Svenskt Tenn 100周年記念展 「家の哲学」を見に行ってきた...の巻
短い夏が終わり、日がどんどん短くなり、冷たい風が肌に触れる季節がやってきた。この時期は、特に何か楽しい企画を立てないと、つい気分が沈みがちになる。そんなわけで、職場の同僚たちと一緒に、現在開催中の展示を見に行くことになった。
今回訪れたのは、スウェーデンのテキスタイルデザインで有名な、「スヴェンスクテン」の100周年記念展だ。この展示は、ストックホルムのユールゴーデン(Djurgården)に位置するリリェヴァルクス(Liljevalchs)というアートギャラリーで2025年1月12日まで開催されている。木曜日は夜20時まで開館しているため、仕事終わりに立ち寄るにはちょうどよかった。私たちのボスの息子君がテスラを運転したいということで、送ってくれるということになったのだが、思いがけず人数が一人増えて車内が定員オーバーになってしまった。ボスは「大丈夫大丈夫。」と言いながらなんとトランクに乗り込み横たわった格好で出発。トランクといっても車内と分断されているわけではないので会話はできる。車で5分もあればいける距離であったのだが、予想外の大胆な行動にびっくりした。全く気取らない、気さくなボスである。
スヴェンスクテン(Svenskt tenn)って?
スヴェンスクテン(Svenskt Tenn)はストックホルムの老舗のインテリアデザインショップである。Strandvägen 5 に位置するこのショップは、家具やテキスタイル、インテリア雑貨の販売だけでなく、併設されたカフェでくつろぎながらその空間を楽しむことができる。
スヴェンスクテンの歴史は、1924年に30歳のエストリッド・エリクソンが設立した錫細工工房兼ショップに始まる。当初は錫製品を専門としていたが、彼女の新しくて急進的なビジョンにより、すぐにユニークで魅力的なインテリアブランドへと成長した。エストリッドが目指したのは、変化し続けるスタイルや教義を超えて、身体的、精神的な快適さのための空間を作り出すということだった。
1930年代からはウィーン出身の建築家兼家具デザイナーのヨセフ・フランクとのコラボレーションを通じてさらに進化を遂げた。
エストリッド・エリクソン(Estrid Ericson,1894-1981)
エストリッドは、スウェーデンで女性が選挙権を獲得したわずか数年後の1924年にスウェンスクテンを設立し、この事業に成功し、長期的に製造業と小売業の両方で成功することになった。
彼女はヴェッテルン湖畔のヒョー(Hjo)で育った。1913年に家を出てストックホルムのストックホルムのテクニスカスコーラン(現在のコンストファックKonstfackという芸大)で学んだ。短期間ヒョーで絵画教師として働いたり、その後はスヴェンスクヘムスロイドなどのショップでも働いた。
1930年代には完全なインテリアデザインを広く提供するブランドに拡大させた。スヴェンスクテンの独自のデザインのアイテムと購入したアイテムの組み合わせが確立した。彼女は仕事とプライベートの境界がなく、店の上の階に住み、新しいデザインの写真撮影や家具の試作品をテストするのに自宅を使うなどしていた。
1975年にKjell and Märta Beijers財団に会社を売却するまで、会社の経営者としての責任を担っていた。
錫製品の魅力
1900年代初頭、明るく展性のある金属である錫は非常に流行した。工業生産品とは違う手鍛造された暖かみがあり、光沢がないマットで本物といった特徴が受けた。エストリッドはこの特性に着目し、多くのアーティストや職人と協力して、洗練されたデザインの錫製品を次々と生み出した。これらの製品は、実用性と芸術性を兼ね備えたもので、当時の家庭に新しいインテリアの可能性を提示した。
ヨセフ・フランク(Josef Frank, 1885-1967)
1933年にウィーンからスウェーデンに移住した。そこで彼はスヴェンスク・テンとの長く実りある協力関係を築き、彼独自の色彩豊かなデザインが開花した。第二次世界大戦中に反ユダヤ主義の煽りを受けて米国にいた数年間を除いた30年間を、スヴェンスクテンでエストリッドと共に働いた。
ウィーンでは、公営住宅や個人住宅の設計、家具のデザインを手掛け、モダニズムの中心的存在として活躍していたが、その理念に対して必ずしも無批判ではなかった。急進的な知識人として、建築やデザインに関する執筆を行い、モダンという概念を押し付けられたシステムや生活様式に結びつけることに反対した。彼のウィーンでの建築は、モダニズムの社会主義的理念に共感し、住宅建築を社会的条件を改善する手段と見なしていた。
スヴェンスク・テンの発展
エストリッド・エリクソンとヨセフ・フランクの家に対する広い意味での定義は、家とは常に絶え間なく発展し続ける、安らぎの場所であり、新しいものと古いものが同じくらい大切にされる空間というものだ。家は人が中心であり、暮らしの中で心地よさと喜びを生む空間づくりを目指すものであった。
スヴェンスク・テンの事業の中核には、銀行や大使館、そして世界中の個人住宅へのインテリアデザインの依頼があった。これらのプロジェクトは、会社に経済的な安定をもたらすだけでなく、新しい家具やインテリアアイテムを生み出す原動力ともなっていった。
例えば、1955年にはスウェーデンの総領事エリック・スヴェデリウス氏とその妻リリーのために、ブラジルにある都市住宅とビーチハウスの両方のインテリアを手がけた。スヴェンスク・テンのインテリアの基盤である白い壁を背景に、ヨセフ・フランクは家具一式をデザインした。これには、異なる木材を組み合わせた新しいデザインのキャビネット、さらにはビルトインのキャビネットや棚、キッチンが含まれていた。エストリッドは顧客と直接やり取りを行い、一方でヨセフはヨーロッパからブラジルやその住宅を訪れることなく、インテリアを設計した。
スヴェンスク・テンの現在
スヴェンスク・テンが大切にしているのは、環境への配慮と高品質な職人技である。スウェーデンの伝統的な職人技を守り、小規模製造を重視する姿勢は、ブランドの中核を形成している。その取り組みの一部を担っているのが、日本人の金属彫刻職人、美知子・エングルンドさんだ。
この事実を知ったのは、ほりとも@アメリカ在住ライターさんから送られてきた記事がきっかけだった。その記事は、彼女の友人のライターさんが書いたもので、美知子さんの職人としての活動が詳しく紹介されていた。
美知子さんをはじめとする職人たちの技術は、スヴェンスク・テンの製品に魅力を与えるだけでなく、長く愛用できる持続可能なデザインを生み出す基盤だ。こうした取り組みを知ることで、本物を求めるスヴェンスク・テンの製品に込められた思いや背景がより深く感じられるようになった。
スヴェンスク・テンのデザインには、美しさだけでなく、その背後にあるストーリーや職人の技術が息づいている。ぜひ、その魅力を直接感じていただきたい。
環境への配慮を重視するスヴェンスク・テンは、素材の選択から生産工程まで、持続可能性を意識した取り組みを行っている。家具やインテリアアイテムは可能な限り自国で製造され、リサイクル可能な素材や長く使えるデザインが採用されている。
伝統と新しいもの
スヴェンスク・テンのアイコニックなデザインは、エストリッドやヨセフの時代から引き継がれたものだけでなく、現代の新しいデザイナーたちとのコラボレーションによっても新たな生命を吹き込まれている。これにより、ブランドの伝統的な魅力と現代的なトレンドが絶妙に融合し、幅広い世代の顧客に愛されている。
最後に
正直に言うと、これまでスヴェンスク・テンではヨセフ・フランクのデザインしたテキスタイルにしか目が向いていなかった。しかし、この展示を通じて、ブランドの多面的な魅力やその背景にある職人技、そして環境への配慮など新たな発見をすることができた。また、スウェーデン語で書かれたパンフレットをじっくり読む機会にもなり(しんどかった💦)、これまで知らなかった情報を深く知る良いきっかけとなった。
こうした学びを日々の暮らしやものづくりにどう生かせるか、少なくとも心地良い住まい、を目指して色々と改善していきたい。