看護師が撮って出しエンドロール〜〜
入場撮影をミスった。撮影場所が悪かった。手ぶれを防ごうと思って最高と思った場所に三脚立てて撮影しようとしたことも間違いだったし、ダメだと思ってからすぐに行動しなかったのも間違いだったし、大体が靴下間違ってちょっと丈が短いやつ履いて来ちゃったし、もう何もかもがミスだった。
出てくるところを撮ろうと入り口の正面に陣取って撮ったんだが、まず素人に光量をちゃんと計算して撮影するなんて無理というものである。
真っ暗な会場。ドアが開いた瞬間に一斉に光るスポットライト。開いた瞬間白飛びしちゃって画面真っ白。まあ、「徐々にオートで良い感じになるだろ」と思ってたら二人が横並びに歩けなくて、前を歩く新郎しか映らない。ああ、これこの場所ダメかなって気づいた時には、二人は方向転換して後ろ姿。場所移動しようって決断した時にはもう時すでに遅し。てか、俺の靴下なんか短くね?とか思ってる間に二人はもう席に着いてこちらにお辞儀していた。
これが入場撮影ミスの全容。
開いた瞬間に鮮明に撮れるスキルが無いなら、新郎新婦の席側から撮影するか、ハンディで追いかけることをお勧めする。てかカメラ二台あったんだから一人ハンディで追えば良かったよ。。。
まあ、良い。入場シーンが無くたってきっとなんとかなる。今、一人別室で編集作業というか良いシーン選別作業をしている従兄弟に密かに謝罪することも無く前向きな気持ちで各種挨拶の撮影を始めた。
多分ね、挨拶してる人の映像って使っても一瞬。もしくは使わない。これ分かってたのに、なんか不安でずーーーっとカメラ回していたせいで非常に疲れた。で、結果的にやっぱほぼ使わない。しかも撮影時間が長いとシーンの選別も大変になる。もし次の機会があったら挨拶はほんの一瞬撮れば良いなと言うことを学んだ。あんな知らないおっさんのアップの映像とか全然要らないんだよ!そして、靴下はちゃんと前日に選んでおくべきなんだよ!!
で、カメラを持ち続けたことで前腕の筋肉が異様に鍛えられ、一回り腕が太くなってきたころ、ちょっと緊張してくる。全員の挨拶が終わったら待っている、あれ。そう、シュークリームの件だ。全員の挨拶が終わって歓談の時間になったらすぐにって事で打ち合わせしている。撮影に気を取られて全然スピーチのこと忘れてたけど、大丈夫なのか、俺。スピーチのことを知っている従兄弟は別室にいるから、なんか仲間もいないし一応みんなに内緒って事でやってるから親族にも悟られないようにしなくちゃな。そんなことを考えていたらあっさり挨拶群も終わり私の出番に。
司会「では、ここで新婦のお兄様から何やらお話があるそうです。」
みたいな紹介でマイクが回ってくる。ああ、もう俺の番か。ちょっと父親に撮影を依頼してマイクを手に取り立ち上がる。靴下が短いのは立ち上がれば分からないから安心だ。
「ただいまご紹介にあずかりました新婦の兄です。あんまり結婚式で新婦の兄が出しゃばるなんて見かけないんで、すごい出しゃばりみたいで恥ずかしいんですが、ちょっと今日はこの場を借りて妹に一つ謝罪したいことがありましてお時間頂きました。」
まあ、この段階では出席者は「お、珍しいこと始まったな」って聞いてくれてる人と全然聞いて無くてテーブルの歓談してる人の半分半分ってところであろうか。靴下のことを気づいている人はいない様子。
「えー、僕が小学校の低学年で妹が幼稚園の頃だったと思うんですけど、母が出かける事になって二人でお留守番しなくちゃ行けなくなったんですね。で、母が留守番してる間に二人で食べなさいって事でシュークリーム二つ用意してくれたんですよ。」
この辺りでほとんど全員が私の話を興味もって聞いてくれてるようだった。靴下のことに気づいてる人が2,3人。
「で、そこで僕が ”お前は本当は家の子じゃ無いからこのシュークリームを食べる資格は無いんだよ” とかいって本当にシュークリームを二つ食べてしまうと言う残酷なことをしてしまってですね」
会場からは「ひどーい」みたいな若い女の子の声とかも聞こえてきてスピーチが今のところうまく行ってるなって事を感じられた。靴下短いぞ!って声が聞こえてきそうなくらい会場中が靴下のことに気づいている気がする。
「妹は未だにそのことを覚えていて会うたびに責められるんですよ。だから、今日、僕貯金全部下ろして、市内のシュークリームをありったけ買い集めてきたんですよ。それが、たまたま出席者の人数とピタリと一致したので」
会場から歓声が聞こえた。こんな良い反応もらえるもんかね、結婚式ってスピーチするのに最高の環境だな。なんて考えていた。さっきまで靴下のことであんなに悩んでいたのが嘘のようだ。多分誰も気づいていない。
「今日、出席者の皆さんにこのシュークリームをプレゼントして食べてもらうって事で・・・」
あとは「許してもらうって事で良いかなぁ?」と締めくくろうと思っていたのだが、笑って聞いていると思っていた妹が泣いている。あれ、なんだ、この感覚は!?熱い、鼻の奥が熱いぞ。あれ??俺、泣くのか????やばい、さっさと終わりたい。前言撤回。やっぱり結婚式でスピーチするって最悪だ!!
「・・・許してもらうって事で、、、良いふぁなぁ??」
よし、ギリギリセーフ!!
妹も喜んでるし出席者のみんなも喜んでいる。「まさか俺が泣くことになるなんて、これ、良い結婚式なんじゃないか?」私はそんなことを呟き、靴下をぐっとたくし上げ、そそくさと別室の作業場に向かった。
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