「プロジェクト発信型英語プログラム」(3ー2).....立命館大学生命科学部薬学部(在籍2008~2014)中間報告(2011)
「プロジェクト発信型英語プログラム....立命館大学生命科学部薬学部(筆者在籍2008~2014)中間報告(2011)」(1-1)(1-2)(2-1)(2-2)(3-1)の続き(3-2)本稿最終回です。2011年掲載時そのままお届けします。
Project4、Junior Project1、Junior Project2におけるTerm paperと Criterionの利用
受講者中98パーセント以上の学生が到達目標を達成できました。受講前は英語 を話した経験が皆無であった学生が、身の回りのことから語り始め、3年間で専 門領域についてプロジェクトを行い、アカデミック・ペーパーを書き、それにつ いてポスターを作って発表できるまでに成長したことは、一応の成果と言ってよ いでしょう。誌面が限られておりますので成果の詳細を省き、2年生後期の Project4(P4)、3年生前期のJunior English1 (JP1)、3年生後期のJunior English 11 (JP2)のアカデミック・セティングのプレゼンテーションとライテ ィングの成果に焦点を当て説明します。
前述した通り、学生はP4では週2コマ、JP1とJP 2では1コマの英語の授業しか ありません。記述のシラバスに従い、アカデミック・プロジェクト、アカデミック・ラ イティング、アカデミック・プレゼンテーションについて学びますが、授業中に 英語を直しペーパーの構成を考えて編集をしつくすのは不可能です。これらは課 外活動として行わなければなりません。そこで本プログラムではEducational Testing Service (ETS)が開発したCriterionというオンライン・ツール を採用しました。
Criterion(クライテリオン)について
Criterionはエッセイや論文などを執筆者が自学 自習方式で添削できるよう開発されたオンライン・ツールです。学生は Criterion上に書いたエッセイや論文を載せて提出すると、即座に採点と分析 した結果が返ってきます。間違いが訂正されて戻されるのではなく、間違い と思える箇所につき簡単な解説とともに指摘してくれます。学生はそれをみながら自分で直さなければなりません。直したものを再度Criterionに掛けて 採点・分析結果を得ます。このプロセスを3回繰り返せばよいエッセイや論文 が仕上がることになっています。中学校、高等学校、大学で使用したテキス ト、参考書、辞書などを参照しながら自学自習で添削できるので、これまで 習ったことを復習し使えるようになる良い機会になります。教員は、オンラ イン上で学生の進捗状況をチェックし、アドバイスをすることができます。
TOEFLテストレベルとGREレベルの2種類
Criterionには、TOEFL Essay Writing用とGRE(Graduate Record Examination)Essay用の2種類があります。前者は英語を母語としない人を対 象にしているのに対して、後者は母語が英語であるか否かに拘わらず、米国の大 学院進学希望者全員を対象にしたものです。前者では、指定されたテーマについ て400語程度のエッセイを書きますが、後者では、Best issuesと称するものを 選択すると、書き手が自由に選ぶテーマにつき1000語~5600語程度までの論文 を診断できます。本プログラムのProject2(P2)、Project4(P4)、Junior Project1(JP1)、Junior Project2(JP2)では、提出するterm paperのテー マは自由で、1000語から2000語の長さであることから、後者のGRE Essay用の Best ideasを採用しました。以下はBest Ideasの指示です。“Present your perspective on the issue below, using relevant reasons and/or examples to support your views.”
GRE Essay Best ideasのチェック項目
GRE Essay用のCriterionのチェック項目は、1.Grammar、2.Usage、 3.Mechanics、4. Style、5. Organization & Developmentです。それぞれの チェック項目の詳細は以下の通りです。
1.Grammar: Fragment or Missing Comma, Run-on Sentences, Garbled Sentences, Subject-Verb Agreement, Ill-formed Verbs, Pronoun Errors, Possessive Errors, Wrong or Missing Word, etc.
2.Usage:Wrong Article, Missing or Extra Article, Confused Words, Wrong Form of Word, Faulty Comparisons, Preposition Error, Nonstandard Word Form, Negation Error.
3.Mechanics: Spelling, Capitalize Proper Nouns, Missing Initial Capital Letter in a Sentence, Missing Question Mark, Missing Final Punctuation, Missing Apostrophe, Missing Comma, Hyphen Error, Fused Words, Compound Words, Duplicates
4.Style: Repetition of Words, Inappropriate Words or Phrases, Sentences Beginning with Coordinating Conjunctions, Too Many Short Sentences, Too Many Long Sentences, Passive Voice
5.Organization & Development: Introductory Material, Thesis Statement, Main Ideas, Supporting Ideas, Conclusion, etc.
これらは本プログラムの全プロジェクト・クラス およびスキル・ワークショップ・クラスがカバーする項目と概ね同じです。
GRE Essay Best ideasの採点基準
上記の全項目をチェックし6段階で採点します。4以上はGREのpassingポイン トとみなされます。
本プログラムにおけるGRE Essay Best ideasの使用例
2010年度秋学期は、以下の要領で使用しました。
Project2(P2) 1回生後期⇒ 全履修者の内、希望した25名の学生がそれぞれ提出したpaperを校正し、立命館 大学生命科学部・薬学部父母教育後援会支援冊子に掲載した。
Project 4(P4) 2回生後期⇒ 全履修者がそれぞれterm paper(1500-2000 words)を校正した。3回使 用。 Junior Project 2(JP2) 3回生後期⇒ 全履修者がそれぞれterm paper(1000-1500 words)を校正した。
以下、2010年秋学期のJP2のある受講生によるCriterion使用経過です。余白 が限られているので、Grammarに焦点を当ててみると、1st draft後でかなりの 間違いが指摘されており、自らが訂正し続け、5th draftの診断では間違いは1ヶ 所だけでほぼゼロに近くなっているのが分かります。
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同じようにしてUsage、Mechanics、Style、Organization & Development の項目を5回直しました。その結果、全項目において間違いは改善され、結果、 Score5に格上げされました。そして、この最終draftが、ポスター・プレゼンテ ーション用のポスターに反映され、ポスターの質もかなり向上しました。
Criterionと最終評価点の関係
ある程度の英語能力を有する学生(全履修者の90%)の場合、Criterionの使 用回数と取り組みの質がpaperの質と一致し、Criterionの効果はあったものと思 えます。実際、多くの学生が、4以上の評価を受けていることからもそのことが 覗えます。他方、英語力が頗る欠如する学生(TOEICテスト350点以下、全履修 者の10%)の場合は、Criterionの分析自体を理解するのに時間がかかり、最初 の300語程度を添削するのが精一杯であったものの、それでも比較的読みやすい 英文になったことは十分評価できます。
GRE Essay用は、英語だけではなく、論文の構成そして論理もチェックしま す。本プログラムでは、上記したシラバスが示すように、これらのことをかなり 時間をかけて考えさせるので、その効果が出ているものと思います。少なくと も、本プログラムでA+と評価された全体の5%のterm papersは、GRE Essay Criterion最終使用回数目の採点で、6段階中6や5と評価されたものばかりです。 また、それらのペーパーをベースに作成したポスター・プレゼンテーション用の ポスターの英語の完成度もかなり高く、JP2の履修者の内、少なくとも3名はその まま国際学会に採択されて発表したとの報告を受けています。
かくして学生諸君は発信し始めました。自分自身が発信基地になり発信し続け るでしょう。今の日本に必要なのは、全てのジャンルにおいて世界に向けて自分 の考えを発信することです。これからの2、3年は、大学院のGraduate Project を立ち上げて軌道に乗せ、受講者の多くが仕上げたterm paperを国際学会で発 表できるようにしていきたいと考えています。世界中の人々とともにプロジェク トを行う場を創造できれば、そうした成果は自ずと産まれるものと確信していま す。
後記(2024年8月記)
筆者はこの2011年中間報告の3年後の2014年まで立命館大学生命科学部・薬学部に在籍しました。翌年2012年には生命科学研究科修士課程が創設され、Graduate Project (GP)が開設されると、留学生が受講し、本プログラムの学部・大学院一貫プログラムが完成しました。『グローバル社会を生きるための英語授業:立命館大学生命科学部・薬学部・生命科学研究科「プロジェクト発信型英語プログラム Project-based English Program」』(鈴木佑治 創英社・三省堂・Kindle出版)に詳細を記しました。立命館を退職し今年で10年経ちその後の様子については定かではありません。
2008年~2014年に本プログラムを受講した皆さん、楽しそうに一生懸命プロジェクトに取り組んでいたあの姿勢から、10数年後の現在、それぞれのワークプレイスで英語を使われていると想像できます。当時Criterionで培ったノウハウを応用し、Open AIなど更に進化した最先端ソフトウエアを駆使しながら、引き続きグローバル世界に向け英語で発信しましょう。きっとそうしていると確信しています。
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