宝塚歌劇団の演出家「小柳奈穂子」先生を語りたい4 ~大劇場作品感想編~
宝塚歌劇団の推しの演出家「小柳奈穂子」先生を語る最終回の4回目の記事は、前回に引き続き小柳先生の代表的な作品や私の好きな作品、逆に個人的には組やスター、作品と小柳演出が上手くかみ合っていないと感じた作品も含めて、作品をピックアップして分析や感想を綴っていきたい。今回は大劇場作品編。作品のネタバレも含んでしまうのでそこは注意でお願いします。
はいからさんが通る
オススメ度:★★★★★
キャスティング:★★★★★
原作活用:★★★★★
ドタバタ:★★★★☆
漫画・アニメ演出:★★★★☆
言わずと知れた(?)柚香 光の代表作。小柳作品の特徴の良いところを詰め込んだような作品で、柚香 光の演じる伊集院少尉と華優希の演じる花村紅緒が本当にハマり役。
この作品を通して小柳作品を分析するにあたり、彼女の師匠格の小池修一郎の漫画原作の代表作「ポーの一族」と対比するのが興味深い。「ポーの一族」と「はいからさんが通る」。小池修一郎と小柳奈保子の作家性の違いであり、明日海りおと柚香 光のスター性の違いである。
小池修一郎が作品で表現しようとするのは、男の浪漫であり、生き様である。やがて破滅に至るような儚い生き方を、宝塚という舞台で具現化する。明日海りお演じるエドガーの触れれば壊れてしまいそうな儚げな美しさは、これを体現している。
小柳奈保子の目線は、ヒロインにある。意志が強く、バイタリティがあり、自立した女性。そんな現代における等身大の女性像がまずある。本作の紅緒に限らず、ロマ劇の美雪、天は赤い河のほとりのユーリ、食聖のアイリーンなど、原作もの、オリジナル作品どちらも小柳作品のヒロイン像は生き生きとした強い女性が多い。ヒロインの横に立つのは、そんなヒロインをキュンとさせるような、強く、優しく、たくましいイケメン。柚香 光のスター性は儚げな美しさよりも、「はいからさんが通る」の伊集院少尉に見られるような、もっと健康的ではつらつとした輝きにあるのではないか。そんな二人の恋の結末は当然ハッピーエンド。小柳作品はほっこりした幸せな気分で劇場を後にできるものが多く、「はいからさんが通る」もまさにその代表作と言える。
今夜、ロマンス劇場で
オススメ度:★★★★★
キャスティング:★★★★☆
原作活用:★★★★★
ドタバタ:★★★☆☆
漫画・アニメ演出:★☆☆☆☆
登場人物の少ない映画作品を宝塚版に上手くアレンジしている。大蛇丸とお付きの二人、三獣士などは存在感もあり、物語の展開上の役割も持たせるなどしている。
本作で個人的に素晴らしいと思ったことは、フィルムの中の王女に恋をするという物語を、舞台ならではの見せ方で演出していること。スクリーン映像と舞台上の役者でやり取りをしたり、舞踏会の映像からシームレスに舞台上の舞踏会のシーンに移行する演出は見事の一言。最近は宝塚でもスクリーン映像を使った演出が増えているが、必然性があまりなかったり、前時代的な見せ方だったり、イマイチ上手く使えていないと感じることが多い。そんな中で本作の映像演出の使い方は白眉と言える。
本作を宝塚でやるうえでのポイントのもう1つは、「わたしを見つけてくれてありがとう」というメッセージだろう。映画館で健司が美雪姫に出会ったことと、劇場で推しのタカラジェンヌに出会ったことは同じように奇跡的なことで、退団挨拶でもよく使われるこの台詞は、その奇跡を改めて感じさせてくれる。
本作については、単独での感想記事も書いている。
めぐり会いは再びシリーズ
オススメ度:★★★☆☆
キャスティング:★★★★☆
ドタバタ:★★★★★
漫画・アニメ演出:★★★★☆
もともと原作付きで始まりながら、オリジナルでシリーズ化した異色の作品。作中でも時間が経過しており、キャラクターの成長が見られるところなどは面白い試みで、シリーズ3作目のnext generationでも次作以降の伏線(まだ登場すらしていない大怪盗など)が張られていて、今後の展開もありそうだ。キャラクターの個性付けは漫画・アニメ的で、アイコニックな役が組子それぞれに合わせて作られている。作風はかなりコミカル・ドタバタで、星組のカラーには結構あっていると思う。話の筋は、想いあっている二人がすれ違い⇒ひと悶着あってくっつく、というシンプルなもので深みはない。
ルパン三世 -王妃の首飾りを追え!-
オススメ度:★★☆☆☆
キャスティング:★★★★☆
ドタバタ:★★★★★
漫画・アニメ演出:★★★★☆
ルパン三世というあまりにも知名度の高いIPをなるべく忠実に再現しようという努力が感じられ、それはかなりの部分まで成功していると思う。オープニング・クライマックス演出やドタバタ劇など小柳作品の特徴もよく出ている。ルパン三世の世界観の特徴と小柳演出の相性も一見良さそうだ。しかし個人的にはこの作品は全く合わなかった。
その理由を自分なりに分析してみた結果、以下の2つが理由ではないかと思う。1つは自分が子供の頃からルパン三世という作品に親しんできてイメージが固まっていたこと。漫画・アニメ作品の実写化などでよくあることだが、どうしてもファンからすると原作と別物になってしまっているように感じられてしまう。それもあってと思うが個人的にはルパン三世という作品のノリをリアルでやると寒いと思ってしまった。もう1つの理由は、ビジュアルはともかく、早霧せいなの役者としての個性がルパンのようなおちゃらけたキャラクターに向いていなかったようにも思う。頑張っていることはわかるのだけれど、やはり役者の個性と役の相性というのがあると思う。
他にもお話全体が荒唐無稽とか、メインテーマ以外の音楽がチープとか色々気になったところはあるけれど、自分に合わなかった一番はやはりルパン三世をリアルでやるノリについて行けなかったことが大きい。
Shall we ダンス?
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2014/shall_we_dance/index.html
オススメ度:★★★★☆
キャスティング:★★★★☆
原作活用:★★★★☆
ドタバタ:★★☆☆☆
漫画・アニメ演出:★☆☆☆☆
前情報なしで見始めたら、早霧せいなが女役&ヒロインポジでびっくり。なんでこうなってるのわからないけど、愛加あゆはこれでいいのか?お話としては、平凡な日常を送るサラリーマンが社交ダンスの世界の扉を開いたことがきっかけで、人生が輝き始めるという物語。壮大な物語でもないし、絵的にも地味だけれど、じわっと沁みるようないい話。小柳先生の作品選びのセンスが光っており、宝塚と題材そして演じる組の相性がいい。社交ダンスなので組子の出番が多いし、割とダンサータイプのスターが揃っていた時期じゃないだろうか。小柳作品の例にもれず個性的で印象に残る役が多いのも良い。探偵事務所コンビの奏乃はるとと助手の彩凪 翔が個人的にハマり役だった。
うたかたの恋
オススメ度:★★★★☆
キャスティング:★★★☆☆
ドタバタ:☆☆☆☆☆
漫画・アニメ演出:★☆☆☆☆
再演ものながら、アレンジに小柳先生の特徴が良く出ていたのでピックアップ。以下のようなアレンジがなされている。
1.花組の体制に合わせて、ジャン・サルヴァドル(水美 舞斗)とフェルディナンド大公(永久輝 せあ)の役の比重が大きく変更されている。ルドルフ、ジャン・サルヴァドル、フェルディナンド大公の3人と3つのカップルそれぞれの立場の違いが物語に奥行を与えている。
2.柚香 光の魅力を引き出す場面の追加。ままならぬ状況のなかで、酒に溺れ、やさぐれるルドルフ。そこに駆けつけて愛で包み込むマリー。そんな演出が本当に画になっていた。
3.クライマックスを盛り上げる演出の追加。物語の最後に父フランツからマリーとの別離を言い渡され、心中を決意して冒頭の舞踏会の場面に戻る前。時計の針が大きく動き出す場面で、盆を回してドラマチックな演出が追加されている。これは小柳先生得意の漫画・アニメ的演出を上手くこのクラシックな作品に応用したものと捉えている。
正直に言って、うたかたの恋という作品は物語として、やや冗長な印象を持っていたのだが、小柳先生の演出変更でかなり印象が良くなっていた。
GOD OF STARS -食聖-
オススメ度:★★★☆☆
キャスティング:★★★★☆
ドタバタ:★★★★★
漫画・アニメ演出:★★★★☆
紅・綺咲体制の締めくくりとして、小柳先生のオリジナル作品で送り出すというのは納得感がある。作品も紅さんに合わせたコメディ色の強い作品で、綺咲 愛里のカンフー少女コスプレなど、それぞれの良さを引き出す作品作りになっている。もちろん、高尚さは欠片もなく、バカバカしいと言ってもいいお話だけれど、この二人を送りだすにはこんな作品で明るくというのがピッタリで決して間違ってはいないだろう。
まとめ
4回に渡って小柳先生の作品の特徴・魅力などを掘り下げてきた。最近では谷貴矢先生や指田珠子先生、栗田 優香先生など、時代を担う若い演出家の先生たちが頭角を現してきている。ただ、上田久美子先生や原田 諒先生の離脱など演出家が不足する中で、宝塚を支える演出家として小柳先生の重要性はむしろ増しているのではないだろうか。
上田久美子先生は退団後、宝塚のシステムが作品の中身ではなく、スター中心になっていることを指摘して、「推し」ではなく中身で勝負する演劇を志向することを語られている。宝塚が作品よりもスター中心であることは事実だ。しかし、スター中心だから作品がどうでもいいわけではない。むしろスター中心だからこそ、組の体制やスターの特徴を理解し、その魅力を引き出す作品作りは重要と言える。小柳先生にはこれからも「推しでなく中身を問う演劇」ではなく「推しを輝かせファンを満足させる演劇」を創り続けて欲しい。物語りせよ。
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