あなたに謝りたくて

小学校の頃の話だ。
私は家の方向が同じ男子と一緒に下校していたが、ある一学年下の女の子が頭を隠しながら走っているのを見かけた。
私は気にせず真っすぐ歩いていたが、一緒の男子はその子(Mちゃんと言おう)を見てこう笑った。
「若きハゲ、若きハゲ」
と。
Mちゃんは、病気のせいかわからないが、頭に髪の毛がなかった。

そしてその瞬間、私はその言葉に噴出してしまったのだ。
Mちゃんは泣きながら、なお頭を隠して走り去っていった。

髪の毛があった時かは忘れたが、その前は私はMちゃんと仲の良い友達だった。一緒のクラブで歌を歌い合ったこともある。けれどMちゃんの頭のことを笑ってしまった瞬間、私は深い罪悪感を持つようになり、Mちゃんと一切話せなくなった。

中学校に上がり、私は二年生になった。Mちゃんが入学してきた。Mちゃんの頭には、まばらに髪の毛が生えていた。

ある時、廊下でMちゃんが私の方に向かってきた。私はふとMちゃんを笑ってしまったことを思い出し、罪悪感でいっぱいになった。そしてMちゃんとすれ違う瞬間、私は何故か顔をMちゃんの顔からそらしてしまった。

また、笑って傷つけてしまうのではないか、と。

しかしその行為は間違いだった。それからというもの、廊下でMちゃんとすれ違う際、顔をそむけるのが恒例になってしまった。そしてMちゃんも、いつしか私から顔をそむけるようになった。

中学を卒業し、高校に入り、私はもうMちゃんと会うことはなくなった。だが、私は色々あり鬱病を患い、不登校になり、高校を辞め、通信制高校に転入することになった。その間も、たまに夢でMちゃんが出てきた。

夢の中でMちゃんは、ずっと私の顔を、髪の毛のない顔で見てくる。Mちゃんは笑顔の可愛い元気な子だった。夢の中で、私はMちゃんに何度も謝ろうとした。いや、中学にいた時点から、謝ろうとはしていた。だが、きっかけがつかめなかった。

大学生になった。ある時、私は「ヘアドネーション」というサービスがあることを知った。髪の毛がない方に、人毛のウィッグを提供するサービスだ。私は、ちょうど髪の毛を長くしていたため、ヘアドネーションのサービスをしている美容院を探し、隣町まで行って、長い髪の毛をバッサリ切った。そして、ヘアドネーションに使ってほしいと髪の毛を美容師さんに預けた。

ヘアドネーションをした後、私はまた夢を見た。Mちゃんが久しぶりに夢に出てきた。私はMちゃんから顔を背けまいと努力し、Mちゃんの顔を真正面から見つめた。すると、Mちゃんには長い髪の毛が生えていた。Mちゃんは私に向かって笑ってくれた。

「あの時はごめんね」
「いいよ」

そんな短い会話を、私は夢の中で交わした。
Mちゃん、今は楽しくお洒落ができているといいね。幸せになってね。


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