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「新人弁理士、明細書作成に挑む」

 ぬーみん(@numinez)です。普段は特許事務所で国内出願・権利化業務をしています。構造・電気・制御の分野が多いです。知財業界に入って間もない自分にも、何か伝えることができないかと思って、「知財系もっとAdvent Calendar 2021」に参加しました。

 知財の業務の1つ、国内出願の明細書作成。特に特許事務所に就職される方の多くは、この業務に1度は携わるのではないかと思います。そして、未経験で特許事務所に転職して壁としてぶち当たる業務なのではないかと(自分は)考えています。
 一般的には中間対応や調査などから入り、明細書に慣れたところで出願業務、という流れのようですが、私はいきなり国内の明細書作成から始まりました。それまで明細書をまともに読んだ経験はありませんでした。
 こんな状況、皆さんならどうしますかね?そもそもこんな状況にならないように準備する?ごもっともです…

 ここでは、未経験から明細書作成をいきなり担当することになった人間がどんな試行錯誤をしたのか、書ける範囲で書こうと思います。一個人の経験に過ぎませんが、今/これから、どこかで明細書を初めて書く、という方が考える材料にでもなれば幸いです。

どんな指導環境だったか?

 基本的には全てOJTです。事務所の指導方法としては、新人1人に対して指導担当が1人という、徒弟制度方式が採用されていました。
 1つの案件について明細書を作成して、添削されて、添削後の書面をもとに口頭でのレビューをもらう、という流れです。

 さて、実際に明細書作成に挑んだとき、特に以下の2つに苦労しました。
 1.専門外の分野の発明が相手
 2.明細書に何が書いてあるか分からない

1.専門外の分野の発明が相手

 新卒で就職しても、それまでの専門ドンピシャの案件が都合よく用意されているわけがありません。当然、触れたことのない技術に関する案件が回ってきます。

 専門外なので分かりません。

 そんなこと言えるわけがありません。なにがなんでも発明を理解するしかありません。特に発明の原理(物の動作、電力・信号の流れ、処理の流れ)をイメージするために必要な情報が何かを考えながらググります。いわゆる、予備検索と言われるものに近いかもしれません。

 無料でアクセスできる範囲であれば、以下のものが(私には)便利でした。これに関しては個々人に依存するところがあるかもしれません。

 ニュース記事
 大学の講義資料(スライドや授業ノート)
 関連する企業の技報、説明書、カタログ
 Youtubeの動画

 参考までに、私は以下のサイトをよく使っていました。幅広い分野を網羅している上に体系的に整理されているので、趣味で読む分にも楽しめます。

 ググってあたりがついたところで、必要に応じて書籍を買いました。過去に調べたことは今も使えるので、実質ゼロ円ですね(?)。

2.明細書に何が書いてあるか分からない

 さて、第1の壁を乗り越えて、発明を理解したとしましょう。あとは理解した内容を文章にすればいい…とはいきませんでした。特許用語マシマシの公報を、未経験で入所したばかりの自分は日本語として認識できませんでした。
 要約ですらまともに読めませんでした。後日、メインクレームのコピペであることが多いと知り、そりゃあ読めないわ、と思いました。

実務書を読み漁る

 どうしようもないので、明細書の書き方に関する記事や実務書を買い、読み漁ります。私にとって、書籍を買い漁るのは常套手段になりました。
 例えば、以下の書籍を購入しました。とりあえず、明細書がどんな構成か、どんな意識で書かれているのか、ひたすら先人たちの思考の流れを追っていました。

 どちらも今読むとめちゃくちゃ勉強になることばかりです。ただ、いかんせん、高める競争力すらない初心者には難しかった…。

(´・ω・`)ショボーン

 幸い、どんな項目(【背景技術】など)があるのか、どんな意図が含まれているのか、などの、全体の概要をなんとなく把握することはできました。一歩前進です。

指導担当の明細書を読み漁る

 書籍でどうにもならなかったので、とりあえず指導担当の過去の案件を集めました。幸い、背景技術や課題はまだ日本語として理解できたので、まずは読めるところから読んで、抵抗感を減らしていきました。
 4,50件くらい読んだところで、いくつか課題が似ている公報があることに気づきました。いわゆる関連案件というものでした。

実施形態を一行ずつ表題付けする

次にこれらを集めて、実施形態の解読に挑戦しました。

 難解です…一行読むだけでもしんどい…次の行を読んだらもう前の内容が頭から抜けている…

 こんなことを繰り返していました。そこで、「忘れてもいいように」一行ごとに表題をつけて読み進めることにしました。
 実際には、
 1.見つけた対象の明細書の全文をWordにコピペ
 2.「。」→「。^13」(^13は改行記号)で置換 (一文がどこまでか見やすくするため)
 3.一行ごとに表題を付ける
 というのをひたすらやりました。
 表題というのは、例えば以下の◆で示されている部分です。

 ◆Aが備えるもの
 Aは、Bと、Cと、Dと、を備える。
 ◆Aの目的、動作
 Aは、○○をする。
 ◆Aの形状
 Aは、○○状である。
 ◆Bの位置
 Bは、Aの下部に位置する。
 ◆CとBの関係
 Cは、Bの周縁に接続されている。

 この作業をひたすらやっていくうちに、指導担当の書き方のルールが見えてきました。てにをはの使い方、部材の順序、説明の順序、などなど…。クレームもこのルールにある程度則って記載されているようでした。
 書き方のルールに従いつつ、過去の案件で似ている記載をもとに、自分の案件のたたき台を作ります。

 無論、真っ赤になって返ってきます。特にクレームは全て書き直されました。それでも、フィードバックをもらうためのたたき台はできました。一歩前進です。

指導担当からのフィードバックを蓄積する

 フィードバックは、段階的に受けていました。最初の頃は、メインクレーム/サブクレーム/明細書前半部(【発明の効果】まで)/図面/発明の詳細な説明、という細かいステップを踏んでフィードバックを受けていました。慣れていくにつれて、フィードバックを受けるステップ数が減り、最終的には、全部という1ステップだけになりました。
 指導担当の方は、クレーム以外ではあまり「お手本」を書きませんでした。納期が近くなってくると、さすがにお手本の文章が書かれて返ってきましたが…
 代わりにコメントで、私に記載の意図や内容を確認する、という形でフィードバックをすることが多かったです。

 もらったフィードバックは必ず蓄積します。メモしたり、何度も読み直したりして、次の案件で同じミスをしないようにします。特に形式面で同じミス(先行文献の番号の書き方など)をしたときは、「前も同じことがあったけど?」というコメントが記載されて返ってくるので、冷や汗が止まりませんでした。

 ちなみに、指導担当から以下のようなコメントをよくもらっていました。

 「技術的に変」
 「文章の意味が分からない」
 「記載の意図が分からない」

 技術的に変、とはそのままの通り、技術的に間違っているということですね。発明を理解したとは一体何だったのか…
 これに関しては、もらったフィードバックをもとに技術理解を改めていくしか思いつきませんでした…

 文章の意味が分からない、とは、日本語としてそもそも成り立っていない、というものや、日本語として成り立っているけど、何を説明しているか分からない、というものが多かったです。
 指導する上で、文章の意味が分からないというのが一番きついようです。そもそも何を書こうとしているかも分からないので、修正のしようがないようで…
 これに対しては「英単語を知っている前提で、英文に直せるか」という観点で文章を書くのが私にとっては有効でした。英文に直せるか、というのは中学校で習う「S+V+O」のような構文に置き換えられるか、という意味です。言語レベルが落ちるので、難解な文章が使えなくなります。自動詞と他動詞、動作動詞と状態動詞などにも意識が向きます。そのため、嫌でも単純な文章しか書けなくなりました。ついでに、多少は翻訳しやすい文章になるというメリットもありました。

 記載の意図が分からない、とは、記載内容は分かるけど、補正やサポートに使える記載でない、というものが多かったです。お客様に納品する際に意図が説明できない記載はすべきでないという意図もあったように思います。
 これに対しては単純で、書いた内容を読みつつ、なぜ書いたのかを自問自答することが有効でした。なお、その説明があまり適切ではなく、指導担当に論破されることもよくありました。そのときは素直に従います。素直であることは身を救います。

おわりに

 あれっ、書いてみると大したことしていないような…調べること、考えること、言語化すること、同じミスをしないこと…他の業務と同様のプロセスでできるようになるのではないかと思ったり思わなかったり。

 指導担当の書き方を真似して「書き方のお作法」ができてくると、考えた内容を「明細書っぽく」表現するのにかかる時間が短くなります。余った時間で国内外の審査基準、事例集、裁判例などを調べて、実体的な内容面を充実させる、ということもできます。そのため、何をすればいいか分からない人は、先人から「書き方のお作法」を盗むことから始めてもいいかもしれません。 
 皆さん、どうやって最初を乗り切ったのでしょうか。色々と苦労話を聞いてみたいと思う今日このごろです。

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