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【物語詩】秋吹雪

 汗ばんだ体に風がヒンヤリ
 あれ? いつの間にか秋になっている
 夏のどこかに何かを忘れてきたみたいだ

 私はクルリと後ろを振り向く
 過ぎ去りし時間は色褪せていく
 灰色の入道雲のように纏まりながら

 チラリ キラリ
 煌めきながら 宝石のような記憶の欠片
 ふわり するり
 伸ばした手の隙間を踊るようにくぐる

 私は入道雲の中へ飛び込んだ
 どっぷり どろり
 思い出すために 二度と離さないために
 がっちり ぐるり

 綿飴が溶けるように体中がべたべたして
 身動きが取れなくなった その時
 腕が現われて 入道の外に放り出された

 あまりにも力いっぱいの勢いで
 思いっきり目をつぶった私の身体は
 落ち葉のベッドに沈み込んだ

 お陰様で 体中に落ち葉のアクセサリー
 おまけで 秋桜の花びらまで 鼻に1枚
 葉だるまのままで説教されちゃった

 ごめんね 私が悪かったよ
 でもさ うっかり忘れたらいけないからさ
 大事な大事な人の名前なんだから

 すっかり べとべとになった腕を見つめて
 こっそり 緩んだ口元を隠した
 リーン リーンと鳴く虫の声を聴きながら


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