情景の群れ
初めての一人旅は、関西から九州へ、ひたすら鈍行列車に揺られて、車窓から外を眺める旅だった。
朝早く起きてこの時間に乗る、この時間に乗り換える、と計画していた電車の時刻にはことごとく遅れ、まあそれもいいかと一人旅の気楽さで電車に揺れる。
カタンコトンと線路の感触を感じるくらいの鈍行の速さは、人間らしい呼吸になじむ。人の少ないローカル線のボックス席に腰を落ち着け、本を読む。
時折目をあげると、窓からの景色は、ただただ田畑や民家が連なる広々とした田舎の風景。冬だったから、山は枯れ田に色もなく、一面茶色の景色だ。
でもそれもいい。
つーんと寒い冬の中、居心地のよい家にこもって背を丸め、こたつで家族と「今日も寒いね」と閑談しているさまが、ゆっくりと走り去っていく家々の中に見えるようで、なんだかいとおしい。
木々は眠り、人が生きる。
そんな季節は冬だけだなと思う。
赴くままにメモを取った旅行用のノートには、こういうとりとめのない気持ちと、その横に、ちょうど読んでいた本から写し取った美しい言葉が、しおり替わりの押し花のように挟まっている。
草いきれ、人待ち、雨だれの音、うらぶれた――。
そしてまた脈絡もなく、広島弁の女子高生たちが乗ってきて賑やかになる。
そんな情景をとらえたメモの群れが、旅行ノートの記念すべき1ページ目だった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。 わずかでも、誰かの心の底に届くものが書けたらいいなあと願いつつ、プロを目指して日々精進中の作家の卵です。 もしも価値のある読み物だと感じたら、大変励みになりますので、ご支援の程よろしくお願い致します。