まだ名前のない愛 ~ケイタ推しの私がボイプラを終えて~ 後編
前編はコチラ。
第一回生存者発表式から十一週目までのケイタ
放送五週目、初の生存者発表式が行われ、93人から一気に約半分の41人が脱落した。
ここでケイタはデビュー圏内の8位となった。
初回放送時点のケイタの順位は14位。そこから6位も上がっている。自分でも予想外だったらしく「8……?」と高順位に驚いていた。
これ以降、ケイタはTOP9の常連となる。
このあたりから、ケイタは課題のパフォーマンス以外でも存在感を放ち始めた。
デビュー経験がある上、韓国語が堪能だからか、番組内企画のMCを任されたり、
ダンスバトル企画で先生に指名され、対戦相手のウンギに合わせたおちゃめな動きで盛り上げたり
番組内でケイタは、間違いなく中心人物として扱われていた。
6話のミッション「デュアルポジションバトル」でも、得意のラップで魅せた。
デュアルポジションバトルは、ボーカル&ラップ、ボーカル&ダンス、ラップ&ダンスの3つのポジションに分かれて戦うミッションだ。
それぞれに課題曲が用意され、一定期間の練習を経て観客の前で披露する。
ケイタはその中で、ラップ&ダンスの『ZOOM』(原曲:Jessi)を選んだ。
ラップポジションは、詞の創作も課題に含まれている。
本番で披露されたケイタの詞は、こうだ。
Back on the stage ready mic on check (ステージに戻って、マイクチェックの準備だ)
한 마디 뱉고 다 제쳐 (ひと言吐いて)
바로 넘겨 한 페이지 (次のページをめくれ)
Guess who's the best (誰が一番なのか当ててみろ)
때가 됐어 (時は来た)
When I was 13부터 (俺は13歳の時から)
연구실에 박혀 살아 (練習室に閉じこもってた)
절대로 You can't (絶対にお前にはできない)
예상 밖으로 뛰어난 실력자 (予想以上の実力者)
끝없이 쉴 틈 없이 (休む暇なく)
때려 박아 귀 호감 (この歌で耳を癒やせ)
Do or die (やるか死ぬかだ)
무대 올라갈 땐 비정상 (舞台上では尋常じゃいられない)
이제 모두가 알아봤으니 길을 비켜봐 (気づいたなら、もう道を開けてくれ)
長年努力して誰もが認める実力をつけたにも関わらず、それにふさわしいステージに立てていないジレンマをよく表した詞だと思う。
今回のオーディションで絶対に成功したいという気合と覚悟が伝わってきた。
現場投票ではメンバー内1位を獲得し、今回も順調にステージを終えた。
そして次のミッション「アーティストバトル」に進む。
――いま思えば、ケイタの運命が狂い出したのはここからだった。
アーティストバトルは、今回のために書き下ろされた楽曲を披露する課題だ。
ただし、サバイバル番組らしく残酷なルールが提示された。
曲を自分で選ぶことはできず、担当する楽曲は視聴者投票で決まる。
その結果に従って10人グループになり、練習を進めるが、本番披露までに第三回生存者発表式が挟まれる。そこで脱落すればステージには立てない。
更に、各曲の定員・5人を超えたグループには「追い出し」があり、追い出された人間は約3日で別の課題曲を仕上げなければならない。
練習を経て迎えた第二回生存者発表式。
ケイタは一回目と同じく、8位にランクインする。
ここでケイタは「僕がトップ9に必要な理由を証明してみせます」と宣言する。
デビュー、という言葉は使わなかった。いま自分が所属しているグループ・Ciipherのファンに配慮したのかもしれない。
発表式を終え、生存者のみで練習が再開された。
しかし、ケイタがいるチーム『OverMe』は人気メンバーが多く、8人が残っていた。ここから3人は別の曲へ移動しなければならない。
移動者を決める方法は投票。
事前に一人ずつ、いかに自分がこの曲にふさわしいかをアピールし、「一緒にパフォーマンスをしたい人」2人を決めて紙に書き込む。
票が入らなかったり、少なかったりする人が移動者となる。
そこで、まさかのケイタが移動者になってしまった。
ケイタは雰囲気を悪くしないよう笑顔を作っているが、明らかに口元が引きつっている。おそらく自分が移動者になるとは思ってもいなかったのだろう。
ケイタは『Switch』チームに移動となった。
その後、「ゲリラショーケース」と題して、練習生たちの親御さんたちがサプライズで集められた催しが行われる。
ケイタのご両親も日本から駆けつけた。
合宿所に帰ってきた練習生たちに評価シートが渡されるが、実はそれは両親からの手紙だった。
お父さんが書いた〝楽しい青春時代を犠牲にして本当にがんばってがんばって挑戦している姿に、パパはとても感動しています〟という文章を読み上げ、ケイタは涙をこぼす。
ケイタは大阪で暮らしていた小学生のときから毎週末は東京でレッスンを受け、中学を卒業すると上京し、その後は単身韓国に渡っている。
おそらく、普通の子どもが当たり前に過ごせる気楽で平凡な時間が、ケイタにはほとんどなかったのではないだろうか。
芸能界では、頑張り度や苦労度が結果と比例しない場合がほとんどだ。
それでも、なんとか報われてほしいと願ってしまう。
今回のケイタのポジションは、サブラッパー3。
今までのキリングパートやメインラッパーという華やかなポジションに比べるとだいぶ地味だ。
先生にも存在感がないと指摘されてしまう。
その後、ケイタがサブラッパー3になった経緯が明かされる。
自信を無くしたケイタは、目立つパートに立候補せず、一番分量が少ないパートに自ら手を挙げていたのだった。
それでも、仲間と練習するうちに本来の明るい顔を取り戻し、本番を迎えた。
目がチカチカする蛍光色の衣装に、ゲームの中のようなセット。
好きな人を思うたびにウキウキと楽しくなる恋心を「スイッチ」に例えた楽曲を、短い時間でよく仕上げてきた。
しかし、結果は無情だった。
『Switch』チームは、全5チームの中で最下位になってしまう。
しかも優勝したのは、ケイタが元いた『OverMe』チームだった。
不穏な流れを断ち切れないまま、第三回生存者発表式が行われる。
ケイタは2ランク上がり、6位でファイナルに進出した。
本来なら喜ばしいことだが、今まで沢山の投票型サバイバル番組を見てきた私は、嫌な予感がした。
ファイナル前に順位が伸びる子は、デビューできるだろうと安心され、他の子に票が流れてしまうパターンが多い。
ギリギリの9位や、10位以下のほうが、最終的に票が集まりやすい。
しかもケイタは、以前から〝韓国票〟の弱さを指摘されていた。
実はこの番組の順位は、純粋な得票数で決められていない。
韓国国内の票を50%、それ以外の国の票(グローバル票)を50%に換算したポイント数をもとにした順位になっている。
つまり、韓国票がグローバル票の何倍もの力を持っているのだ。
実際、ケイタは純粋な得票数だと、何と1位である。
それがこの特殊な計算方法だと6位まで下がってしまう。
それでも、このときはまだ楽観視していた。
順位はギリギリになるかもしれないが、ケイタは多分デビューできるだろうと考えていた。
迎えたファイナルの日
2023年4月20日、20時50分から最終回の生放送が始まった。
まずはボイプラの表題曲『난 빛나(Here I Am)』が披露される。
画面に映ったケイタは、表情を固くしていた。
それは、自分のデビューを確信している顔ではなかった。
大観客の前で、プログラムは順調に進んでゆく。
今日に至るまでどんなふうに練習を重ねたか、何を思ってファイナルに挑んでいるのかを語ったインタビュー、そして面白おかしく作った楽曲のプロモーション――。幕間に様々なVTRが放送され、私は友達と楽しくそれらを見た。
ファイナルのために用意された曲は3曲。
多様な魅力を持つ練習生たちを、カラフルで色々な味があるゼリーに例えた『Jelly Pop』。
恋をしている相手からのリアクションに、狂おしいほど熱い想いを抱く様を描いた『Hot Summer』。
ここでケイタは、また素晴らしい表現を見せてくれた。
ケイタは自分のパートでカメラを見ていない。
もしかしてカメラの位置を間違えている?とヒヤッとした次の瞬間、こちらをくるりと振り向きカメラを力強く指差してラップをキメた。
しかもそのときの歌詞は、
내 맘을 가져간 다음 (僕の心を奪った次に)
한 박자 늦게 준답 (1拍子遅れて来た答えは)
である。
私はこのとき、ケイタが憑依型ではないと確信した。
楽曲に身を任せ、ステージで遊んでいるように見えても、
ケイタは決してコントロールを手放さない。
いつも計算と文脈に基づき、培ってきた技術のすべてを使ってパフォーマンスしているのだ。
ここまでの境地に達しているアイドルが、いったい何人いるだろうか。
またケイタに惚れ直したところで、バラード曲『Not Alone』が始まる。
ケイタは瞳を潤ませながら、カメラの先の人に届けるように丁寧にラップをこなした。
そしていよいよ、最後の順位発表式が始まる。
その順位やメンバーは誰も予想ができなかったほど波乱に満ちていた。
1位から8位までのメンバーが呼ばれたが、そこにケイタはいない。
あとは最後の9位しかなくなってしまった。
会場では、ケイタではない他の練習生のコールが巻き起こり、残っている子たちは複雑な表情を浮かべていた。
結局9位は、そのコールで名前を呼ばれた子だった。
ケイタがデビューできないと分かった途端、全身から力が抜けた。
番組終了後はすぐにファンクラブに入り、例えコンサートが韓国で開かれようとケイタを追いかける予定だった。それがすべてなくなってしまった。
ほとんどの視聴者は、ケイタがデビュー組に入ると予測していたと思う。
しかし、結果は12位だった。
それまで全ての順位発表式で9位以内に入っていたのに、ファイナルで初めて順位を落としてしまった。
事実が受け入れられないまま、ボイプラは幕を閉じた。
夢のあとと続き
ファイナルから一週間がたった。
はじめは辛くて全く見られなかったボイプラの動画や、デビュー組の新たな写真も徐々に見られるようになってきた。
ケイタはCiipherのメンバーに戻り、
ファンとLINEのようにメッセージをやり取りできるサービス『bubble』を再開した。
マメにメッセージを送ってくれるので、私もよく返信している。
これからCiipherがどう活動していくのか分からないが、
CDを発売するなら買うし、ライブを開いてくれるならどこでも駆けつけようと思っている。
アイドルを推す、という行為は、
疑似恋愛であると雑にまとめられることが多い。
しかし、私がケイタに抱いているのは恋心ではない。
人間の気持ちは、今ある言葉以上に多様で複雑だ。
親戚の子に向ける目線、というには熱を帯びすぎているし、
友達ほど近しい気持ちでもない。
だけど、ふとしたときに、元気だろうか、ご飯はちゃんと食べているだろうか、笑っているだろうかと気になり、幸せであってほしいと願う。
そんな〝まだ名前のない愛〟。
これからもそんな愛をケイタに向けていければと思う。
ボイプラでケイタというアイドルに出会えて、ほんとうによかった。