それが終わりに向かっていっていたとしても
前回、ゆずかちゃんはやっぱり他に好きな人が出ました。故に殺しました(全然殺していません)
晴れて残念なことに仕方なく運命的に当然の流れで身軽になった俺は、さてそろそろ進路とか考えようかなと思ったりし始めたのだ。
そうやって気分新たに何かを始めようとした時、大抵現れるのはことみちゃんだった。
もうさ、俺の高校時代に出てきすぎなんだよこいつ、風物詩みたい。
高校三年生の初夏、突然連絡を寄越してきたことみちゃんは相変わらずなーんにも考えていないような様子で久々に会おうよと言ってきた。
いやいやあなた、ちょっと前に他の車に乗り換えたじゃ無いですか、そんな都合のいいプランは無いですよといいながら俺はサザンテラスのスタバに居た。
その時は珍しくことみちゃんが俺にコーヒーを奢ってくれた。こう言う細かいことばかり覚えている。
もうこの頃になるとあんまり深く考えなくてもことみちゃんの何となくわかるようになっていたし、ことみちゃんも俺がそう言う感じに仕上がってきたことを別に嫌だと思ってなかったりするようだった。
この時あまり多くを語らなかったような気もしたが、恐らくヌルッと最後のことみちゃんとの時間がはじまった。
ことみちゃんの家はちょっとわんぱくな家庭で、大小様々な問題を抱えていた。
だからことみちゃんは進学せずに働くんだと言う。俺はそれを聞いて、中学三年生の頃から知っていることみちゃんが急に大人に見えたりしていた。
ことみちゃんはこの高校三年生の夏に二つやりたいことがあったらしい。だから俺に連絡したんだと言った。
「オープンキャンパスと物件の内覧に行ってみたい」
ことみちゃんはそう言った。珍しく俺の目をまっすぐ見て。相変わらず吸い込まれそうなその目で。
俺は俺で進学について何にも考えていない奇抜な男だったし、どこに進学するしないで色めき立つクラスメイトをどこか鬱陶しく思いながらそろそろ向き合わないといけない時間になるんだなあと思った。
オープンキャンパスって何しに行くかわかんないよね、なんてことみちゃんと話しながら。
ことみちゃんは確かこの頃には何社か面接を受けたりしていて、大体どのエリアで働くかは自分の中で考えていたらしい。
町田が大嫌いなことみちゃんは、やはり町田から出ていくべく気合が入っていた。
そしたらさ、ことみちゃんが働くかもしれないエリアの近くの大学を観に行こうよ、そのまま内覧行ってさ
なんて俺は言うんだけれど、ことみちゃんは笑いながら「内覧するには早過ぎるよ、二月に行こう」と、珍しく先の約束をしてきたりした。そうか俺たち、今回は少なくとも二月くらいまでは一緒にいれるのかな、と柄にもなく嬉しく思った。
俺たちは飽きもせず、サザンテラス口のスタバでどこのオープンキャンパスに行くとか行かないとか、夏の予定を立て始めた。
少しだけ、夏の香りがした気がする。ことみちゃんとはいつも夏以外の季節に一緒にいる気がして、この夏一緒にいれば三年かけて四季をコンプリートだなあと思ったりした。
じんわりと夏を感じさせる六月ごろの話だった。
人生において戻ってやり直したいポイントはいくつかあるけれど、その内の一つはここかもしれない。
それくらい俺は誰かと未来の話がするのが好きだったし、この時期はきっとあらゆる可能性を秘めていたから眩しささえ覚えるのだ。
「それが終わりに向かっていっていたとしても」
ぬくもり
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