ラムと音楽 ー 本当の大人になるということー
それはいつも通りの風景であり、
また、特別なひと時だった。
その日、店のカウンターに座る
ゲストの面々は、著名なジャズバンド
のメンバー。
だが、今日の彼らは演奏どころか
楽器を手にしてすらいない。
店主にレコードをリクエストする他は、
喋りもせず、時おりグラスに注がれた
ラム酒を口にしながら、
スピーカーから流れる音楽に
じっと耳を傾けている。
気がつけば、数時間が経過して
いた。そして、曲の合間にメンバー
の一人が、また同じ呟きを繰り返す。
「信じられない、こんな店」
別の日の夜、あるサルサバンドの
メンバーが、壁にもたれながら
タンブラーグラスに入ったモヒート
を口にして、嬉しそうに話し出す。
「本当にキューバにいるように思える店だ」
彼は店内の3階で、LIVEを終えた
ばかり。演奏と会場の熱気で
火照った身体を冷ますように、
ヘミングウェイが愛したという、
ミントの葉がたっぷり入った
キューバの カクテルを口にする。
「こんなお店は、東京にも無いよ」
別のメンバーが、周りに集まる
ファン達に語る。前の月、彼らは
六本木で6000人を集めた会場での
ライブを終えたばかりだ。
「このお店でLIVEをすることは、
僕らにとって、特別なことなんだ」
何度、同じ言葉を聞いただろう。
そして、頻繁にLIVEが開かれる
このお店では、どのバンドの
メンバーやミュージシャンも、
常に笑顔が絶えない。
プロであるはずの彼らが
まるで、この場にいるだけで
幸せだと言わんばかりに。
キューバ音楽とキューバ料理の
お店 HABANAでは、サルサダンス
のレッスンやダンスパーティも
度々開かれ、ふらりと立ち寄る
客もダンスの輪に加わる。
カウンターに座り、気が済むまで
一人寛ぐ客もいれば、
その日初めて知り合った者同士が
意気投合して話し込むこともある。
この2つの系列のお店は、誰しもが
そんな思い思いの時間を過ごす
ことを許される場所。
共通するのは、音楽を愛し、
お酒と料理を心から楽しむことを
大切にすること。
そして、15年以上もの間、それを
許してくれる場所として続く
このお店に敬意を払っていること。
大切にしたい場所。
大切にしたい時間。
大切にしたい文化。
本当に大切にしたいものを
大切にできる人間になることが
大人になるということ。
それが、このお店で過ごした時間が
教えてくれたことだと、
改めて気づく。
そして、思う。
そんなお店にいてもらえる街こそが、
本当に人を惹きつける魅力的な
街ではないか、とも。
※HABANAは現在、Miss Jamaica
として「進化」し、営業中
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