ノーベル文学賞_20241016
・ハン・ガン
2024年のノーベル文学賞は、韓国出身の女性作家、ハン・ガンさんに送られた。
日本語で読めるものもあり、河出書房が出している『すべての、白いものたちの』という本を読んでみた。
身の回りの様々な白いものたちを思い浮かべながら、主人公の過去、現在を振り返っていく物語、というスタイルだ。
過度に詩的という訳ではなく、根底に流れる一つのストーリーがあるように思える。
まとめてしまえば、暗く無感覚になってしまった人が、少しずつエネルギーを感じ始めて、前、未来を、明るい世界を見ていく、という感じだ。
暗くて冷たい白もあれば、温かくて前向きになるような白もある。
真っ白から、銀色のような色、本当の白というよりは白いと表現されるもの(波)など、グラデーションがある。
読者は、著者に連れられあちこちを見て回ることになるが、脳内は常に白い光が片隅にある。
歴史や社会的な構造も含めた感覚なので、個人的なストーリーに留まらず社会への警鐘とも取れるところがある。
・カズオ・イシグロ
日系のイギリス人。
小説は読んだことはないが、『日の名残り』という映画を観たことがある。
Netflixで観ることができる。
30年前の映画だ。
主人公は、立派なお屋敷に仕える執事の男性。
彼自身は特権階級ではなく、そういう人たちに支え、屋敷という建物、空間をマネジメントする立場だ。
主人は、各国の首脳を招くことができる高い身分の人だった。
ヒトラーが台頭し、第二次世界大戦が始まる前、どのような国際政治があったのか、その舞台裏も描いている。
今では大きなホテルがこういった役割を果たしていると思うが、昔は身分の高い有力者が屋敷を保有し、召使たちを鍛錬し、貴賓たちにお支えできるようにしていたのだろう。
それを取りまとめる男は、学がない。
目先のプライドや情にも囚われている。
そして人生を楽しもうという考えもない。
そこにやってきた有能な女性。
恋心にも似たものを持つが、対立して彼女は屋敷を去ってしまう。
切なさを感じるいい映画だった。
・村上春樹
今年こそ、と取り沙汰されて早10年か。
確かに、文章の綺麗さ、構成の素晴らしさはノーベル賞に匹敵するだろう。
だが、取り上げるテーマや結論が、個人的なものだったり、違和感のあるものだったりするところが、受賞できない理由かもしれない。
ねじまき鳥クロニクルは、戦時中の出来事が描かれていて、それが今の自分にも何らかの形で関わっている、という話だ。
また、オウム真理教のサリン事件を取り上げたルポタージュは、社会の闇に迫るものだった。
社会、歴史、政治という大きな物語への対抗、個人の自我の確立というテーマが村上春樹の小説では一貫している。
興味を惹きつけてやまない小説家だ。
新作を楽しみにしている。