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コックニー感嘆詞”Oi!”(2/2)...英語ひとくちメモ

 表紙写真OI | English meaning - Cambridge Dictionary”より

「コックニーの”Oi!”」(1/2)の続き(2/2)です。


アメリカ英語では"oi”は稀、代わりに"hey"か?でも少し違う

筆者はここ50年余年アメリカを行ったり来たりしていますが、"Oi!"など使ったことが無いし聞いた記憶はありません。(1/2)で述べた通り、イギリス英語とアメリカ英語の語彙用法を網羅したWebster English Dictionaryにも、"hey"とか”hi"などの感嘆詞の記載はありますが"oi"の記載は見当たりません。

筆者が長らく住みその後行き来したのは西部と東部なので、念のためにそれ以外の地域の方言ではどうか気になったので関連サイト幾つかを調べてみましたがありません。カナダ英語では時々使われるとのこと、もしかするとカナダと国境を接する諸州で稀に使われるかもしれません。

表紙写真Cambridge Dictionary(online”のoi"の定義をみると、アメリカ英語では”oi”ではなく”hey"を使うとほのめかしています。筆者自身アメリカの友人と話すときは"Hey, man, what are you up to?"みたいな挨拶で始まります。途中でも相手の言ったことを否定したいときには”Hey, give me a break!""とか、相手に同意するときには"Hey, hey,hey, now you're talking."などなどかなり乱発します。確かによく使う表現ですが、"oi"と比べるともっと広いコンテクストで使われており、両語同格であるとは思いません。

The Britanica Dictionaryによると、"Oi!"は”used to get the attention of someone or to express disapproval"とあり、相手に注意を喚起する目的で使われることは確かですが、難色とか非難を示す一種の遂行文の機能を持ち合わせます。Oxford Learner's Dictionariesでは、”used to attract someone's attention, especially in a rough or angry way "と、ぶっきらぼうで怒りを込めて注意喚起発すると述べています。以下の両辞書の例文のように、発することそのもので威嚇、非難の遂行文になるわけです。

 "Oi, what are you doing with my car!"(おい!俺の車に何やらかしてるんだ!)                               Oi!—get away from there!(おい!そこどけ!)
Oi,don't lean out" (おい!寄りかかるんじゃねー!)
"Oi, taxi" (おい!タクシー)     

ところが、Merrium-Webster  によると、  アメリカ英語の”hey"は   

.used especially to call attention or to express interrogation, surprise, or exultation (注意喚起、または、質問、驚き、喜びを表現する為:”Hey,  the '80s are over, man. Time to lose that orange Mohawk.”ヘイ!80年代は終わったぜ、なんだそのオレンジ・モヒカン、どうにかしろよ”)

2. used as an informal greeting(インフォーマルな挨拶に:Hey, how's it going? へい、この頃どうだい)

3. used to indicate that one is not bothered or troubled by something (気にしてないこと示す:”At his worst, he is corny and silly, but hey, the pleasure he gives is worth the price.”そら、最悪奴はダサくてアホだよ、だが、、奴あ面白いからそんはしねーってことよ)

すなわち、どちらも注意喚起の表現ですが、アメリカ英語の"hey"はどちらかというと同等の者同士のフレンドリーなコンテクストで、コックニーの"oi"はアンフレンドリーなコンテクストで使われているものと思えます。"Oi!"も”Hey!”も遂行文であることには違いませんが、John Searle のspeech acts流に解釈すると、前者は非難とか威嚇行為、後者は質問、共感、喜び、挨拶、譲歩などを示す行と幅広いわけです。

と言えども、1/2で指摘したように、"oi"を使うことそのものが庶民としてのアイデンティティを示す役割を持っています。ただ、庶民の間で目上の者が目下の者に対し威圧的に使用していることは確かです。

恐らく、"hey"をもって”oi"と同じパワー(illocutionary force)を伝えるとしたら、大声で怒りを込めて言うか、"Hey, you there!What a hell are you doing with my car!" !"などと表現を加えることになるでしょう。 

大英帝国時代に借入語(loan word)として他言語に広まる

中近東やアジアの嘗ての大英帝国と植民地としてあるいは交易などの接触があった地域の言語に”oi"が借入語(loan word)として残っているそうです。以下がそのリストです。

ペルシャ語( Persian language) そしてルリ語 (Luri language)では(Persian: اوی)と表記され、コックニー同じ意味・用法とコンテクストで。

インド のタミール語(Tamil)、ウルドゥー語(Urdu)、パンジャビ語(Punjabi)などやパキスタン諸語では驚き、威嚇の表現の他に遠方の人を呼ぶときに。

インドネシア語では”hoi”, ”oi”, ”woi” (広東語 Cantonese 喂 wai と客家語 Hokkien 喂 oeh経由で)では誰かを呼ぶときに。

フィリッピン諸語( Philippine languages )では"hoy"  "oy" (uyと発音されることも)として残り、家族友人など知己同士の注意喚起の表現として。知己以外には使わない。

ベトナム語では(Vietnamese)では"ơi"と表記され、相手の名前またはタイトルを伴い、注意喚起に。家族からビジネスまで、レストランでウエイターを授業中先生に対しても使用。

ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語では"oy (ой)"で驚きを表す。

カザフ語(Kazakh language)では "өй "([зi])では不満を交えた驚きおよび注意喚起の表現。(以上Oi (Interjection) Wikipedia 参照)

日本語の「おい、こら」との関係

既述したように、日本語の「おい!こら!」の「おい!」とも何かしらの関係がありそうです。「”九州男児”は兵士を勇気づける言葉だった? 歴史をたどり"起源”に迫る薩摩の方言「おい、こら」にヒントも」と称する記事が、「九州男児」という表現の起源と「おい、こら」の関係に触れ、次のように述べています。

志學館大学(鹿児島市)の原口泉教授(75)=日本近世史=は、薩摩藩(鹿児島)出身者が大半を占めた邏卒(らそつ、明治初期の警察官)に着目する。現在は人を怒る際に使われる「おい、こら」は、元々は「ねぇ、ちょっと」を意味する薩摩の方言で、邏卒によって全国に広まった。加えて江戸時代、当時珍しかった肉食が薩摩では盛んで、他藩出身者と比べて長身の人が多かったという。「街中で『おい、こら』と声を掛ける大柄の男。きっと怖かったはず。九州という大きなくくりで認識され、現在のイメージにつながったのかも」と推測する。(”九州男児”は兵士を勇気づける言葉だった? 歴史をたどり"起源”に迫る薩摩の方言「おい、こら」”より抜粋)

「おい、こら」は幕末期の薩摩発祥で「ねえちょっと」程度の注意喚起をする方言であったが、明治維新で薩摩出身(大柄の男)の警察官が町で使い怖い喚起表現になったとあります。ただし、「おい、こら」が純粋に薩摩方言であったかは定かではありません。そこで筆者は次のように推察します。あくまでも推察です。

敵に勝つには敵から学べ~薩英戦争を契機にイギリスに学ぶ~」と称する記事にあるように、幕末生麦事件をきっかけに薩摩藩はなんと大英帝国を相手に戦争を始めます。明治維新まであと5年の1863年です。産業革命真っ只中の大英帝国の技術力の差を思い知らされた薩摩藩は方針を変え、トーマス・グラバーの紹介により19名の留学生を英国に送ります。結果、1867年には藩内に国内初の洋式機械紡績工場、鹿児島紡績所を操業したとあります。凄いスピードですね、戦争をはじめてからたった4年で敵と和睦しこんな工場を建ててしまったわけですから。

さて、その紡績工場の写真を見ると多くのイギリス人が写っています。帽子、洋服などから経営エリートから労働者まで並んでいます。恐らく、薩摩藩の武士たちは彼等に手ほどきを受けながら工場を建設し、操業を軌道に乗せたのでしょう。英国の労働者が発する"Oi!"の怒号を聞きながら。これが薩摩中に広がり、明治維新後は日本全国の警察官や軍隊で広まっていったのではないでしょうか?

紡績工場建設中のイギリス人(敵に勝つには敵から学べ~薩英戦争を契機にイギリスに学ぶ~」)
完成した紡績工場(敵に勝つには敵から学べ~薩英戦争を契機にイギリスに学ぶ~」)

上述したように、フィリッピンやインドネシアやベトナムや台湾などでの現地語で"Oi!"が広がりました。フィリッピンが大英帝国よりもスペインと後のアメリカ(*1)、ベトナムはフランス、インドネシアはオランダの植民地でした。これらの国々は過去日本に占領されていました。ここからはあくまでも筆者の現時点での推察です。

その日本占領時代に日本人の兵隊や警察が現地の人々に対し”Oi!”を乱発したのではないでしょうか。既述した通り、当時日本でも一般市民にしていたように。そう思うのは、ある国々で遠くにいる人々を呼ぶ「おーい!」が同時併用されているからです。これは日本独自の表現でしょうから。もしそうであるなら日本統治下の位置き土産かもしれません。

もしかすると日本独自の表現か?

『広辞苑]』には「おい」=やや驚いた時に発する声。おや。「おいこの君にこそ」とあります。『角川国語中辞典」には古語として、おお。「おい、この君にこそ云いわたるを聞きて」(枕草子)しして、ふと思い立ったりするときに発することば。「おい、さりさりとうなづきて」(源氏物語)とあります。

両辞典とも「親しい間柄、同輩、目下の者に呼び掛ける声」という英国の"Oi!"に準ずる意味も併記していますが、古語との関係は述べていません。しかし、「おい」自体は古くからのやまと語に存在していたkとは確かで、偶然、”oi”と合体したのでしょうか。

(*1)フィリッピンはアメリカの信託テリトリーでアメリカの管轄にありましたが、アメリカ英語では”Oi!”は稀なのでそこからではないと推察します。






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