NumataTaira
〈嵐の日に〉 夢の中、車を運転していた。台風がすぐそこまできていて、凄まじい風が吹いていた。わがスバルのスペックは情けないばかりで、ターボもついてないし、馬力も…
〈少年の夢〉 その晩の あまりに寒きに 少年は思ひを奪はれたり 時凍つままに 時虚しく流れ去ぬ 夢の街に槌音の絶え 木々の枝の垂れ沈む 雪凍つ晩に 思ひの灯は 灰燼に消…
〈神隠し〉 神隠しに あひたしと思へど 隠し神の何処へか 隠れ給ひき されば邪教の夢見者となりて 裏路地の灯火の下 賑わふ人らのあひだを縫ひ どこまでも彷徨ひ歩けば マ…
〈近接類同相〉 野良なれど我が物顔の「ウチの猫」 蒸し風呂を背広で泳ぐ夕立後 終電を待ち蒸されたり三番線 湿気忌む妻は窓閉めエアコン派 ほろ酔ひの一人祭りの夏夜…
会議の合間にその部屋…講義室だか会議室だかわからないその部屋を抜け出し、わたしは化粧室の鏡を見ていた。 その会議では、わたしが先送りしまた先送りし、を繰り返して…
〈夢の虫〉 我夢詠ずれば 日々是虚し 我夢詠ずれば 日々是哀し されど秋の虫のごと ただただ 夢を詠ずれば 時に愉しき こともありなむ 〈デパート〉 明るい照明 ピカピ…
〈写生論〉 屋上に冬の山なみ撮る人ら 初磨き踵減りたる老兵や 快晴も気の晴れぬまま初仕事 終電を待ち凍えたり3番線 夜更けまでキーボード打つ娘なり 冬嵐寝…
この『神隠しと日本人』は三十年ほど前に刊行されたものだが、中で夢について言及されているので、どうも捨て置けないという気がしてならない。だから少し深くまで分け入っ…
ゴミ出し当番の小学生、といった心持ちで、わたしは手に古い靴を持って、靴の処分場に向かう。そこは、広大な団地の一角にある。金網フェンスがあり、休憩中に喫煙所に集ま…
〈四季のなかの時〉 透明なシートの向かうの売り子かな(2020.9) … アクリルの板が隔つ客と客 (2020.9) … 店員のおばけかぼちゃの髪飾り … けたたましき百舌…
私は見知らぬ駅を目指して碁盤の目のような街の路地を歩いていた。この辺りを曲がればいいかな、と思い角を曲がる。すると視点は移動し、駅の反対側の町の光景を斜め上から…
ここは居酒屋かレストランのはずだが、案内され通されたのはまるで廃墟のような、というよりゴミ屋敷と言っていいようなとんでもない部屋だった。臭ってくるような目の前の…
〈敬〉 何処からか種来たり庭のカモミール ✴︎ 紫陽花の褪せて小雨の生ぬるし ✴︎ 花霊継ぐ紫陽花褪せてサルスベリ ✴︎ 廃屋の篠竹屋根を覆ひけり ✴︎ 古さび…
夢のなかの駅前広場が賑わっている。その隣は交番。その賑わいはそのまま自分が職場でいつも通りの仕事をしている場面に接続する。そのあと郊外の、どこにでもありそうな細…
濡れ縁も 崩れし空き家 杉の蝉 ✴︎ 笹撫でて ぬるき風過ぐ 陽の陰り ✴︎ 雉鳴けば 夢は還りぬ 古き原 ✴︎ 夢統べる 傀儡師見たり 闇のむかう ✴︎ かの人の庭に…
書かぬなら カフカ忽ち 砂に散らん ✴︎ 夢なるは 冥府下りの 英雄の闘い ✴︎ 土間は凍つ 夢の語りに 暖とりぬ ✴︎ わずかなる 一行、時に 人救う ✴︎ 落ち武者…
2023年5月28日 00:58
〈嵐の日に〉夢の中、車を運転していた。台風がすぐそこまできていて、凄まじい風が吹いていた。わがスバルのスペックは情けないばかりで、ターボもついてないし、馬力もトルクもやわなもので、台風の風に押し戻されんばかりだった。フォグランプを点け、マニュアルモードに切り替えた。後の座席に二人、家族が乗っていた。子どもたちだろうか…やがて風をつかまえた帆船のように車はスイスイと前進するようになった。帰りはた
2022年2月11日 22:20
〈少年の夢〉その晩のあまりに寒きに少年は思ひを奪はれたり時凍つままに時虚しく流れ去ぬ夢の街に槌音の絶え木々の枝の垂れ沈む雪凍つ晩に思ひの灯は灰燼に消え入りぬ〈終末〉戦争らしい避難所に大勢の人たちが集まりあわてた様子で行き交っている野戦病院なのかわたしが廊下を出口に向かって走っていると涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした女の子に出くわしたどこの誰かもわからず身
2021年12月29日 00:08
〈神隠し〉神隠しにあひたしと思へど隠し神の何処へか隠れ給ひきされば邪教の夢見者となりて裏路地の灯火の下賑わふ人らのあひだを縫ひどこまでも彷徨ひ歩けばマヨヒガの窓の灯りとほく近く明滅し暗き橋は崩れしも街隔てたる河渡るべし〈ゆふべの歌〉芭蕉の〈秋の暮れ〉も柳田国男の〈ゆふぐれ〉もヴェルレエヌの〈池のほとり〉もクジラやトビウオの群れたちとともにマイクロプラステ
2021年11月30日 23:16
〈近接類同相〉野良なれど我が物顔の「ウチの猫」蒸し風呂を背広で泳ぐ夕立後終電を待ち蒸されたり三番線湿気忌む妻は窓閉めエアコン派ほろ酔ひの一人祭りの夏夜かな息子には息子の思ひありと知れども子のレポートに口出し過ぎと妻怒るメルカリで妻に古書を買つてもらふ姪が児を宿しけりとや百日紅休日にあちこち修繕書も読めず老ひ兆す視界に糸くづ稲妻も健診も終へぬ久しき冷や
2021年8月28日 22:13
会議の合間にその部屋…講義室だか会議室だかわからないその部屋を抜け出し、わたしは化粧室の鏡を見ていた。その会議では、わたしが先送りしまた先送りし、を繰り返してきた当該の課題について慎重に議論がなされていた。そこからこっそり抜け出して、わたしは化粧室の大鏡に映し出された自分の顔を見ていたのだ。すると黒い帽子の下からくるくるっと丸まった長い癖毛がはみ出しているのに気づいた。夢の中のわたしはなんとな
2021年8月22日 17:37
〈夢の虫〉我夢詠ずれば日々是虚し我夢詠ずれば日々是哀しされど秋の虫のごとただただ夢を詠ずれば時に愉しきこともありなむ〈デパート〉明るい照明ピカピカの床にガラス扉わたしは人の流れの中をあるく二階では新入社員の若者たちが整列して研修を受けているそんなデパートの光景が夢に現れたらわたしの時間は何も選択せず思考が拡散していく日々を送っているということだすると時
2021年7月31日 23:34
〈写生論〉 屋上に冬の山なみ撮る人ら 初磨き踵減りたる老兵や 快晴も気の晴れぬまま初仕事 終電を待ち凍えたり3番線 夜更けまでキーボード打つ娘なり 冬嵐寝覚めに聞けば夢芒 寒風や老義父乗せて神経科 合否如何発表今日日ネットにて 菜の花や入学式の子のスーツ 講義ほぼリモートばかりと息子言ふ 「うちの猫」と子らが呼ぶやつ庭にをり 蛙鳴く常熟の夜の酒一合
2021年3月7日 00:04
この『神隠しと日本人』は三十年ほど前に刊行されたものだが、中で夢について言及されているので、どうも捨て置けないという気がしてならない。だから少し深くまで分け入ってみるとしよう。著者の小松氏がここでいう「柳田国男に徳田秋声が語ったという、秋声の隣家の青年の異界体験」とは柳田国男の『山の人生』にある次のような話である。また小松氏が「愛知県北設楽郡本郷町の青年の体験した異界」と言っているのは次の
2021年1月31日 18:22
ゴミ出し当番の小学生、といった心持ちで、わたしは手に古い靴を持って、靴の処分場に向かう。そこは、広大な団地の一角にある。金網フェンスがあり、休憩中に喫煙所に集まってきた周辺の勤め人といった風情の、お互い見も知らない大人の男女がそれぞれの靴を持ってくる。そして、タバコでも吸うように靴を燃やしてぼんやりと屯している。わたしは、少し恥ずかしかったが皆の前に出て捨てられた靴の脇に置いてある備え付けのものら
2020年12月26日 21:57
〈四季のなかの時〉透明なシートの向かうの売り子かな(2020.9)…アクリルの板が隔つ客と客(2020.9)…店員のおばけかぼちゃの髪飾り…けたたましき百舌鳥も何処か午後の陽や…からころと落ち葉転がる風の路地…黄落に踊るやうなり竹箒…冬陽射す野焼きのけむりたなびけり…タイヤ替へ鉛の雲や師走入り…店員のサンタ帽子の華やぎや…
2020年12月22日 23:19
私は見知らぬ駅を目指して碁盤の目のような街の路地を歩いていた。この辺りを曲がればいいかな、と思い角を曲がる。すると視点は移動し、駅の反対側の町の光景を斜め上から見下ろしている。田舎の小さな駅の周辺、不動産屋の受付のような、という印象の紺色の事務服を着た中年の女性が軽自動車を運転して粗末な駐車場、というより空き地に滑り込んで行く。捨てられた廃コンクリートで周囲を固められたような、砂利を敷かれただけと
2020年12月6日 19:34
ここは居酒屋かレストランのはずだが、案内され通されたのはまるで廃墟のような、というよりゴミ屋敷と言っていいようなとんでもない部屋だった。臭ってくるような目の前の生ごみを次々と片付けていくと、驚いたことにその下には小学生ほどの少年が横たわっていて、突然起き上がったではないか。いったいいつからこの生ごみの下に埋もれて寝ていたのか。ゴミのたまり具合からするともう何年も前からゴミの層の下で眠っていたのだと
2020年11月3日 17:33
〈敬〉何処からか種来たり庭のカモミール✴︎紫陽花の褪せて小雨の生ぬるし✴︎花霊継ぐ紫陽花褪せてサルスベリ✴︎廃屋の篠竹屋根を覆ひけり✴︎古さびた苔は湿りて空き屋敷✴︎空き屋敷隅の祠も空き家なり✴︎むせるほど葦叢灼けて雲眩し✴︎義母来たり籠に盛らるる茄子胡瓜✴︎塩焼酎供へ浄めて杉伐りぬ✴︎U字溝猫に追はれしハクビシン✴︎
2020年9月6日 19:13
夢のなかの駅前広場が賑わっている。その隣は交番。その賑わいはそのまま自分が職場でいつも通りの仕事をしている場面に接続する。そのあと郊外の、どこにでもありそうな細いアスファルト道の場面に転換する。夏の盛りで、萱草や葛の葉が盛り上がり道を覆わんばかりである。自宅の近くには、自分にとってとても大切な〈雑草ポイント〉がいくつかある。週末ともなれば、その〈雑草ポイント〉に向かって車を走らせたり、散歩した
2020年8月16日 13:55
濡れ縁も崩れし空き家杉の蝉✴︎笹撫でてぬるき風過ぐ陽の陰り✴︎雉鳴けば夢は還りぬ古き原✴︎夢統べる傀儡師見たり闇のむかう✴︎かの人の庭に白き陽降れよかし✴︎竹鳴れば珠は零れて慈雨のごと✴︎竹林を異界のものらと風が過ぐ✴︎椿落ついのちの神からものの神へ✴︎リラ萎れものの神へと委ねらる✴︎種こぼ
2020年8月1日 19:11
書かぬならカフカ忽ち砂に散らん✴︎夢なるは冥府下りの英雄の闘い✴︎土間は凍つ夢の語りに暖とりぬ✴︎わずかなる一行、時に人救う✴︎落ち武者や藪払い、ただ落ち延びよ✴︎曾祖父のごとき棕櫚伐る風通る✴︎目覚むれば何処も濁世と覚えたり✴︎敗残の雨でもペダル漕ぐ寒夜✴︎タイヤ替えワイパー替えつ泥悪路✴︎