「脱出ゲームは難しくあれ」
こんばんは。numaです。
本日も元気に小説投稿していきたいと思います。
今回のテーマは「脱出ゲーム」です。
短く読めるので、もしよかったらご一読ください。
それではどうぞ。
「脱出ゲームは難しくあれ」
薄暗い部屋の一室で、女が目を覚ました。
「……え!? なに? ここどこ!?」
女は周囲を見回してそう叫ぶ。俺は必死に、自分の顔に滲み出ようとしている笑みを堪えて言った。
「俺にもわかんねえよ……」
俺は今日、目の前の女を誘拐した。女が路地裏に入った瞬間、背後から女に覆いかぶさり、薬品の匂いを嗅がせて眠らせた。そしてこの部屋に連れてきたというわけだ。
「なんなの? あなたは誰?」
「俺もあんたと同じだよ。わけがわからない」
ふっ、いい感じに焦っているな。目の前で狼狽る女を、満足げな表情で眺める。
この女は俺が長い間ストーキングし続けていた女子大生である。そして俺の目的は、この女とセックスすること。しかし、誘拐して人気のないところに連れて行って、無理やり犯すのはナンセンスだ。セックスにはお互いの愛が必要。俺は愛あるセックスを望んでいた。
そのために俺が思いついたのが今回の計画だ。まず、女を誘拐し、この部屋に閉じ込める。そして、あたかも俺自身も何者かに誘拐されてこの部屋に閉じ込められたかのような芝居を打つ。そして、この部屋で脱出ゲームを行う。クイズやら何やらは色々と用意した。しかしもちろん、それらのクイズはダミー。正解したところでなんの意味もない。脱出はできず、永遠とこの部屋に閉じ込められることになる。そうして俺と共に脱出ゲームを行い続ける中で、お互いに信頼が生まれる。ここまで来たらあとわずかだ。当然、長い間ここに居れば、性欲も湧いてくる。抜かりない俺はこの部屋にシャワー室とベッドも完備した。この状況でセックスしない男女がどこにいる? いないだろう? これが俺の計画だ。
「ああ! 鍵かかってる! 閉じ込められてる!」
「落ち着け。見てみろ、冷蔵庫の中の食糧を。これだけたくさん用意されているなら、2人で2週間は持つだろ」
「2週間って……そんなに待てるわけないでしょ! 早くここから出してよ!」
いいね。焦っている。この緊迫感。まさしく吊り橋効果だ。よし、この流れでまずは第一段階だ。俺は隠し持ったリモコンで部屋に置かれたテレビの電源をつけた。
「あ……テレビがついた。『どんな方法でもいい。2人で協力してこの部屋から脱出せよ』?なんなの、これ……?」
「脱出ゲームってことか?」
「脱出ゲームって……映画の世界じゃあるまいし」
「でも、実際そういうことだろ? この文面」
「なんでこんなことに……」
完璧だ。俺が思った通りのリアクションを取ってくれる。よし、じゃあ次は早速1問目のクイズを……。
「あ! ちょっと待って!」
女が突然、声をあげた。
「なんだ?」
「この部屋、窓ある」
「え?」
「窓割れば、逃げれるんじゃない?」
「……え?」
「ほら! テレビとかあるし、これで窓割ろうよ!」
俺にとって想定外のリアクションが返ってきた。そうだ。窓を忘れていた。割られたら普通に脱出成功だ。
どうにかしなきゃ。俺は必死に平静を装いながら言った。
「待て待て、そんな簡単な話があるか? もしかしたら窓を割って逃げるのはルール違反で、何かまずいことが起こるかもしれないぞ」
「でも、『どんな方法でもいい』って書いてあるし」
「いや、でも、その……」
俺のバカ! 無駄な一文足しやがって。
「多分大丈夫だと思う。テレビ使って早く割ろう!」
まずい! 逃げられる! こうなったら……。
「あー! な、なんか、テレビの下に、落ちてるぞ!」
「あ、ほんとだ……って、え? これ、AV……?」
このままではもう逃げられてしまう。俺は性欲増進のために用意していたAVをこのタイミングで使用することを決断した。もしかしたら、これを見たら性欲が湧いて、セックスしてくれるかもしれない。
「なんでこんなところにAVが?」
「と、とりあえず、見てみよう」
「は? 見るわけないでしょ? 意味ないでしょ」
「何か、ヒントが隠されてるかも……」
「だから、ヒントもなにも、もう答えは出てるんだって。テレビで窓を割る。これが答え」
くそ! やっぱり通用しないか……どうしよう、どうしよう……なんとかして引き留めないと。
「あー、なんか、シャワー浴びませんか?」
「は?」
「俺もう恐怖で冷や汗だらだらで……。シャワー浴びたいです!」
「え、あ、勝手にどうぞ……。私、先に逃げてます」
「いやー、そんなこと言わず……」
「さっきからなんなの? 脱出して欲しくないみたいな感じだけど」
「そんなことはないんですけど……」
序盤の落ち着きはどこへやら。慌てふためきながら必死に女を引き止めている。俺は自分の計画の浅さに失望しつつ、しかし最後の希望にかけて、とっておきの一言を繰り出した。
「就活で使えますよ!」
「……?」
「就活! 強いエピソード欲しいでしょ! あなた就活中なんだから。誘拐されて脱出ゲームさせられたなんてめちゃくちゃ強いエピソードですよ! こんな簡単に脱出しちゃったらもったいないでしょ!」
「いや、え、そんな話、就活じゃ使えないし……そもそもなんで私が就活してること知ってるの?あなたまさか……」
まずい! 気付かれた! 俺がそう思ったと同時に、女はテレビを両手で持ち上げ、思いっきり窓に打ち付けた。窓は粉々に砕け散り、女はその穴を抜けて外の世界へと舞い戻って行ったのであった。
「あー! 待って……」
俺の言葉も虚しく、女の姿はすぐに視界から消えて行った。
その場に茫然と立ち尽くす俺。計画破綻がこんなにも早く訪れるなんて……。
ピコン!
俺のポケットから音が聞こえた。見るとスマホがメールの通知を知らせる音だった。
「あ、この部屋スマホの電波も届いたんだ……」
俺は部屋の天井を見上げながら、そのまましばらく動けなかった。
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