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『海の見える理髪店』萩原浩
✂️あらすじ✂️
店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。僕はある想いを胸に、予約をいれて海辺の店を訪れるが…「海の見える理髪店」。独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。弟に促され実家に戻った私が見た母は…「いつか来た道」。人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く全6編。父と息子、母と娘など、儚く愛おしい家族小説集。直木賞受賞作。─bookデータベースより
✂️感想✂️
・海の見える理髪店
穏やかな海を背にたんたんと語られる店主の話が、最初は微笑ましかったのに、途中から雲行きが怪しくなっていき、最後には嘘だろ、と思った。真昼間から怖い怪談噺を聞いているみたいでゾッとしたが、結果ふたりがやっと出会えたのならそれでいいのかもしれない、と思った。
・いつか来た道
毒親とコンプレックスを抱いた娘の話なのですが、最後にミステリーというか、誰なのか理解しにくい場面があるのですが、きっと子どものころ母親の怒りを受け止めるために生まれてきたもう一人の自分なのかな?と思う反面、何で彼女も電車に乗らなかったんだろう…?と不思議に思ったりする。
最後の最後で引き込まれた作品でした。
・遠くから来た手紙
手紙→メール→LINE…
いつの時代も人は文字で心を通わせようとする。
今回の話も中盤からやはり不思議な出来事が起きた。
なぜそんな現象が起きたのかはわからないけれど、亡くなったおじいちゃんが祥子に何かを伝えたかったのかも。
いつの時代も最強なのはやっぱり手書きの手紙ですね!
・空は今日もスカイ
あれから茜とフォレストは一体どうなったのだろう…?
特にフォレストに関しては、やっぱり虐待をする父親の元に返されてしまったのだろうか…?
時に子どもの発言は全く信じてもらえない。
これほどまでに信憑性のある証言なのに、その未熟さ故に大人はわかろうとはしない。
物語は全体的に独特の世界観があり、『こちらあみ子』に少し似ていた。
茜とフォレストの人物像が良く描かれており、頭の中でよく動いてくれた。
・時のない時計
誰にだって巻き戻したい時間はある。
全体的にミステリアスというか、どこか不気味なのですが、物語の単調なリズムに引き込まれ、不思議な読後でした。
・成人式
父親の発案に笑ってしまった。
自分たちが出るの?と。
でも、それなら鈴音も喜ぶかもしれない。
親子3人で成人式だ。
どの話もミステリアスでとても個性的でした。語り手の単調なリズムにヒヤリとしたり。
語られるのは家族の話ですが、家族だからといって必ずしも仲が良いとは限らず、夫婦だろうが親子だろうがその人たちにとって適切な距離があります。
そこを脅かすことなく良好な関係を保てるならそれに叶うことはないのですが、現実はそうもいきません。
ですが、本書の人たちはみんなそこを乗り越えてきます。
会いに来ます。
助けに来ます。
そこには必ず家族を思う気待ちがあり、また作者が読者を巻き込んで笑わせようとするコミカルな一面が伺えます。
とにかくオチが上手い!