夢詠2:夢の継起
濡れ縁も
崩れし空き家
杉の蝉
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笹撫でて
ぬるき風過ぐ
陽の陰り
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雉鳴けば
夢は還りぬ
古き原
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夢統べる
傀儡師見たり
闇のむかう
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かの人の庭に
白き陽
降れよかし
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竹鳴れば
珠は零れて
慈雨のごと
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竹林を
異界のものらと
風が過ぐ
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椿落つ
いのちの神から
ものの神へ
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リラ萎れ
ものの神へと
委ねらる
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種こぼれ
いのちの神へと
委ねらる
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病み人の
部屋にも吹けよ
珠の風
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お父さん
ごはんだよ、と
娘呼ぶ
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マヨヒガの
椀ほど溢るる
こもれ陽よ
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夢の中
田に白湯湧き
人ら賑はふ
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竹林に
贈与の風吹く
彼の地より
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袂石
竹叢の胎
月は満つ
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分け合ふを
好みし母は
常に与ふ
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寝覚め聴く
珠のごときや
雨だれ音
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夢賑はふ
切り通しの街
暮れの市
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道々に
名も知らぬ黄の
小花咲く
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こもれ陽に
憑く沈黙に
憑かれたり
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夢にても
草花の黄に
会はんかな
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沼に葦
野に荻穂、ただ
風吹けり
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湿り苔
見入れば古野の
広ごりぬ
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このゆふべ
街路に散りし
夢拾ふ
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汝を呼びて
古き荻原
道行きす
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古野へと
至らば知らむ
痾の由も
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辻々の
夜闇賑はふ
百鬼夜行
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百鬼夜行
明けの草野に
消えゆけり
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悪童ら
蛇の仔打つな
川へやれ
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夢に猫
人語を喋り
我と行く
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ヘッドライトに
猫の仔
遊び終はるを待つ
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草道で
猫と目合ふ
やあと言ふ
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草叢に
太き尾立てり
老猫は行く
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河童らに
残しておけよ
片目魚
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葦叢も
灼けて泥鰌の
古き沼
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神山(やま)追はれ
子連れ狐が
舟渡り
(故・石牟礼道子さんへ)
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