見出し画像

NOT NOW MUSICは良いぞ ② (「ワールドミュージック」と「っぽさ」の話)

また買っちゃった……

 という事でNOT NOW MUSIC話をまた書きます。今回は、先日また買ってしまったNOT NOW MUSICのコンピレーション"Cafe Africa"を取り上げたいと思います。"Cafe Africa"はその名の通りアフリカ現地(主に南アフリカ)でリリースされた音源が収録されているコンピレーション。雑に、アフリカ音楽と言えばパーカッションが打ち鳴らされるアフロビート的なのが一般的イメージかと思います。民族音楽的な要素を含む音楽はざっくり「ワールドミュージック」なんて括られたりしますが、確か特定の時代に「ワールドミュージック」のマーケットが西洋音楽界隈で成立する流れみたいなのがあって、でもその辺詳しくないので書きません。で、恐らくその辺に含まれるのがアフリカ「っぽい」音楽な訳ですが、今回取り合げる"Cafe Africa"はなかなか「っぽく」ないコンピレーションとなっています。そしてそれが面白い。それが素晴らしい。

西洋音楽×土着の音楽感覚・言語感覚

 "Cafe Africa"を聴いていきましょう。収録楽曲は主に南アフリカの50~60年代の曲(ブックレット読んだ感じでは)。聴いた感じをジャンルで言えばビバップ頃までのジャズであったりフォークソングやブルース・R&Bのような楽曲が多く、そこに現地の言語や独特の節回し、土着のグルーヴ感がミクスチャーされている印象です。とても独特で面白い!また主旋律に特定の種類の笛を用いている曲がいくつかあり、この楽器はpenny whistleであると説明されています。アメリカンオールディーズを思わせるコーラスグループの曲も多く、当時のリアルタイムな西洋ポップミュージックの影響を受けているのが分かります。(因みにThe Lion Sleeps Tonightの元ネタ曲も収録)そこに聴いて取れるものはベタにルーツ的な「民族音楽」ではなく洗練(という表現を用いるのも良くないかもしれないですが)された紛れもない「ポップス」です。あとついでに、何とスカまで収録されていました。Reggie Msomi's Hollywood Jazz Bandというバンドによるその曲名は"Midnight Ska"。普通に驚きました。

意外と「っぽく」ない現地の音楽をどう受容するか

 本作に収録された楽曲は「西洋音楽をアフリカ的に解釈したポップス」であり、その特有のミクスチャー感は他にはない面白さがあります。私は超好きです。しかしここでAmazonのレビューを見ると"もっと打楽器、リズム主体の所謂アフリカンビートや民俗音楽的な熱い物を求めていたのですが、ポップスです。"、"50年代のアメリカのジャズのような感じです。こんなにアメリカナイズされていたとは アフリカ音楽の逆輸入。"といった、決して高評価とは言えない星2つレビューが目に入ります。「期待ハズレ」とまで書いてあります。面白いですね。大変面白い。
 このアルバムに収録されているのは紛れもなく現地の音源であり、かつ日本に住む私たちの勝手な「アフリカ音楽」イメージとは関係なく現地の人々が愛好したであろうリアルな「アフリカ音楽」です。彼ら(≒我々)は「アフリカ音楽」に勝手な幻想を抱いて(押し付けて)勝手に失望し、低評価を付けている訳ですね。……この辺は突っ込むと何と言うか、ポリコレだの政治的な話になってしまうので、音楽の話がしたいのでここではこれ以上触れません。ただ、個人的な感想を述べるならばこれは素晴らしいコンピレーションです。ルーツ的な民族音楽としてのアフリカ音楽は細野晴臣監修"ETHNIC SOUND SELECTION"などで聴いた事があり、そちらも好き好んでおります。しかし本作の「アフリカ音楽」にはルーツ感と同時に言わば生活感がある。その時代の市井の人々が好んで聴いた光景を思い浮かべる事の出来る稀有な音源集となっています。そして単純に楽曲・演奏としても良いものが揃っている。好みはあれど、これらを素直に聴いて、音楽それ自体に対しての評価を述べる事はきっと難しくないはず……。

音楽は音楽の中にしかない

 はい。前の段落で「どう受容するか」なんて勢いで書いてしまったのですが、私の答えとしては「音楽は音楽の中にしかないからまず音楽を聴こう」です。私の勝手な先入観の中にも、何なら楽曲のバックグラウンドやら作家の素顔みたいなものの中にも音楽はありません。音楽は音楽です。音楽を音楽として聴いてから解釈しましょう、というのが答えです。そして聴いた音楽に対して生まれる解釈というのは、音楽自体に含まれるものではなく、翻って自身の精神分析みたいなものだと思っています。知識は知識で上手い事使っていきましょう。自らの聴取体験で形成された独自の感覚、そして持ち得たリテラルな知識、それらを良い感じに稼働して良い感じに自分なりに楽しく音楽を聴くとより良い感じなんじゃないでしょうか。第一に、そこで鳴っている音楽を聴きましょう。そんな気持ちにさせてくれるのでNOT NOW MUSICは良いぞ……という所で今回はお開きです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?