札沼線の記憶
2020年4月16日夜、ある速報が飛び込んできた。「札沼線、あす最終運行」。もとより5月6日の廃止予定が、感染症対策で4月24日に繰り上がった矢先のニュースだけに、驚きは大きかった。
結果として大きな混乱もなく最終運行を終えた札沼線。道内路線の中で決して光の当たる存在ではなかったが、平野部の田園地帯をのんびり走る姿はどこか懐かしさを感じる路線であったと思う。少ないながらもその勇姿を振り返る。
2019.05.26 本中小屋〜中小屋
Nikon D7200 AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G
春、石狩平野は一斉に田植えの時期を迎える。線路の周りに広がる田んぼにも一斉に水が入り、北海道の一年が始まる。この翌年の廃止が決まっている札沼線にとっては最後の水鏡シーズンであり、迷わず足を向けた。
早朝の送り込みは札沼線にしては珍しい2連、これを逃すわけにはいかない。暖かな日差しの中待つこと十数分、札沼線カラーに揃った車両がやってきた。
2019.05.26 石狩金沢〜本中小屋
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
2019.05.26 本中小屋〜中小屋
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
平野が続く札沼線だが、俯瞰もいくつか存在する。その一つが中小屋のスキー場俯瞰である。現在は使われていないゲレンデをひたすら登るだけのアプローチだが、季節外れの高温が行く手を阻んだ。さすがに5月の北海道で30℃は暑いって……。
とはいえ、登りきった頂上からの景色は100点。穀倉地帯の春にディーゼルが走る風景を思う存分切り取ることができた。
2018.05.20 豊ヶ岡駅
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
2019.10.25 豊ヶ岡駅
Nikon D750 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
2018.10.19 豊ヶ岡駅
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
札沼線で最も有名な駅といえば豊ヶ岡駅だろう。線路は国道275号に沿って走っているが、この駅だけは国道から離れた場所にあるため「秘境感」がある駅である。駅近くの跨線橋からは板張りのホームを臨むことができる。
春の新緑、秋の紅葉、自然に囲まれた小さな駅は様々な表情を見せるが、特にヘッドライトに照らされる秋の景色は格別だと思う。
2018.05.20(1枚目)2018.09.02(2,3枚目)2018.09.30(4枚目)札比内駅
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
個人的に好きな駅が札比内だ。札沼線らしい駅舎とちょっとした市街が広がっている。ホームから見える景色、駅隣りの踏切といろいろな角度から切り取ってみた。
2018.05.20 石狩月形駅
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
2018.07.28 石狩月形駅
Nikon D7200 AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G
2020.03.03 石狩月形駅
Nikon D7200 Ai AF-S Nikkor 300mm f/4D IF-ED
石狩月形駅は廃止区間唯一の交換可能駅で、スタフの交換を見ることができた。何より細い島式ホームに2つの車両が揃い、そこに駅員がいる風景が魅力的だった。
北海道にも遅い夏がやってくる7月下旬、月形町の夜空を彩る花火大会が開催される。打ち上げ時間は20時〜21時だが、実はこの時間のほとんど、車両は駅で折り返しを待つため入線している。さらには交換列車まで通る「神タイミング」で花火は打ち上がる。花火の開始から数分、浦臼からの列車が到着。最高の瞬間、夜空には赤い大輪が咲いた。
さらに廃止が近づいた最後の冬、そのアングルが知られるようになった通称「ムショ裏俯瞰」。月形刑務所裏手の丘から駅を見下ろす超望遠俯瞰である。雪山をかき分けファインダーを覗くと、はるか遠くの小さな駅が収まる。ほどなく両方向から列車が入ってきた。
2019.05.26 中小屋〜月ヶ岡
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
中小屋にはもう一つ俯瞰ポイントがある。本中小屋から月ヶ岡までの長い区間、断続的に列車が通過するさまを見ることができる、知る人ぞ知る「大俯瞰」である。この日もお立ち台には数人のみ。「廃止になってから披露する一枚にしよう」なんて山の上で笑ったものである。
夏は車で登ることができるが、冬場は片道2時間半の雪上ラッセルが必至なポイント。結局冬のカットは撮れずじまいだったのが悔やまれる。
2018.09.02 南下徳富〜下徳富
Nikon D7200 AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G(1枚目)
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(2枚目)
2019.09.08 下徳富駅
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
実りの秋。稲穂は頭を垂れ収穫の時を待つ。時を同じく私は田んぼの脇に三脚を据える。札沼線カラーのキハ40が行って戻ってくる2カットに力を込める。1日1往復の貴重な列車が通り過ぎると、ディーゼルの香りがあたりに残った。
2019.05.26 於札内〜南下徳富
Nikon D7200 AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II
正直、ファインダーを覗いてもどこに列車がいるのかわからなかった。線路から15キロほど離れ、石狩川の対岸から狙った超・超望遠俯瞰である。遠すぎる距離ゆえにヌケの難易度が高いだけでなく、1日1往復区間しか見えないという難点もあり、結局満点回答となることはなかったポイントである。少しばかり編集ソフトの力を借りてみたものの、難儀なものは変わらない。
2019.10.25 札比内〜晩生内
Nikon D750 SIGMA Art 24-105mm F4 DG OS HSM
2019.10.25 晩生内駅
Nikon D750 SIGMA Art 24-105mm F4 DG OS HSM
夜の帳が降りると辺りは驚くほど暗くなる。札比内駅近くの寺の境内にある踏切を通り過ぎた列車を後ろから狙ってみる。テールランプと夕暮れはよく似合う。
これに飽き足らず向かったのは隣の晩生内駅。停車の一瞬をバルブで切り取ると、車両の立体感と駅舎の物悲しさが予想以上に際立つ一枚になった。
2016.09.10 新十津川駅
Nikon D7200 AF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8G
札沼線の終着駅、新十津川。マチの中心に位置することから、1日1往復の終着駅といっても結構開けている。撮影当時も午前中で列車の運行が終わっていたが、夜に訪れてもホームと駅舎の電気はついていた。そう遠くないうちに廃止になるんだろうなと思いながらシャッターを切った。
廃止日を迎えることなく最終運行を終えた札沼線。私が見た期間は決して長くないが、ある意味「北海道らしい」景色、人里と田園を走る路線だったように思う。雪景色の写真も撮っておけばよかったな……と少し後悔している。