
「めいだい・りべらるあーつ」vol.5 西尾直樹 准教授(医学系研究科)
昨年度満を持して復活しました「めいだい・りべらるあーつ」。微力ながら少しずつ連載数を増やして参りたいと思っております。第5回を迎える今回は、今新たな挑戦に挑まれている、名古屋大学医学系研究科・耳鼻咽喉科の西尾直樹准教授にお話を伺いました。本連載初の卒業生ですので、若かりし頃のこぼれ話なども飛び出すのでは!?

-どの様な研究をされているのでしょうか?
私は医師ですので、普段は、口やのどのがんを治すための手術をしています。その中で、病気によって声を失う患者さんのために、自分の声を取り戻すための研究もしています。
実際に手術をする医学部の私たちと、最先端の音声変換技術を持つ情報基盤センターの研究者たちが共同で研究することによって、患者さんの声を取り戻すことができています。
-「臨床」と「研究」どちらも大切にされていると思いますが、各々に対する想いをお聞かせ下さい。
やはり医師として、「臨床」を最も重要と考えています。目の前の患者さんが少しでも長く楽しく生きていけるように全力を尽くしたいと思います。
その中で、さらに良い治療を提供するには、色々な「研究」をしていくことが欠かせません。医療は日々進歩しています。20年前には常識と思われていた医療のやり方が、全く変わっていることも多くなっています。
私は臨床医ですので、臨床現場から課題を見つけて研究していくことが、とてもやりがいを感じています。私たちの研究が、少しでも患者さんの希望になればと願っています。
-様々な診療科の中から「耳鼻咽喉科」を選ばれたきっかけは?
私は、高校生の頃にめまいと難聴の病気で苦しみました。その際に、自分が経験しているからこそわかることがあるだろうと思い、耳鼻咽喉科に興味を持ちました。そして、病院実習を経験して、耳鼻咽喉科が首から上のほぼ全ての領域をカバーするその幅広さに魅了されて耳鼻咽喉科を選択しました。
-研究が面白い!と感じるのはどんな時ですか?
まずは自分の論文が掲載されたときですね。研究をしながら結果をまとめて、その内容を論文として投稿する。そして雑誌での査読過程を経て、無事受理された時が一番嬉しいですね。もちろん多くの研究者に読んでもらえるのがいいですが、一人でも私の論文を読んで新しいものを感じてもらえると嬉しいですね。
何より、目の前の患者さんに対して、その研究成果が役に立った時が、最も嬉しい瞬間ですね。医学研究の結果は、なかなか実際の臨床現場に活かせることができないことも多いです。自分の研究成果によって、患者さんが安心して治療が受けられるようになったときはやはり研究を続けていて良かったと思います。
-研究に関して:実は・・・的な裏話、今だから言えるここだけの話などはありますか?
私が取り組んでいる「Save the Voiceプロジェクト」は、実はテレビを見ていて思いつきました。ちょうど機械学習の技術を応用した音声変換技術の研究を特集しており、臨床に応用できるのではないかと閃いたのです。
そこから、この研究をしている企業や研究者の方に色々と声をかけました。幸運にも名古屋大学情報基盤センターの戸田智基教授とつながることができて、この共同研究が始まりました。実際にテレビで見て思いついて、自分からコンタクトを取らなかったら、今の自分は存在しないと思っています。多くの人とコラボレーションをして研究を進めることが重要ですし、やはり自分から動いてアクションを起こしていくことが何よりも大事なことだと感じました。
Save the Voiceプロジェクト
頭頸部がんなどの病気により喉頭を摘出する患者さんを対象に、医療機関や研究施設、関連企業、患者支援の会など多くの方と協力して、手術後に失った自分の声を、音声変換技術を用いて取り戻すことを目的に、西尾先生が約3年前から取り組まれている研究です。
「声を取る」か「命を取る」か 。
そんな選択を、もう患者さんにさせないために。
西尾先生が医師として長年向き合ってきたこの課題に、今新たな道が開かれようとしています。詳しくはこちらをクリック!

【ドキュメンタリー動画を視聴する】→こちらをクリック!
-研究や臨床、この道を選んで良かったと心から思えるエピソード等ありましたらお聞かせください。
これまでは、私はのどのがんの患者さんに対して、「命を救うためには声を失う」と言って、手術をしてきました。治療のためにはしょうがないのですが、やはり声を失くすことにためらう患者さんも多くいましたね。その中で、声を再生する研究を始めてからは、患者さんに「命を救うだけではなく、声も救う」と言えるようになりました。声はその人の人生そのものですので、これからも挑戦を続けていきたいと思いますね。
-もし医師以外の職業に転身できるとすれば、どんな職業を選ばれますか?やはりそれでも医師を選ばれるのでしょうか?
そうですね、私は生まれ変わっても医師を目指すと思います。本当にいつも充実した恵まれた環境で仕事をしているなと感じています。緊急手術など忙しいですけれども、医師という仕事は非常にやりがいがありますので、これからも続けていきたいですね。
そんなお返事が返ってくるのだろうと思っておりました。充実した日々と共に、よりアグレッシブに研究を進められている姿が目に浮かびます。
-ジャンボ宝くじ1等が見事大当たり!先生ならどうする!?
そうですね、あまり物欲がありませんので、大金があっても困りますね。最近は学会で飛行機を使うことが多いので、飛行機の席をファーストクラスにしますね。多分そのくらいの贅沢で満足すると思います。
意外にも「研究」絡みのお返事でしたね。もっと贅沢をしていただいても大丈夫ですよ。
-お忙しい日々をお過ごしかと思いますが、休日等はどんな風にお過ごしですか?
休日は少し時間が取れるので、ゆっくりとパソコンに向かって研究のことを考えています(笑)。後輩の論文などを添削して、コメントを作ったりしていますが、結構楽しいです。あとは、私は学生の頃から宴会が好きでしたので、後輩や同僚などを誘って夜に食事会などをすることが趣味ですね。二次会でラーメンなどを食べて、夜空を見上げる瞬間が最高です。
またしても「研究」絡みとは・・・リフレッシュできているのか少し心配になりますが・・・きっとアルコール付きの「食事会」なのでしょうね。満点の星空を仰ぐ姿を想像して安心いたしました。個人的には翌朝おいし~いお味噌汁が出てきたりすれば文句なし!!
-今後の野望をお聞かせください!
野望はありませんが、自分の興味のある研究を一緒に協力してくれる同僚や後輩と一緒にチームを作っていきたいですね。私は名古屋が大好きなので、名古屋から日本全国へ発信できるといいです。いずれは「Nagoyaから世界へ」つながる研究ができればと思います。
-名大生、そして名大卒業生に向けて一言!
私も名大を卒業しましたが、名大生は本当に優秀で優しい人が多いと感じています。その一方で、少し周りの人や他の地域に向けてのアピールが少ないように感じます。異なる文化に触れることで多く刺激が得られますので、若い人たちには海外留学など含めた交流を積極的に取ってほしいと思います。

いろんなお話を伺っていると、随分と長くなってしまいましたね。元医学部水泳部とのことですので、次回はそんな西尾先生の学生時代を振り返りながら、「NU Students file」などでピックアップしてみたいと思います。お楽しみに♪

今、名古屋大学では西尾先生をリーダーとして「声」をよみがえらせるプロジェクト実現のため、クラウドファンディングに挑戦しております!
打合せを重ねる度に、実現に近づく度に、西尾先生やアプリ開発をお手伝いいただいている株式会社TARVOの小林様が嬉しそうな笑顔を見せてくださると、サポートさせていただいている我々としましても仕事冥利に尽きます。
1年前相談のために来室された時は、まさか1年後こんな風にご一緒させていただけるとは思ってもみませんでした。
まだまだ始まったばかりの挑戦です。一人でも多くの「声」を救いたい、そんな「Save the Voiceチーム」の想いを叶えるために、患者さんやそのご家族ご友人皆さんの笑顔が溢れるように、皆さまからのあたたかなご支援をお待ちしております。(詳しくはこちらを\クリック/)

西尾直樹 (医学系研究科・耳鼻咽喉科 准教授)
2005年3月名古屋大学医学部卒業。社会保険中京病院耳鼻咽喉科医員(2007)、名古屋大学医学部附属病院耳鼻咽喉科医員(2011)、同大学院医学系研究科博士課程修了(2013年3月)、名古屋大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助教(2014)を経て、2018年より米国スタンフォード大学耳鼻咽喉科研究員として渡米。2020年に帰学し、同大学院耳鼻咽喉科助教(2020)、講師(2021)を経て、2025年より耳鼻咽喉科准教授(現職)。
2016年6月日本頭蓋底外科学会優秀論文賞受賞、2020年6月日本頭頸部癌学会優秀演題賞受賞、2023年11月 8th Conference of the Asian Society of the Head & Neck Oncologyにて"Best Presentation Award"受賞。
頭頸部外科医として、主に手術治療を中心に担当されております。