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今はなき場所に思いを馳せてみたりする

 高校時代にしたアルバイト先は、今全部潰れてもう無くなっている。

 高校生活でやったアルバイトは2つだけ。

 一つはラーメンチェーンの幸楽苑、もう一つはスポーツ用品店のヴィクトリアだ。

 少し前に帰省した時に、数年前に両方なくなったよと言う話をふと思い出して今、したためることにした。

 高校生になってどうしてもやりたかったことはアルバイトであった。
 高校生になってようやく、労働し対価として金銭を受け取れる行為が解禁される。厳密に言うと違うが、少なくとも俺としてはそうだった。
 それまでは風呂掃除をして50円を稼いでいた小学校時代や絶妙な設定の小遣いをもらっていた中学時代くらいしか金銭を得る術がなかった俺は、前に書いた部長との日々以前から、高校入学から一週間程度で面接へ赴いたのだ。

 兎にも角にもラーメンが好きで仕方なかった俺は家から物理的に一番近い幸楽苑に電話し面接へこぎ着けた。
 内容は何も覚えていないが、確か行ったら靴のサイズ等を聞かれたから多分二秒くらいで採用されている。

 内容はなんて事のない、皿洗いやらオーダーやら、配膳やらウンタラカンタラ。
 大して面白くもなかったけれどこれで金がもらえるならなんでもやるぜと、今の金に汚い大人になった俺の一番基礎はこのチェーンラーメンショップで打設されたのだろう。

 実はそれなりに要領のいい俺は、皿洗いの雑魚からあれよあれよと言う間にギョウザ係(正確にはギョウザ・ライス係、略してギラ)に上り詰めたのだ。

 これがなかなか面白く、オーダーが入ると如何に要領よく餃子と炒飯、丼ものを調理しつつ麺の提供と合わせていくかを考えるのが楽しかった。
 麺あげと呼ばれるラーメン係はだいたい店長か社員がやっていたから、うまくコンビネーションが発動すると、まるで自分がエースのように感じて楽しんでいた。

 その後盛り付け係やアイドルタイムの麺あげ係まで上り詰めるが、ある日突然急にバイトに飽きてしまい、2年弱働いた幸楽苑を辞めてしまった。

 嫌になったとか、辛いとかそう言う事ではなくて、本当にただ飽きてしまったのだ。
 気まぐれな根無草の性格はこの頃から顕著になっていて、何でもかんでもすぐ飽きてしまう悪い部分がメキメキと育っていったのがよくわかった。

 こうして俺は無職(高校には通っていたので学生だが)になった俺は、次は飲食じゃないところがいいなあとコンビニにあったタウンページをパラパラとめくりながら求人を探していた。

 この時高校二年生も終わりかけ。残り一年近くのアルバイト生活をどう組み立てていくかを考えていた。
 ちなみに何となく、高校卒業と同時に地元を出ていく気がしていたから残り一年だろうなと感じていた。この予想はしっかり当たるが別の話。

 すると近くのスポーツ用品店で、短期バイトを募集しているとの事だったため、なんか面白そうだなとさっそく電話をかけるのであった。

 面接はタバコくさいバックヤードで行われて、あーだのうーだの言っていたらあっさり終わって「ま、よろしくね」と言った感じで二つ目のアルバイト先が決まった。

 入った時期が良かったのか、冬の少し前ということで花形のシーズンもの、スキー売り場担当に配属された。
 そこには社員のタベイさんと大学四年生アルバイターのアライさんがいた。二人は俺をたいそう可愛がり、バイト終わりによくガストに連れて行ってもらった。

 そのガストでは、俺が高校生だなんて思ってもいないのか当たり前のように喫煙席に連れて行かれ、二人はいつもアメスピのペリック(黒いパッケージのやつ)をばかすか吸いながら、まるで俺が大人になったかのように錯覚するような話ばかりしていた。
 あそこのパチンコ屋は勝てる、とか来週どれくらいスキー用品売れるかな?とかレジの◯◯さん可愛いよなとか、そういう話ばかりしていた。
 俺も一生懸命、さもわかったかのような顔をしながら話をして、あまり良い匂いじゃないタバコの匂いを浴びた。

 車で御茶ノ水のヴィクトリア本店に連れてってもらってタベイさんの師匠らしい人に会ったり、卒業式の練習をサボっては、タベイさんとアライさんと貰ったリフト券を使うべく朝4時起きしてゲレンデに行き倒した。

 他にも社員の人と遊びに行ったり、ビーニーと呼ばれるニット帽とかグローブとかそういう小物売場のお姉さんといい感じになったり、そういうイベントが目白押しの1年間だった。

 気がつけば俺も高校卒業の時期にさしかかり、いつか話すけれど地元とは全然別の場所に進学してしまったからここで俺とヴィクトリアはお別れになり、またゲレンデいこうねと話していたけどやっぱり疎遠になってしまった。

 こうして俺のアルバイト人生高校生活編は幕を閉じ、楽しかった思い出を心に残し、店舗が知らない間に消え去ってまた、俺の思い出の中だけに存在するノスタルジーになってしまったのだ。

 あの店が、あの店達があったところには今何があるんだろうか。
 また俺のようなどこにでもいた高校生がアルバイトをして思い出を作ったりしているのだろうか。

 そうだったらいいなあと、今はない思い出の場所に思いを馳せてみたりしている。

「今はなき場所に思いを馳せてみたりする」

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