わざわざ題をつける必要のない文章ではありますが
不幸な人間の上に幸福な人間がいるんでなくして、
幸福な人間の下に不幸な人間がいるんです
ところが!
頭の良い人間の下に頭の悪い人間がいるんでなくして、
頭の悪い人間の上に頭の良い人間がいるんです
しかし時に、精神病棟へいるとそのヒエラルキーを痛感するもので
何が面白いのかさっぱりわからないけど笑い続ける男女
部屋をノックし続ける婆さん
性格の悪そうな、でも仕事の出来る看護師、出来ない看護師
そして私。
各々ここに来た訳があるんでしょうが、それを知るのはもっと先になるでしょう
担当が次々と変わる看護師の名前を私は誰一人覚えていない
向こうは仕事上私の名前を呼ぶのだけれど。
大体私は記憶の定着が興味のあるのとそう出ないのとでは全く違う
小中のことはあまり覚えていないのに、部屋の外から聞こえてくる男の笑い声は中学の時嫌いだった人間の声に似ている。だとか。
もう精神病棟では仲間が作られている(私がここに来る前に形成されていた)らしく名前を呼び合う声も聞こえる。
全くもって、自分がそこに属している想像は出来ない。
孤立してしまうというより、本当に馴染めないんだと思う
精神病棟で楽しそうに笑っている人間と少なくとも友達にはなれないだろう。
まだ興味があるのが部屋をノックし続ける婆さんの方だ。
(看護師の後ろに着いて部屋に侵入してきたので、顔は一度見ている為婆さんだとわかる)
こっちは恐らく統合失調症、若しくは痴呆だろう。
ある朝目を覚ますと婆さんは私の目の前に立っていた。
虚言でも幻覚でも或いは妄想でもなく、本当にそこにいて、じっと私を見つめていたのだった。私は驚いて声をあげることもせず、あぁただそこにずっといたんだなぁと納得し、会話することにした。「おはようございます。」「どうしたの?」にはノーコメント。「大丈夫?」には「大丈夫」と返された。「どこからきたの?」には「あっち(指をさされた)」「看護師いなかった?」には「いた」と返ってきた。
どうやら、ずっと気になっていた私の部屋の鍵が聞いていたので、看護師の目を盗んで侵入してきたようだ。
婆さんから急に頭をなでられて、私は笑ってしまった。憶測ではあるが、私の寝顔を見て孫(又は子)を思い出したのではなかろうか?彼女を部屋に送り届けようとしたところでようやく看護師が気づき、先ほで指さしたのと反対方向に連行されていくのであった。
後日聞いたところによると、婆さんは男子便所を覗き「チンチンきったね〜」と言い放って隔離室へ連行されたという。
四人部屋へ移動した。
一人部屋生活が終了し、無理にでも人と接さなければならなくなった。
ここの精神病棟には施設から来た子がとても多い。
中学、高校生くらいの子が多数を占めている。
同室になったのは、中学二年生の解離性同一性障害を患う施設育ちの女の子。
この子には三人の人格がいて、人格が変わった時の記憶を覚えていないらしい。
また、趣味趣向も違っていて名前もあるらしい。
この子は『ニョコニョコニョコ!』と叫ぶ時がある。大マジに。
これは発作らしい。急に出てくるから困るんだって。
そして7、8回入院していてここの常連らしい。
他の人格が暴力事件を起こしたことも、もちろん覚えてはいない。
すごく生きづらいよなと思う。自分の意識ではそんなことをしていないのに、既にしたことになっている。
まぁ色んな病気を抱える子が集まっているわけである。
みんな、年功序列という言葉を知らない。
年上だって関係なくタメ口で話しているのが少し可愛い。
看護師を呼び捨てで呼んでいる。
良く言えば自由奔放、悪く言えばワガママである。
ずっと笑い続けている男女はどうかというと、私をつけている。
過剰ではない、つけられているのだ。
本を読めば、「本読んでるよ!今じゃないよ〜」などと。
後から聞けば金髪のアタクシが可愛くて話したくて仕方なかったらしい。
そう言えばいいのに。
まぁ人間関係を築くのは簡単なんだけど、すごく疲れるので早く退院したいものだ。
例の婆さんが隔離室から出てくる前に。