陶土の焼き物以外での使用を体験した雑録
7/9・17の2日間、近所で行われているワークショップに参加しました。今回はその内容と考察、その後についてお伝えします。
参加のきっかけ
友人に日本画の画材の作り方を教えてもらって以来、画材に興味が湧くようになりました。以前はあまり気に留めることができなかった日本画自体にも興味が湧き大変貴重な経験でした。
ただ、続けるかと言われると日本画の画材は高価なものが多く、そもそも絵を描くことより画材を作ることの方に楽しみを覚えてしまったので買い揃えることはしないかなというのが正直な印象でした。
そんな折、「陶土で描くワークショップ」と「陶土で染めるワークショップ」を発見しました。自分がいま持つ興味に合致したので参加することを決めました。
わがやは有数の陶磁器生産地が近い
わたしは愛知県尾張地域の北東の方に住んでいるのですが、その近くに瀬戸市という土地があります。瀬戸市は日本でも有数の陶磁器生産地で、お茶碗などが瀬戸ものと表現されるのはこの地域の名前からだそうです。
尾張地域の北東はもう少し街道沿いに進むと岐阜県多治見市につながります。ここも陶磁器の生産が現在でも非常に盛んなところです。こちらで作られるものは美濃焼と呼ばれます。
瀬戸ものと美濃焼の違い
生産地で名前が違うのは陶磁器に限らずよくあることですが、陶磁器においては「焼いたところ」に限らず「土を掘り出したところ」も重要視されている気がします。
というか、人の行き来が自由化された近代において、それ以外に伝統を守る方法はほとんどないと思います。極端なことを言えば海外から輸入した陶土を用いて多治見市の電気釜で信楽焼のたぬきみたいな磁器の人形を作っても美濃焼といえば美濃焼なわけです。売れるとは思えませんが。(伝統工芸品として認定が必要かもしれないのでそもそも販売できないのかも)
話が逸れてしまいましたが。陶磁器において「陶土」「粘土」というのはとても重要なものです。瀬戸も美濃も、焼き物に適した陶土粘土が長年に渡り産出され続けている稀有な地方なのです。
陶土で描くワークショップ
主催
そんな地域なので、当然、美術館が存在するわけです。瀬戸で1番大きな焼き物の美術館は「愛知県陶磁美術館」です。
こちらは先日リニューアルすべく数年間の休館期間に入りました。その間出張ワークショップを積極的に行うとのこと。わたしが参加した陶土で描くワークショップもこの一環です。
長久手文化の家
場所は長久手文化の家でした。長久手市は現在愛知県で住みたい町上位です。IKEAがあったりジブリパークができたりしています。わたしも住宅を探したときに長久手をちょっと見ましたが、土地自体が高くて到底手が出せませんでした。車ないと不便だし。
なぜ高いかというと、トヨタの影響が深いようです。確かに長久手にはトヨタの博物館もあるし、研究所もあります。豊田市も近いと言えば近い。緑も多くていいところです。
さて、そんな長久手市の文化会館長久手文化の家はホールもあるし自習もできるしワークショップもできる施設でした。パブリックアートもありましたよ。
ワークショップの内容
ワークショップは主に二段階に分かれていました。第一段階で画材を作り、第二段階で絵を描きます。
画材作り
まずは用意していただいていた陶土を粉々にします。木の麺棒を用いて新聞紙の上でぐりぐりやります。以前やらせてもらった日本画の場合は胡粉を乳鉢でするという作業があるようでしたが、色がついているものはすでに粉砕された状態だったので、こちらは初めての体験でした。
ところどころ入り込んでいる小石が力を入れると潰れてしまうのが厄介でした。これが潰れてしまうと次の工程で色が混ざる要因となります。今回はワークショップなのでそんな細かいことは気にしたらいかんのですが。製品としてはもっと選別の工程を綿密に行うのでしょうから、頭が下がることです。
続いてふるいにかけます。これで粒子の細かいものだけを取り出すことができ、おおまかに異物も取り除くことができました。
ここでは執拗にふるいにかけてしまうと大きめのものが下に落ちてしまいます。適当にやって何度もすりつぶして良いものだけを使った方が安定した色が作れるとわかりました。
絵の具にする
その後、小皿に少量を取り、水で溶いてペースト状にしました。今回は水溶性のボンドと混ぜることで紙に定着させるとのことです。
ボンドを入れるとやや固くなるので水を足してやや緩めました。油絵の具のようにこんもりはできないけれど、水彩絵の具くらいには水の量で濃淡を出すことができると教わったので、この段階では硬めに用意しました。
絵を描く
特にテーマはなく、自由に描いてとのことだったので時間いっぱい描きました。色は各グループ1色を作っていたので、別グループの陶土ももらって全5色。濃淡もつければ結構な色数です。
ただ、文字通りのアースカラーなので全体の画面の色は決定してしまいます。わたしは普段赤とか青とか奇抜な色ばかりを好んでいるので、何を描けと……とけっこう悩みましたがどうせなら縁起のいい山を描こうと思いました。ほら、陶土って山から採るから。
日月五峰図
そこで選んだのが日月五峰図です。朝鮮王朝の絵です。韓国のお城なんかに行くと王座の後ろにある絵。
朝鮮王朝で王は太陽、その妻(国民の母)は月なので王座に相応しい絵でもあるわけですね。
ただ、このまま描けるはずもないので直前に見たシャガールのアレコの第三幕の太陽と月を真似することで違うもの感を出すことにしました。
感想
今回のワークショップで面白かった・難しかった最大のポイントはボンドです。使用した水溶性ボンドはコニシの木工用ボンド。ご存知の通りこちらは白濁していて乾くと透明になるという性質のものなので、出来上がった絵の具はやや白く見えてしまいます。
そのため描いているときはなんとなくニュアンスカラーみたいな出来栄えで、完全に乾くとパキッとした出来栄えになります。
わたしはパキッとした色の方が好きなので出来上がりは描いていた時よりよく見えて嬉しかったです。
陶土で染めるワークショップ
翌週、多治見市美濃焼ミュージアムに向かいました。陶土であずま袋を染めようというワークショップです。奄美大島の方では泥染というのもあるし、どんなものかと挑戦してみたのですがかなり興味深い結果となりました。
準備
ワークショップの最初はやりすぎない勉強会から始まりました。講師の方が用意してくださった絵本で陶土についてちょっと学び、やり方をおおまかに説明してもらったら作業スタート。
使用した陶土
7種類の陶土から自分の好きな1色を選んで染めます。使用する陶土は1人につき500g。結構な量です。
わたしは美濃焼の特徴である白い肌が作れる蛙目粘土(がえろめねんど)を使うことにしました。鉄分の多いものだそうです。他にも柿渋染のような朱色に近い橙とか、ウコンみたいな黄色とか。スワッチはなく、どんな色になるかはお楽しみですとのことでした。
染料の用意
選んだ陶土は砕くところから始めます。ボウルに入れたものを金槌で叩いて潰す。やや小さくなったところでふるいにかける。再度ボウルに入れて金槌で叩いて。の繰り返しです。
こんなもんかな、となったところでふるった陶土は巨大な乳鉢に入れて擦ります。今回は染料と言っていますが、陶土は顔料なのでちょっとでも小さい方が染まりやすいかと予測し執拗に擦りました。
これに水を加えて泥状にしたものを染めるもの(あずま袋)に擦り付けていきます。両手で擦り合わせて繊維の中に中に入るように15分くらいすりすりすりすり。手といい足といい泥だらけにしながら擦り続けました。
この時のあずま袋は事前に濃染処理していただいていたものを使用しました。豆乳と水を1:1にしたものに漬け込んで干したやつです。
すすぐ
擦り込みが終わったら流します。予洗いしてからホースで数分流すだけ。
わたしが作ったものはかなり色が薄かったです。乾いたら濃くなるかなと思ったのですがそれも特になし。予洗いの段階で一回ピンク色が出たので鉄の影響かとも思ったのですが、これも乾いたらほとんどなくなりました。
でき上がったものを見て
わたしのあずま袋はかなーり薄いややベージュ寄りのグレージュ。いい色ではあったんですが、確実に汚すのでこのまま使用するのはわたしの生活には難しい。
ワークショップのアイテムを片付けている最中からどう染め直してやろうかと考えていました。もう一度同じ材料を手にれて重ね染するのか。そもそもやり方が簡易だったから濃い色が出なかったのか。
泥染
考えた時は先人の知恵を拝借することにしておりますので、奄美の泥染について改めて調べることにしました。
そもそも泥染とは
泥染といえば奄美大島が有名です。グレーがかった渋い色が多いものの、前回今回経験したアースカラーばかりという印象はありません。
そもそも小さな島の土壌でそんないろんな色の泥が取れるのか?疑問は尽きないものの、調べていくと衝撃の事実が。
泥染というのは奄美の泥を媒染(染め物の定着剤のようなもの)に使用した染め物のことだそうです。そもそも泥だけで染めてないかーい。そりゃいろんな色ができるわ。
奄美大島の土壌は鉄分を多く含むため、全体的にグレーがかった渋い色に染まるそうで。この辺りは以前やってみた草木染めで履修済みです。ということはですよ。現在は前媒染状態なわけですからここから紅茶かなんかで染めてやればグレーが強くなるんじゃなかろうか。
なんで色が薄かったのか
これはあくまで考察ですが、わたしが選んだ蛙目粘土は他の6つの粘土に比べて極端に色が薄かったのです。この白さのおかげで美濃焼は下地の色に邪魔されず実にさまざまな色の焼き物を作ることができると言われているそうです。
粘土の成分は主にケイ素でその色は光沢のある灰色。ここに木や葉などの有機物が腐敗したものが混ざって土となります。言ってしまえばこの木や葉の腐敗した部分が染料となるわけです。
わたしが選んだ蛙目粘土は染料の部分が少ない。そりゃ染まるわけないわな。と予想がつきます。納得した。
陶土で染めたあずま袋を染めてみる
ということで、理想の濃さを求めて。染め物をすることにします。
染料は家庭でも使いやすいお茶とします。今回は愛飲しているルイボスティーの出涸らしと賞味期限が切れすぎて怖くて飲めないのになぜか取っておいたティーパックのお茶を使用します。
染め方については今回は流石に割愛します。
染め上がったもの
結果、あずま袋は鮮やかなお茶染の色になりました。鉄分が多い蛙目粘土を媒染としたのにいささか解せない結果です。比較対象として、台所にあったさしこの付近も一緒に染めてみました。こちらは濃染処理も行っていなければ前媒染も無しの素の状態。(ただし同じ染液につけたのであずま袋から溶け出した成分はあり)
グレーを求めて染めていたので、このまま手持ちの鉄媒染の液につけてやろうかとも思いましたが流石にそれはやめました。グレーのあずま袋が必要なら別途で作ればいいので。
考察しながら調べたら
出来上がったあずま袋を見ていると、この色には既視感があります。アルミ媒染で染めた生地です。しかし、鉄分が多いを媒染しているはずなのになぜ。
調べて、意外なことがわかりました。
蛙目粘土の成分。ケイ素の次に多いのがアルミニウム。え、そうなの。
一般的な土より鉄が多く含まれているものの、その含有量はわずか1.6%程度。アルミニウムの含有量は約34%です。そりゃアルミ媒染の染め物の色になるんだわ。
最後に
経験と知識を働かせた2回の体験と余分の1回。大変楽しかったのでまたこういうことがやりたいですね。いい感じのワークショップがあったらぜひ誘ってください。
わたしは今回のお調べでチラ見した奄美大島での泥染体験をひっそりマークしました。
それではまた。