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「数字戦争」

こんにちは。numaです。

本日は2本目の小説投稿です。

僕は大学で文章創作の授業を履修しているのですが、

今回はその授業の中で書いた作品を掲載いたします。

テーマは「縦と横」。

ぜひ、ご一読ください。


「数字戦争」

 「相変わらずしけた面しとるのぉ、お前さんは」
「あなたこそ、シワが増えたんじゃないですか?」
 廃墟で睨み合う彼らの後ろには、それぞれ同じ体数の組員が待機していた。組員の数はそれぞれ8体。それに組長を加えた9対9の構図が出来上がっている。

「今日こそは決着つけさせてもらおうじゃねぇか」
「ええ、臨むところです」
 彼らはこの世界で二大勢力を誇るヤクザ「漢数字組」と「算用数字組」。組員は全員数字そのものである。漢数字組の組員は一〜九までの9体。組長は当然、九。対する算用数字組の組員は1〜9までの9体。組長は当然、9である。

 彼らは長い間この世界で覇権争いを繰り返してきた。漢数字と算用数字、強いのは一体どちらなのか。その答えが今日、ついに出ようとしていた。

「早速戦いを始めるぞ、9よ」
「ええ、いつも通り、数字戦争でいきましょう」
 数字戦争とは、シンプルに数字の強さで競い合う戦いである。例えば漢数字組が組員の中から三を、算用数字組が組員の中から4を出したとすると、この時、数字が大きい4を出した算用数字組の勝利となる。負けた組員はその場で勝った組員から根性焼きを食らうというルールだ。ちなみに同点の場合はお互いにダメージを与えることはない。これを9回繰り返し、最終的に勝利数の多い組が総合優勝となる。

「まず第1回戦、相談タイムだ」
 この戦いには必ず毎戦10分の相談タイムが設けられる。この間にじっくりと組員で協議し、戦地に派遣する数字を決めるのである。

「まずはセオリー通り、小さめの数字でいくのがいいでしょう」
「それは分かっている。しかし、ここで重要なのは小さい数字でいかに相手に勝つかということ。相手が2を出してきたのにこちらが一を出して負けてしまったら非常にもったいない。初戦でどれだけ勝負に出られるか。三まで出せるのか? 四まで出せるのか?この駆け引きが非常に重要」

 10分間という、長いようで短い相談タイムが終了し、ついに初戦の開幕となった。
「せーの!」
 掛け声とともにお互いが組員を戦場に召喚する。
「漢数字組!三!」
「算用数字組!2!」
「よし!勝ったぞ!俺たちの勝利だ!」
 初戦、三対2で漢数字組の勝利。算用数字組は悔しそうな表情を浮かべる。
「くっ…見誤りましたか」
「よし、ルール通り、三!やってやれ」
「はい!組長!」
 三は手に持ったタバコを2の額に押し付けた。
「ぐわっ!あああ!」
「よし、幸先いいぞ。では2回戦、相談タイム開始」

 苦しそうに悶える2を横目に、第2回戦の相談タイムが始まった。
「負けましたね……」
「ええ。次は肝心です。ここを取られるわけにはいかない」
「相手もここは狙いに来ると思います。全9回戦で2連勝、かなり有利になります」
「うーん……しかしこの戦いは連勝すれば有利というわけでもありません。連勝したとしても、それはつまり大きい数字を使い切ってしまうということにもなりかねない。どのタイミングでどんな数字で勝負に勝つか。それが重要です」
「だとしても、次を取られるわけには……」
「そうですね…次は勝っておきたいですね……」

 10分が経過した。お互いが掛け声をあげる。
「せーの!」
「漢数字組!六!」
「算用数字組!8!」
「な…8だと!?」
2回戦で8という組のNo.2を出してきた算用数字組に驚嘆の声をあげる漢数字組。
第2回戦、六対8で算用数字組の勝利となった。

「バカめ。もう8を使ってしまうとは…後悔するぞ」
「それはどうかな……」

 根性焼きの儀式が終わり、3回戦の相談タイムが始まった。
「8で来ましたね……」
「これで相手はかなり強い手札を失った。もう安直に7やら9やらは出せんだろう」
「でも、確実に8で勝ちに来たのはさすがですね。例えば8を出したとして、それが9に破れることもあり得る。8という強い手札でしっかり勝っておく、案外いい戦略だったのかもしれない……」
「相手の戦略に関心してどうするんじゃお前は。だとしても8を出すには早すぎる。後で必ず後悔することになるだろう。さあ、ここもしっかり考えていくぞ」

 10分経過。3回戦の幕が開く。
「せーの!」
「漢数字組!一!」
「算用数字組!1!」
 3回戦。結果は本日初めてのドローとなった。一対1でのドロー。これはある意味、最も平和的な結果である。

「ふん……やはり1できたか」
「やっぱり一で来ましたね」
「よし!よくやった!一!帰ってこい!」
「はい!」

 1(一)という数字は絶対に勝つことのできない数字である。では何を目指すか。それは同点である。今回はお互い、相手が1(一)を出すタイミングを予想し、それが見事的中した。長い間この戦争に身を投じてきた彼らの予測能力の高さが見て取れる。

「足手まといが……よかったな。今回は最低限の働きができて」
「でも同点しか取れないって……本当使えないやつだな、お前」
 算用数字組のもとに戻ってきた1に先輩数字たちがひどい暴言をぶつける。1は悲しげな表情を浮かべ、隅の方に身を隠してしまった。

 その後、4回戦、5回戦、6回戦……と、拮抗した勝負が続いた。
 第4回戦、七対4で漢数字組の勝利。第5回戦、二対3で算用数字組の勝利。第6回戦、四対7で算用数字組の勝利。第7回戦、五対5で同点。第8回戦、九対6で漢数字組の勝利。ここまで、漢数字組3勝、算用数字組3勝。勝負は最後の1回戦に託された。

 ……がしかし、最後の1回戦は消化試合のようなものである。なぜなら漢数字組に残された数字は八、算用数字組に残された数字は9であったのだ。
「どうやら、ついに決着が着いたようですね」
「……」
「一応、相談タイム取りますか? 何か逆転するすべでもあれば、この10分で考えてください」

 圧倒的に不利な状況。算用数字組の笑い声が聞こえる。数字戦争のルール上、この状況でも必ず10分の相談タイムは設けられた。この状況下で逆転するための案を考える、最後のチャンスとして設定されているものだったが、この相談タイムを活用できた例は未だない。

 無情にも10分はあっという間に過ぎ、最終戦が開幕した。
「長かったですね。さっさと勝負を決めてしまいましょう」
「……」
「ではいきますよ。せーの!」
「漢数字組!十!」
「算用数字組!きゅ……十!?」
「ん? なんて?」
「さ、算用数字組……9……」

 なんと、八という手札しか残っていないはずの漢数字組が十という手札を召喚してきたのだ。
「なぜだ!なぜ十がいる!?」
 いつも冷静なはずの9が取り乱す。
「まさか……はっ! 1がいない!」
 先ほどまで算用数字組にいたはずの1の姿が見当たらない。すると、漢数字組の方からその声が聞こえてきた。
「僕はここだ!」
 1は戦場で堂々と立ち尽くし、算用数字組を睨みつけながらそう言った。1は細い腕で一を抱え、その姿はまさしく漢数字の十そのものだった。

「なんだと……?まさか、縦線のお前と横線の一が合体して十を作り出した?」
「その通りだ!」
「なぜ裏切った!?」
「僕は算用数字組でずっとバカにされてきた。さっきだってそうだ。足手まといだ、使えないやつだ……僕はいつかお前たちを見返してやろうと思ってたんだ! そんな時、漢数字組の一さんの扱われ方を見た。僕との勝負で同点だった一さんを、『よくやった』って、漢数字組のみんなは褒めてたんだ! お前らとは大違いだ! その時僕は決めた。これからは九さんについて行こうって!」
「なん……だと」
 9は膝から崩れ落ちると、地面に頭を擦り付けながら絶叫した。
「くそー!!!」

 かくして、長い戦いの決着が着いた。勝者は漢数字組。それは数字の強弱に捉われない、温かい優しさが生んだ勝利であった。

めでたし。めでたし。

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