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愛のシュプリーム!とGET UP AND DANCEから巡る元ネタのポロロッカ
噂の楽曲「愛のシュプリーム!」
TLでちょっと気になる話題を見かけたこの曲。TVアニメ「小林さんちのメイドラゴンS」の主題歌、fhánaによる「愛のシュプリーム!」。
その話題というのはこの曲があの「GET UP AND DANCE」を元ネタにしているという話。なるほどどんなもんかなと聴いてみたら一瞬で分かって笑いました……とここまでなら良くある「このネタ持って来たか~」という話で終わりなんですが、よく聴き込んでみると元ネタへのオマージュの仕方が特異である事に気付きます。
「GET UP AND DANCE」とは
ここで令和のヤングの為に「GET UP AND DANCE」を軽く説明します。ここで扱うバージョンは大きく2種類あり、1つは原曲であるアメリカのファンクバンド・FREEDOMによる「GET UP AND DANCE」(1978年)。もう1つは日本のヒップホップグループであるスチャダラパー版「GET UP AND DANCE」(1994年)。
FREEDOM版はいわゆるレアグルーヴ文脈でクラシックスとされるディスコファンク楽曲。超名曲。日本では橋本徹による名作コンピシリーズ「Free Soul」への収録で有名になった面がありそうです。自分もそれで知った。ちなみに音ゲーのDDRにも収録された事があります。スチャダラパー版はアルバム「スチャダラ外伝」に収録。スチャダラパーを中心とするヒップホップクラン(で良いのかな)であるリトル・バード・ネイション(LBネイション)の面々が次々とマイクリレーを回していくパーティラップとなっています。最高。
では元ネタポロロッカを始めよう
「愛のシュプリーム!」では上記2バージョンそれぞれへのオマージュ箇所があります。1つは聴けばすぐわかる、FREEDOM版のホーンズとギターのフレーズがほぼそのまま流用されています。ここで面白いのがディスコファンクな原曲とは全く違う高速BPMで演奏される事によって聴こえる印象がかなり変わるという点。正直これは一種の発明です。思えばアニメ一期OP「青空のラプソディ」もフィリーソウルやモータウンビートをオマージュしながらもやたらBPMが速い事により独特の聴感を生んでいました。あっちも名曲なので知らなかったら聴いて下さい。あと、サビ終わりからは歌のフレーズも原曲まんまになっていますね。
さて注目すべきはもう1点の方です。GET UP AND DANCEのトラックに乗せてラップをする。ここまでは「なるほどスチャ版へのオマージュね」で済む話なんですが、この楽曲ではもう一歩進んで原曲のフロウへのオマージュが聴いて取れるのです。特にオマージュ元ではないか思われるのはスチャ版に参加しているBOSE(スチャダラパー)とBIKKE(TOKYO NO.1 SOUL SET)、もしかするとかせきさいだぁも含まれているかもしれないと私は踏んでいます。
LBネイションと独特のフロウ、それらへのオマージュ
LBネイションは現在主流(というよりは「教科書的な」)のカチっとビートにハメて固く韻を踏んでいくタイプのラップとは全く異なるラッパーが多く在籍しています。上に挙げた三名のラップを良い感じの曲達で聴いてみましょう。
全員がめちゃくちゃ独特のフロウを持っていますね。韻を踏む事にもあまりこだわっていません。日本語のヒップホップが今ほどルール化(ゲーム化)されていなかった時代に自らの表現で未踏のジャンルを切り開いた偉大なる先人達のラップです。超好き。
ここで「愛のシュプリーム!」の話に戻る。特に顕著なのが今回男声ラップを担当するkevin氏のフロウで、動画39秒地点とかめっちゃBIKKEだ!となってテンション上がったんですがいかがでしょうか。あと単語をフレーズの中でゆるゆると伸び縮みさせる箇所はBOSEっぽいなと思っています。このように単純に楽曲の形式だけを拝借するのではなく、言わば「節回し」のような細かな表現までオマージュの対象にして来るのは実に特異です。そこには元ネタへの愛と共に「分かる人は気付いてくれ!」というメッセージを感じさせます。
愛のシュプリーム!がオマージュしたもの、更にポロロッカ
以上で「愛のシュプリーム!」の元ネタが「GET UP AND DANCE」であるという話が分かるかと思いますがここからが更に面白い。さて、スチャ版の「GET UP AND DANCE」にも元ネタがあります。FREEDOM版が原曲というのは勿論なのですが、スチャ版にも過去のラップの名曲から韻の踏み方を引用している箇所があるのです。それが”Feel the たび/Feel the たび/We are L.B./We gotta new 旅"の箇所。これはTreacherous Threeによる「Feel the heartbeat」のイントロ"Feel the heartbeat, feel the heart beat/We're the Treacherous Three, we got a new heartbeat"へのオマージュです。
この事実が何を意味するか。つまり、「愛のシュプリーム!」はスチャ版「GET UP AND DANCE」を音楽的にオマージュしているだけでなく、スチャ版が行った「過去のラップの名曲のフロウ/韻をオマージュする」という趣向自体さえもオマージュしているのです。因みにこの件についてツイートした際、作曲者の佐藤純一氏からfavが付きました。びっくりした。なのでこの説は若干信憑性がある気がします。
愛のシュプリーム!の何が良いかというと原曲フレーズのサンプリングだけじゃなくてスチャ版というか多分BIKKEとBOSEのフロウもオマージュしてるんだけど、スチャ版GET UP AND DANCE自体も過去のラップクラシックスから韻の踏み方をサンプリングしてる箇所があるんですよ 重ね方の芸が細かい
— ぬえふくろう (@Nuefukurou) July 9, 2021
さて、今回は元ネタの側になったヒップホップというジャンル自体が正にサンプリングと元ネタの文化なのですが、音楽の要素として大ネタを派手に使うfhánaの手法は渋谷系のアーティストを思い出しますね。
ところでこの「愛のシュプリーム!」という曲名ですが、恐らくこれもJohn Coltraneのアルバム「A Love Supreme(邦題:至上の愛)」から取られています。歌詞に"震える至上の愛"という一節があるのは元ネタの明示でしょう。こういった楽曲の内容とはあまり関係のない所から曲名を拝借してくる手法は、まさに渋谷系の代表格であるピチカート・ファイヴを思い出させます。そんなこんなで「愛のシュプリーム!」は音楽好きの遊び心を大いに感じさせる、超面白くて最高にアガる一曲となっていました。良い曲。CD買います。あとサビとか間奏も何か元ネタありそうな雰囲気なんですがちょっと思い付きませんでした。心当たりある方はコメントとかに残して頂けると幸いです。
(上はコルトレーンの「至上の愛」、ピチカートの「東京の合唱」、タイトル元ネタの映画「東京の合唱」)
※2021/08/01追記、下記ご確認下さい
ファーザー・ザン・イマジネイション [名盤1000円] フリーダム https://t.co/YO9vvzkWuo @amazonJPより 愛のシュプリーム!の元ネタ(の元ネタ)ことGET UP AND DANCE原曲収録のFREEDOMのアルバムが偶然このタイミングでたったの1000円で再発中なので買いましょう 名盤
— ぬえふくろう (@Nuefukurou) August 1, 2021