【物語詩】植物学者の女
いくつもの植物園を縦横無尽して
数多の植物図鑑を暗記して
頭も心も緑で染まるくらいに学んできた
そうね 花の名前を即答はできても
人のことは何もわからないかも
もしかしてあの人 モンゴロイドですか?
でも そんな私にも処世術があって
相手の印象をうまく見抜けたら
何かの植物に例えるのが得意で
意識も高い富豪の娘さんは
手入れするほど愛情の湧く胡蝶蘭とか
誰に嫌味を言われても強いあの人は
四葉になれるクローバーとか
あなたにはわかる?
私がどんな人を桜に例えるのか
百合や彼岸花を当てはめるのか
どんな花に例えられたい?
よく「頭の中がお花畑」って言うと
おバカさんとか 夢見がちってなるけれど
私の中には 馬も鹿も カバも居ないのよ
そんなアメーバみたいな扱いはしないで
ねぇ 今日も新しい品種が見つかったのよ
このペースなら きっと人だって
いつか頭から花を生やせるんじゃない?
それでそんなファッションが流れたりして
土に種を撒くことしかできない私を
種を宿せない女と揶揄する男もいるけれど
種を作りさえすれば手放せる身分なら
とっくのとうにそうして貢献している
ていうか……ごめんね?
人類が滅びても植物は育つんだ
むしろ戦争や自然破壊をする人類は
植物にとって邪魔でしかないよね
私は人類と植物を天秤にかけたら
明らかに植物に肩入れしちゃうかな~
だって植物は世界を再生できるし
あれ そんな話だっけ?
なんだか話が逸れちゃったね
もしかして新種が生まれたかな?
え? 私は植物だと何ですかって?
どうかなぁ……?
植物は自分で名前を付けないし
分からないなぁ
ただね 私にも名前はきっとある
ただね どうにも昔話で
どんな名前を貰ったか忘れている
これだけは言えるんだよ
ありとあらゆる植物は私の子ども
ずっと見守っている 愛している
私はきっと植物の母
……の 生まれ変わりの植物学者