「未来の話」

こんにちは。numaです。

もうすぐオリンピックですね。

ということで、今回は、オリンピックに関連したお話を書いてみました。

お時間ある方、ぜひ、ご一読ください。


「未来の話」

 2096年。7月。大々的な開会式と共に、スポーツの祭典、オリンピックが開幕した。
 情報番組の中では、新人女性アナウンサーが開会式の映像をバックに、オリンピックの歴史を振り返っている。
「今年のオリンピックは75年ぶりに東京での開催ということですが、75年前、2021年開催のオリンピックではとても象徴的な出来事がありました。新型コロナウイルスによる開催延期。もともと2020年開催の予定だった東京オリンピックは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って2021年に延期されたんですよね」
「ええ。私は当時5歳の子供だったんですが、せっかく当選したオリンピックのチケットが再抽選になってしまって……大泣きしたのを覚えていますよ」
 白髪のコメンテーターが昔を懐かしむような柔和な表情で答える。そう、東京オリンピックは2021年に延期され、観客の人数制限が行われたことでチケットの再抽選を行う必要が生じてしまったのである。
「それはショックですね。チケット再抽選の問題以外にも、2021年開催のオリンピックは様々な問題を抱えていました」
「そうですね。当時のオリンピック開催に対する逆風はすごかった」
「はい。感染拡大を広げてしまうのではないかとの懸念から、多くの人たちがオリンピック開催に反対していました。当時の政府の対応も、国民の声を真摯に受け止めているとは言えず、安全性などの説明もしっかり果たせていたとは言えません」
「あれじゃ批判されても当然です」
「そんな声が上がる中で開催された東京オリンピック大会2021ですが、変異株に感染していた外国人選手が日本に入国したことで、当時の日本ではまだ流行していなかった形のコロナウイルスが流行してしまうという出来事がありました」
「あれが原因で菅政権は完全に支持率を失いましたね」
「はい。でもそれ以外は目立った問題は起こらず、大会は無事終了したんですよね」
「ええ。オリンピック関連のクラスターの発生などは起きませんでした」
「それは本当によかったですね」
「実際、オリンピックの放送に勇気をもらったと言っている人たちも多く、やはり、スポーツの力は偉大だと感じましたね」
「その通りですね。そんなオリンピックが、いよいよ今年、75年ぶりに東京に帰ってきました」
「いや〜楽しみです」
「どの競技に1番注目していますか?」
「私はやっぱりモルックかな〜……日本代表はついこの前の世界大会でベスト4入りしてますからね。メダルが期待できます」
「なるほど。私もモルックには期待しています」
「あとはバスケですね。息ができないスポーツ、『陸地の水泳』と言われてますから、必死に走り続ける選手たちを見ていると応援したくなります」
「バスケに限らず、コロナの影響で多くのスポーツが選手たちに今まで以上に体力的負荷を与えるものになりましたね」
「ええ。2032年度大会で競技中にもマスクの着用が義務付けられてからは、スポーツの形も大きく変化したと言えます」
「そうですね。コロナウイルスの進化は止まらず、現在でも感染拡大は収束していない。今後、いつの日かマスクを外してスポーツできる日が来ることを願っています」
「そうですね」
「そろそろお別れの時間が来てしまったようです。感染症対策を万全に、コロナウイルス南極型変異株の猛威に打ち勝ち、今年の東京大会を私たちの手で成功させましょう。近年、スポーツ中の酸素不足による死者が増えています。前回大会でも命を落とした選手がいます。今年こそは死者を0人にすることを目標に、良い大会ができることを祈っています。それでは、さようなら」
 そう言ってお辞儀した彼女の顔は、仰々しいガスマスクで包み込まれていた。

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