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意外な素ぶりが幸せなのかも

 二十歳になる頃、俺はなつみちゃんの家に住み着いていた。
 そんなに広くないワンルームで二人。


 なつみちゃんに出会いました




 前に書いた通り俺はバイト先から随分遠いところに住んでいたから、朝も夜もシフトに入っていた俺は随分と忙しくその遠い距離を歩いたり自転車に乗ったりして休まず通っていたのだった。

 なんでこういう流れになったか全然覚えていないんだけど確かバイト先の飲み会の帰りかなんか、方向がやんわりと一緒の俺となつみちゃんは(やんわりと同じだけで俺は遠回り)今日楽しかったねとか、そういう話をしながら名残惜しいなあと考えていたらなんとなく、ホントになんとなく家まで送るような流れになった。

 そうしているとなんだか家の前でさよならなんて味気ないよねみたいな感じになり、気がついたらなつみちゃんの家の小さなテーブルを囲みながら、買ったんだか貰ったんだかわからない我らがスターバックスのコーヒーを淹れてもらっていた。

 他愛のない話をしていると、こう言う場合一体いつおいとますれば良いかよくわからなくなっていたりしたのだ。

 誓って下心がある訳でも、いやちょっとはあったと思うけど、どうこうしてやると思っていた訳でもないし、何より可愛い女の子より手前に可愛い後輩というポジションだから俺は一生懸命踏みとどまるべきなんだと思っていた。

 そもそもなし崩し的に部屋に入っている時点でどうなの?と言うのは一旦置いておいて、努めて紳士的でいるようにしていた俺の涙ぐましい努力によって、結局帰るタイミングを逃し続けて泊まることになってしまったけど特に何も起きず起こさずちゃっかりシャワーまで借りて翌朝朝ごはんまで食わせて貰ってのうのうと昼下がりに帰るという立ち回りを見せつけた。
 これを書いていて思ったけど本当に意味不明なムーブなのは俺が舞い上がってしまった何よりの証拠なんだろう。

 事実は小説よりも奇なり。
 俺が帰宅した日。その日もバイトの夜シフトがなつみちゃんと被ることになった俺は、何も起きてないのになんだかお互いちょっとよそよそしいと言うか、フワフワした感じで居ると閉店後、なつみちゃんは当然ですよねといった顔でやはり、送ってくれるんですよね?と言ってきやがるのだった。

 これは懐かれているだけ、勘違いするなと自分に言い聞かせつつ、アイスでも買って帰ろうぜと満更でも無いムーブをしてしまうのだった。

 こうして俺は度々、シフトが被れば送るのを口実に泊まっては床で寝て起きて朝ごはんを食べて帰ると言う意味のわからない日々をスタートさせることになったのだ。

 普通にいつか「迷惑なんですけど」となる日までの限定的な行為なんだろうなあと思っていたが、なつみちゃんはどこか受け入れると言うか、諦める?かのようにタンスの一段を俺に明け渡し最初はバイトの時に着るシャツとズボン用に、時間が経つと下着や靴下を入れるなんかあの、仕切りみたいなやつを支給してくれたりし始めた。

 歯磨き粉が切れれば俺の好みのやつを買ってみたり、もはやバイトも何も関係なく家に行って夜ご飯を勝手に作ってても何も言われなくなったりした頃。

 俺は完全になつみちゃんに好きだと言う気持ちを伝えないまま、さも付き合っているかのようなよくわからない関係が続いていることにモヤモヤし始めたりしていた。

 いやいや、お前が早く言えば万事解決だろ、エモがるなよと言う意見はごもっともだし、俺だってそう思う。
 しかしいざこの関係と生活が構築されていくと、そう言うことを口に出すことによって関係が壊れてしまうんじゃ無いかと言うある種不安のような感情が発生してしまったりするのだ。

 そう言う気持ちが全面に出るからこのプラトニックな関係は続いているし、一緒に過ごせるならなんでも良く無い?と言う感情もまたあったりするのである。

 とは言え突然なつみちゃんに彼氏が出来たとしたら余裕で俺の場所は消えてしまう訳であるから、タンスに溜め込んだ洋服をはじめとする勝手に持ってきた荷物を全部抱えて俺は帰らないといけなくなる。

 こうして一人勝手に思い悩んでいると秋が訪れようとしていた。

 もはやなつみちゃんの部屋だけではなく俺の部屋にも来るようになっていた彼女は、勝手に俺の部屋にクリスマスツリーを置く計画をプレゼンしてきたり、ニトリにトナカイのオブジェあったから買ってきたわ!と人の気も知らないで呑気に可愛いのであった。


 と、言ったことを唯一の同い年のバイトの同期の女の子に話してみたら普通に蹴られて女の敵!いい加減にしろ!と怒られてしまった。

 それがあったからと言う訳では無いけれど、いい加減俺自身痺れを切らしたと言うか、やっぱり彼女にとっての何かになりたかったから、自分の弱い感情もまるっと話して、もし終わったら憂鬱な気持ちと一緒に荷物を持って帰って、多分きっと気まずくなってバイトを辞めるんだなといった訳のわからないシミュレーションを展開して帰路についた。

 帰って風呂に入って、いつものように床で寝ながら、さもなんでも無いこと言ってますよ、というような顔で「付き合わない?」と言ってみた。
 うわ、これめちゃくちゃダサくない?

 なつみちゃんは「意外」とだけ言った。

 意外だったらしい。

 それより更に意外ななつみちゃんは「やっとか」とかなんとか言いながら床に、横に寝そべりはじめた。

 意外だった。


 後日、どさくさに紛れて俺を蹴った同期とはスラムダンクの桜木と流川ばりのハイタッチをかました。

「今めっちゃスラムダンクじゃなかった!?」って言われて気分が良かったので蹴られたことは不問とした。


「意外な素ぶりが幸せなのかも」

ぬくもり

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