したため愛
取り留めのない話を書いてみようと思った。
例えば何千時間と一緒に居てもわからないような他人の事も、ちょっとの会話や電話、はたまた書いた文書を読んだだけでわかったりすることがある。
とある女の子がいた。
その子は文章を書くのが好きだった。
その子は運が無かったから、しなくても良い苦労を重ねたりして、幾つか俺より歳下だったのに変な深みを持ってしまっていた。
その子は音楽も好きだった。
だから俺は本を与えてみたり、話を聞いてみたり、音楽を押し付けてみたりした。
するとやはり嬉しそうにその跡を眺めたりしている様な子だった。
その子はゲームを考える才能があった。
ピコピコするやつじゃなくて、もっと原始的な、文化的で生産性が全然無いやつ。
その子の提案で同じテーマでお互い別々の文章を書いて遊んだ。
最初はなし崩し的に、まあ暇だし付き合ってみようかと言った感じで書いていると、暫く懲り懲りだなあと思っていた執筆というか、話を書くのを楽しいと感じた。
それはきっと読者がすぐ近くにいること、レスポンスがある事、なにより気負わなくて良いことが心地よかったのかもしれない。
それに味を占めた俺は、もしくは俺たちはそれはもうたくさんの文字を書いた。筆まめな俺の性格、ニートに半分足を突っ込んでいたその子の有り余る時間が相乗効果を生んであっという間にLINEの履歴は追えない程度になっていき、予定も無いのに会ったらあれしようとか、日常の取り留めのない会話とか、文章を送りつけあったり、とにかく沢山の文字が二人の中にバラバラと積み上がっていった。
そうして時間を大量に一緒に消費していくと何かある種特別な、自分が何かになった様な気がしていたけれど寸前で物理的な距離が目を覚まさせたりした。
いや別に恋人では無いし、なる予定も無いしななんて考えながら文章を楽しく打ち込んでいってはプラトニックな状況をどこか楽しんでいたりした。
そんな時大抵痺れを切らすのはその子の方だったから、自分のことを棚に上げながら怒ったりしていた。
どうやら何でもかんでも手に入れないと気が済まない様で俺は、そんなところを鬱陶しく思う反面痛々しい程の感情で殴られて、実は悪い気がしなかったりしていたのもまた、事実だったりする。
そんな気持ちに日々晒されて、気がつけばどんどん睡眠時間を削られていくのだけれど、やはり何故かそこまで嫌な気がしなかった。
気がつくと生活の一部になっていたり、そんなに密接に関わっていても会ったことも無ければ知らないことがまだまだあるみたいな、そう言うなんとも形容し難い関係がひたすらに続いて、口癖や言い回し、好みなんかもうっすらと染まってきた頃になってもやはり、その子は変わらず口癖の「死にたい」だけは消えなかった。
よく夜になると死にたがるその子は、と言うかこれまで夜になると死にたくなる人とよく一緒に居たからあんまり珍しく無いんだけど、とにかく死にたくなったりするらしい。
いつだって俺はあんまり人に死んでほしく無い性格だし、何よりその子が死ぬのが結構寂しいと思ったから、特にしてやれる事は無かったんだけど、とりあえず死ぬのはやめておこうと、また俺の口癖が増えた。
こうして無事にインターネットの会ったこともない女の子に変な習慣と、使い道が限定的な口癖を増やされ、それでいてあまり悪い気もしない生活が始まった訳で。
そうやってだらしのない、不健全な毎日が積み上がっていくと気まぐれにくれたその子の写真が一つ、どうしようもなく好きだった女によく似ていたことがわかったり(ちなみに猛烈にタイプ)聞いてるだけでゲンナリするような重い話だったり、電話がそんなに好きじゃ無い俺に合わせてか、やはり二人でせっせと文字を交わし合った。
積み上がった文字数いざ知らず。
したためあった文字の数は、やはりいざ知らず。
「したため愛」
ぬくもり