。
父親の入院。
自分の中の、ワークもライフも価値観も崩壊した。
手術やメスを入れる治療のたびに、病院に呼び出され会社を早退してかけつける。
泣きながら家で父を思う母をなるべく一人にしたくなくて、定時か来たらすぐに飛んで帰る。
お見舞いと看病と悲しみでやる気をなくしてしまった母の代わりに、何品かおかずを作る。
この年、私は一応何冊かの本を編集しているのだが、まったく覚えていない。そのくらい、仕事に関する興味が失せた。
ワーク0.5:ライフ9.5の生活の始まりである。
***
父が他界したときに、真っ先に思ったのが、
「ああ、バージンロードを歩いてもらえないな」
「結婚しておけばよかったな」
「せめてあわせておけば」
という結婚がらみのこと。
次に
「孫を抱かせてあげたかったな」
という出産がらみのこと。
最後に、
「お正月にローストビーフを作ってあげていてよかったな」
ということだった。
1月1日からキーボードをたたくこともざらだった前職と比較し、現職は年末年始に余裕があった。
「おまえ、これ作ってくれよ」
と渡されたローストビーフのレシピを見て、少しめんどくさいなぁと思ったけれど、まぁ最近おせちの手伝いもできていなかったし、肉も食べたいしな、と考え直し、「いいよ」と言ったのだ。
出来映えは上々で、父はおいしいと上機嫌でそれを食べ、来年も作ろうかね、なんて会話をした。
倒れたのはその翌月のことだ。
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よく、スポーツ選手や俳優さんなどが、親を亡くしたときに
「父(母)と約束をしたので、必ず勝ちます(舞台に立ちます、の場合も)」
と言うことがある。
メディア向けの言葉なので、その心のなかには計り知れないほどの悲しみや、もっと別のなにかがうずまいているのかもしれない。
けれどこういう言葉を聞くとき、
「私は違う」
と思うのだ。
「母を大切にします」
「家事ができるようになって、家庭を回せる女性になります」
「実家のサポートをしていきます」
父は私の「書く」仕事を応援してくれていたのに、どうしてもここで「いい本を作るね」「文章を書き続けるね」という言葉が出てこない。
ずっと気づかなかっただけで、私の人生のベースは、圧倒的にライフなのでは……。
その考えに思い当たり、衝撃を受けたのを覚えている。
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何故そんなことを思い出したかというと、先日長く続く体調不良のせいで、消化器官の精密検査を受けるはめになったからである。
ネット検索、いくない。
症状を入れると、ガンを筆頭に、恐ろしい病名がずらりと出てくるのだ。そして不安とストレスから、体調はより悪化する次第。
結果は問題なしだったのだが、「ガンかも……(ガン家系なので油断できないのだ)」と思っている間に浮かんできたのは以下のようなことだった。
「結婚指輪欲しがった」←入籍して数ヵ月たつが未だにもらっておらず。あ、これは旦那の後悔だ!爆
「結婚式早くすればよかった」
「子どもがほしかった」
「母親を旅行につれていきたかった」
ワーク、皆無!!
そして父の時とラインナップがさほど変化していない!!
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普段からワークライフバランス、ワークライフバランスと言って、本をたくさん読んで、仕事も家のことも頑張ってる私!を演出したいけれど、追い込まれたときの本音に耳を傾けてみれば、普段の努力は何なのってくらい、正直すぎる要求が聞こえてくる。
少なくとも今の私は、できることなら「ワーク0:ライフ10」だ。逃げ恥のごとく、月額194000円もらえるなら専業主婦になることを検討しちゃう可能性おおありだ。
……なんて言いつつ、古巣(前職の会社)から依頼のあった編集作業、副業としてやっちゃおうかな、と思っているあたり、私のワークとライフは常に天秤にかけられ、ゆらゆらと揺れている。
いくつになっても、自分のベストバランスが見つかることなんてないんだと思う。
(2016/12/19)