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vol.13 私が失ってきたもの 内田良先生
梅雨明けが待ち遠しい季節となりました。そんな梅雨の晴れ間に、ふと在りし日に思いを馳せていただければと思い、「名大で初めて○○した日」シリーズをお届けいたします。
今回は、教育発達科学研究科の内田良教授に在学時代の思い出についてご寄稿いただきました。内田先生は名古屋大学経済学部を1998年にご卒業(教育発達科学研究科へは大学院より進学)されております。今回は異色の思い出となっておりますので、私も大変興味深く拝読させていただきました。
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職業柄、私は文章を書くことはそれほど苦手ではないのですが、今回は個人的な事情により、難儀でした。学生の頃を思い出そうにも、どうにも記憶がありません。記憶は部分的にあったとしても、「名大で初めて」のことに行き当たらないのです。
お風呂の最中とかにぼーっと考えてみても、あるいは「名大で初めて〇〇した日」のバックナンバーを読んでも、どうしても自分自身の「名大で初めて」にたどりつかないのです。
それもそのはずで、名大経済学部に学部生として在籍していたのは、20年以上前のことです。まず当時の記憶がありません。
デジタル・ネイティブの世代は、さまざまな出来事が画像として記録され残されています(ときに勝手に親がネット上に投稿してデジタルタトゥー化します)。とても息苦しいですよね。その点、過去が頭のなかに記憶されて適宜消えていくことは、とても便利だと思っていました。しかしながら、こういうときばかりは困ります。
いや正確に申し上げると、「名大で初めて」のことはいくつか思いつきました。が、いずれも人に迷惑をかけたり、悪いことをしたりと、ここに書けるような内容ではないのです。
それらネガティブな話題以外に、なぜ何も思い出せないのか。それは記憶が薄いことにくわえて、私はそもそも大学の授業にほとんど出席していませんでした。大学でのまともな思い出がないのです。毎日12時間の睡眠、適度にバイトとスポーツと、いま思うと無駄の多い4年間でした。
このような次第で、本当にごめんなさい。記憶が呼び起こされる前に、締切日が来てしまいました。
私はいま名古屋大学で勤務しています。ここ1年以内のことであれば、「名大で初めて」はいろいろと思い浮かびます。そのうちの一つを、簡単に紹介させてください。
数か月前のこと、「名大で初めて」、理系棟が立ち並ぶキャンパス東側のエリアをゆっくり散歩しました。いままでも何度も、東側のエリアを訪れたことはあります。ただ、散歩を目的としたことはありません。これでもか!というくらいに、知らない建物やヘンなものが視界に入り、ワクワクしっぱなしでした。
過去は消えていきます。ところが、いま-ここの日常さえも、視界からたくさん消えていたのでしょう。
そんな経験をしてから、ふと顔をあげてキャンパスを歩くことが、多くなりました。
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