月とiPhone
「人類が、いつまでもiPhoneで月を綺麗に撮ることが出来ないのは、救いなのかも知れないね。
撮れないからこそ、こうやって誰かと見る月が綺麗で、記憶にも残る。誰かと月を見ようとする。そう思わない?」
確かに、と思い月を見上げる。
画面越しの月は、ただの光の点だったけれど、こうしてみると月の模様まで見える。
「ちゃんと模様も見えるもんだね」
と、私が言うと
「君、視力良いんだね。俺には見えない。俺、目悪いんだよね。
不思議だよな、そこに見えてるのに。見えてる世界って共有することは出来ないんだよ。」
そう言って彼は月を背に歩き出す。
「だから、誰かと見ようとするの?」
私が言うと
「そういうこと」
と、一瞬だけこちらを振り向いた。
彼の顔は月に照らされ、とても綺麗だった。