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2. 男の子

助けてほしいのに声が出ない。

その男の子を追いかけながらふと思った。気付いてほしいけれど気付いてほしくないのかもしれない。

今の自分は見るに耐え難い格好をしている。ボロボロで煤だらけ。そんな人間を見たら自分だったら怖いと感じてしまう。そんな顔されたくない。見たくない。

けれどずっとこのままだと死んでしまう。死んでしまいたいと思っていたけれど、心の中ではそんなの一時のウソで、本当は何処かに自分だけの希望が在るんじゃないかと思っているんだ。

そしてまたふと、ある人の言葉を思い出した。

「君はそのままでいいんだ。そして君は他の誰にもなれない。君は君にしかなれない。だから他人になろうとしないで。見つめるのは自分だけでいい。」

その言葉を思い出した瞬間、何だか心が軽くなった。今の自分はボロボロで煤だらけで絶望的。そんな自分なんだ。

次の瞬間、少年はその男の子に向かって叫んだ。

「助けて!」

振り替えってくれるだろうか。それとも無視されてしまうだろうか。

するとその男の子は直ぐに後ろに振り返った。少年は唾を飲んだ。こんな格好の自分を遂にみられてしまった。

男の子は立ち止まってこちらを数秒見つめると、こちらに走り始めた。どんどん近づいてくるに連れて少年の不安は大きくなる。近付けば近付くほど、自分の哀れな姿を細部まで見られてしまうからだ。

男の子は少年の2メートル位前で立ち止まった。そして言った。

「大丈夫?」

続く。

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