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【物語詩】タマネギの香水

 女子高生な私の趣味は香水集め
 特技も香水……というか
 人に合った香水をピタリと当てるっていう
 ちょっと占いチックなことができる

 バニラでしょ シトラスでしょって
 相手の匂いの好みを聞かずに閃くの
 心を読まれたって驚かれることもある

 自分でも不思議なんだけれど
 たぶん鼻がすごく敏感なんだ

 たまに香水以外の 図書室の匂いとか
 雨上がりのアスファルトの匂いとか
 そういうので当てちゃうこともあるのよ


 ある日の高校 帰り支度をしていたら
 クラスでも大人しい方の女子に呼ばれた
 物静かだけど いつもニコニコしている子
 きょとんとしていると香水選びを頼まれた

 実は前から喋ってみたくて
 その子に似合いそうな香水もあったのに
 そのときは どうしても
 タマネギの匂いがいい気がして

 わかる? わからないよね?
 タマネギをみじん切りしたときのアレよ!

 どうしてもそれしか無くって
 でも香水ですらないソレを言えなくて
 前から思っていた香水を教えるのも
 なんだか今は違う気がして

 困ってモジモジしていたら
 私が嫌がっていると勘違いさせちゃって
 その子が困り笑いをして帰ろうとするから
 慌てて引き留めて正直に話した

 タマネギがイイなんて聞かされた彼女は
 数秒固まって 数秒俯いて
 急に走り出し 教室を飛び出した
 私は焦りまくって追いかける始末!

 私の制止も聞かずに7分間
 その子が辿り着いたのは近くのスーパー
 迷いのない足取りでタマネギを手に取り
 私に言った「ありがとう!」

 礼を言われた私はポカン
 彼女はニコニコとドロン
 そのまま空白の一晩が過ぎた

 翌日の学校で見たのは
 目は腫れて 表情は晴れやかな彼女の笑顔

 これは後で聞いたのだけど
 実は人知れず恋をしていたけれど
 告白もできずに相手に恋人ができたらしい
 失恋を忘れたくて香水に挑戦したらしい


 今では その子と私 親友同士
 タマネギでできた香水はまだないけれど
 今では そんなもの必要ないよ
 2人で決めた香水を使って遊んだりするよ


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