シャカリキナース奮闘記②
第2話「ニューバランスは永遠に」
パーパァーパーパーポォー
じいちゃんと見たスピルバーグの未知との遭遇のテーマが頭でなりながら
ステンレスで覆われた集中治療室の自動ドアが開き始めた。
ゴクリ。
生唾を飲み込むと同時に、自動ドアが開くと慌ただしく動き回るナースの姿が見えてきた。
そこは、さながら中華料理店の厨房のようだった。
ドン。
勢いよく背中を押されたので振り返ると、切長の目をしたか細い女性が右脇に糊付けされたたくさんの病衣を抱えて立っていた。
「新人はもうみんな挨拶すんでるからあんたも早く挨拶しなさい」
そう言われると、もう一度、背中を強く押され集中治療室の中心に押し出された。
集中治療室の中心には、大きな丸いスタンディングデスクがあり、そのテーブルを取り囲むようにナース達が並んでいた。
皆一様に、僕を睨んでいる気がした。
「ゴホンッ。え〜今日からお世話になります三浦です。不慣れな事もあるかと思いますがご指導ご鞭撻の程何卒よろしくおねがい申し上げます」
親父の本棚にあったスラムダンクの流川楓が言っていた、難しい言葉を真似して挨拶をしてみた。
「あんた一ヶ月で、私達追い越して異動するんでしょ。だったらもう、教えることなんてないでしょ」
濃いめの眉毛でショートカットのポッチャリナースがくってかかってきた。
(えー。もう広まってんの?やりづらいなー)
と思いつつ、必死に作り笑いをしながら
「なんですか急に。よろしくお願いしますよー」ととりあえず、愛想を振りまいてみた。
すかさず、遠目で事態を見ていたスタイルの良いオードリーヘップバーン見たいなナースが腕組みをしながら話しかけてきた。
「まあ、どっちにしろやる気のない人はいらないから、よろしく」
(こわ〜。綺麗なのにすげー怖いじゃん。しかも、皆もう部長とのやりとり知ってんのー)と思いながら、
「よろしくおねがいします!!!」
僕は、勢いおいよく部活で鍛えた、90度の三角定規のような挨拶を決めたと同時に、自分のおニューの白いニューバランスのスニカーを見ながら、(おわったな)と今後の人生を確信するであった。