メンヘラ薬学 薬物動態編
メンヘラあるあるといえば睡剤自慢だ。
だが、一般に行われているメンヘラ眠剤自慢は
有名人も服用していたハルシオン®(一般名:トリアゾラム)を使っているだとか、一番強いと評判のロヒ(ロヒプノール®、販売中止 一般名:フルニトラゼパム)を使っているだとかばかりである。
そんな自慢のどこがよいのか。
われわれメンヘラは何のため薬にすがるのか。
ヒトに頼っては裏切られるから、確証がないから、化学物質というモノを選んだのではなかろうか(1)。
誰かとおそろいだとか、評判だとか、不眠症というカテゴリが欲しいとか、そんな他人が作った流動的価値観に従ってはメンヘラ不十分である。
せっかく薬を服用しているのだから、きちんと薬学してほしい。
なお、この記事はメンヘラあるあるを入り口とし薬学概要の紹介するものであり、メンヘラ薬学とはファンタジーの毒を化学的に思考するようなものである。
つまり、まじめに治療している者への推奨ではなく、また個人輸入や通販、濫用は推奨しない。
メンヘラ薬学的な眠剤自慢
さて、眠剤自慢をメンヘラ薬学的に考える。すると、自慢の方向性(?)は3つぐらいあるだろう(2)。すなわち、
以上の3つだ。
Aはほかの薬で置き換えたとき、どれくらいの量にすれば同等なのかという等価換算表を参考にすればよい(3)。
Bは作用時間の短いものほど依存度が高くなるといわれている。そのため、短時間型のものほど依存度が高いといわれる。われわれメンヘラにとっては、どの成分が短時間型か長時間かまとめた表は何度もみてきた。そのため、これも新たな知識は必要なさそうだ。
メンヘラ薬学入門者にとって困るのはCの影響の長さだ。もちろん長時間型のものほど長く作用する。だが実はそれだけでは理解不十分なところがある。メンヘラと同じように、表面のみの理解では納得してくれないのだ。
血中濃度・半減期・定常状態とは
薬というのは飲んだだけですぐ効果があるわけではない、飲んで血液によって運ばれてから効果を発揮するのだ。
ある部位のみに届けることは難しい。そのため、全身をめぐる血液にまんべんなく薬の成分を染み渡らせる。そのうち作用部位に行けた薬だけが、効果を発揮する。
このとき、血液全体の中にどれだけ薬の成分がいるかを示すことが大切になる。効いているか否かを判断する材料になる。
その量を血中濃度という。「アルコールの血中濃度」など、聞いたことないだろうか。それと同じだ。
薬を飲み忘れることはないだろうか(4)。次に飲む機会に「さっきのぶん」といって、2回分の量を飲んではいけないといわれたことはないだろうか。
これは血中濃度が高くなりすぎることを抑えるためだ。
薬を1日2回など定期的に飲むのには理由がある。体の中で分解されてなくなってしまう前に飲む。分解される速さは薬によって異なり、半減期の値が参考になる。
こういった繰り返しの投与によって、体の中で一定の濃度で保たれていること。これを定常状態という。
画像中の縦軸C(μg/mL)が血中濃度、t1/2が半減期、長い間血中濃度(青い点)がゼロになっていないという状況が定常状態である。
定常状態になるかわかる式
この定常状態だが、ものによってなったりならなかったりする。薬によって半減期またはその飲み方(注射などの投与方法、間隔)によって決まってくるのだ。
つまり
この2つによって定常状態になれるかなれないか推測することができる。
Ritschelによれば、投与間隔を半減期で割った値が3以上であれば定常状態になるとしている(5)。
実際の薬で考えてみる
ロルメタゼパムを例に考えてみよう
ロルメタゼパムの半減期は約10時間
半減期が10時間ということは飲んだ少し後のもっとも血中濃度が高いときから、10時間後には血中濃度が1/2になる。20時間後には1/4、30時間後には1/8になるということだ。
1日1回(24時間ごと)服用していれば、血中濃度が減った段階で追加分を飲むこととなる。
身体の中から薬がなくなりきっていないうちに追加分を飲む。
これを毎日やっていくといずれか、濃度が一定になる。とされている。
一般に半減期の4~5倍の時間投与し続けていれば定常状態になる。
一方で、同じくらいの時間をかけないと、定常状態からゼロの状態にもどらないとされている。
式で確認してみると
投与間隔 24時間 ÷ 半減期10時間 < 3 のため 定常状態になる
と予想できる。
実際には次のようなデータがある
3回投与後に定常状態に達したとある。
1日1回のため3日間=72時間、半減期の7倍ぐらいということになる。
眠剤自慢のセリフはこれだ!
自慢としてはこうだろう、日中誰かと合ったときにも
といえるわけだ。
なるほど、いいね。
ずっと寝てる?
ここで疑問が残る。
睡眠薬が定常状態、つまりずっと効いているとすれば、ずっと眠り続けているのではないか、と。
しかしわれわれは残念ながら眠れる森の住民ではなかった(6)。一体なぜ起きてしまうのか。
これは一説によると強力な覚醒機構により概日リズムを保とうとしているらしい(7)。
ベンゾジアゼピン系はとくにこの覚醒機構を抑えるわけではない。そのため、邪魔されずに起きることができるのだろう。
ずっと効いてる?
さて、医療従事者としては気になることがある
つまり睡眠以外の作用は起こるのではないかということだ。
その通りで
ふらつきや転倒、日中の眠気、その他ベンゾジアゼピン系でみられる副作用は起こりやすい。
また、定常状態からゼロの状態に移行するためには時間がかかる。薬を断っても、すぐになくならないのだ。
まとめ
メンヘラ薬学の使い方
いまメンヘラの方が、いずれ卒業するかもしれない。
今回の記事は、眠剤を止めていく過程で大きな参考になるだろう。
なぜならやめる過程で半減期が長い薬剤への変更が推奨されているからだ(8)。
その時は半減期の長い眠剤の注意点を参考にしつつ、減薬を頑張ってほしい。
そして、よろこんで不安定な報酬を望もう。
もちろん、自己判断での減薬は危険のため、医師・薬剤師に相談すること。
注釈と文献
好きな人だって気持ちは変化する、そんな不確定な依存先ではほしい結果が得られるかわからない。いくら投資してもリターンがないかもしれない。それならば、科学に従おうではないか。既読無視はしないし、機嫌も悪くならない。すぐに反応をくれる。モノは裏切らない。そう考えてしまうな。
自慢というか、普通ではないことがかっこいいと思うソレである。もしくは、化学物質で自分の体調をコントロールしているという支配欲もあるのだろう。いずれにせよ、推奨はしないが、わかりみがある。
ジアゼパム等価換算表換算というのがある。値が小さい方がいわゆる強い方とされている。(http://jsprs.org/toukakansan/2017ver/)
私はしょっちゅう飲み忘れていた。アドヒアランス不良である。
この関係式をRitschel理論と言っているの、山本先生くらいな気がするな……(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/yamamoto/201405/536510.html)
Physician’s Therapy Manual[PTM].1999;Vol.10:9[3]
後述する日経の記事で紹介されていたんだけど、いまいち納得してない。
「強力な覚醒機構」が抽象的な言葉すぎて、あまりわかってないということもある。
通常量の睡眠薬の効果に影響されない、起きるためのシステムが独自にあるという。ベンゾジアゼピン系薬を中止する際には、一旦長時間型の薬剤に切り替えた後、漸減することが推奨されている。長時間作用のほうが依存、耐性、離脱症状、反復性不安などが優れていためだ。(http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf)
また記事内容全体はつぎを参考にしたhttps://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/yamamoto/201401/534623.html