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ギルベルトの絵本と原典の考察

1・はじめに

この記事では、ディードフリーヒよりギルベルトの形見分けとしてもらった絵本に関して、軽く紹介したいと思います。
まずこの絵本は、オスカー・ワイルド著の「幸福な王子」がモチーフとなっています。

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私は純文学に詳しいわけではなく、また「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という作品に出会わなければ、この著者の名前さえ知ることはなかったと思います。
書かれていることの本来の意味は半分も理解していないと思いますし、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の世界観のみで語っています。
無理矢理こじつけた部分もあると思いますし、間違った解釈もあると思いますがあしからず。

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2・幸福な王子のあらすじ

作中でヴァイオレットが読む「王子の両目には青い緑輝(サファイア)、腰の剣(の装飾)には真っ赤な紅玉(ルビー)が輝いていました」には続きがあり、「その体は金箔に包まれていて、心臓は鉛で作られていた」とあります。
そして、「幸福な王子」における王子とは、街に建立された美しい王子の像であり、その美しさは街の人々の自慢でした。
しかし、街の人々は知りません。
ただの像だと思っているその王子像は、「死んだ王子の魂」が宿っている生きた像であり、「自我」がありました。
そして、街で貧しい生活を余儀なくされている不幸な人々を見て、嘆き哀しんでいました。

ある日、王子は「貧しく」「不幸」な人々を見て悲嘆にくれ人知れず涙を流していました。その涙が足元で巣作りをしている「渡り鳥のツバメ」に降りかかります。
そして大粒の涙を流す王子はこのツバメにある「頼みごと」をします。
それは「この場所から見える不幸で貧しい人々に自分の宝石を分け与えてきてほしい」というものでした。
ツバメは王子の腰の剣に施された「紅玉(ルビー)」を「病気」の子供がいる「母親」に、両目の「緑輝(サファイア)」を飢えた「劇作家」とマッチ売りの「幼い少女」に持っていきます。

渡り鳥であるツバメは、南国へと渡る予定でしたが「飛び立つ」ことをやめ、両目の「緑輝(サファイア)」を失ったがために「目が見えなくなった」王子に色々な話を「聞かせ(伝え)」ます。
そして、まだ沢山の不幸な人たちがいる事を知った王子は体の金箔を「剥がし」分け与えて欲しいと頼みます。

やがて王子の像はみすぼらしい姿になり、南国へ渡れなかったツバメも弱っていきます。
死を悟ったツバメは最後の力を振り絞り、王子に「キス」をして息絶えますが、この時王子の「鉛の心臓が二つに割れて」しまいます。

みすぼらしい姿の像は、心無い人によって溶かされますが、鉛の心臓だけは溶けることがなかったので、ツバメと共にゴミ溜めに「捨てられます」。

この様子を天国で見ていた神は、天使に「この街で最も尊きものを二つ持ってきなさい」と命じますが、この時天使が持ってきたものは「鉛の心臓」と「ツバメ」でした。
神はこの天使を褒め、王子とツバメは楽園で「永遠に幸福」になりました。

3・幸福な王子との相関関係

ほとんどの方がお気づきと思いますが、「王子」=「ギルベルト」であり、「ツバメ」=「ヴァイオレット」です。

ツバメが登場する前の、「貧しく不幸」というフレーズは、孤児で身寄りのないヴァイオレットを指し、彼女を引き取ったことを指しています。
悲嘆にくれているのは、少女兵として使うしか手元に置くことが出来なかったこと、「これ以上この娘を戦場へ送りたくない」という想いはあれども、上官には逆らえない憤りと捉えることが出来ます。
ボチアッチャの感謝祭でブローチをプレゼントした際の、ギルベルトの表情やインテンス決戦前のテント内でのやり取りがそれを現しています。
このテント内で流すギルベルトの涙が、王子が流した涙と言えるでしょう。

ヴァイオレット 8話 210

ヴァイオレット 13話 283

ヴァイオレット 13話 285

その後、インテンス決戦でギルベルトは未帰還兵となり、ヴァイオレットは両腕を失いながらもかろうじて生き延びます。
しかし、不幸な傷病兵になるはずだったヴァイオレットは両腕が義手になるものの、どこへでも飛んでいける翼を持つ「ツバメ」へと成長したのです。

王子の「頼み事」とは、代筆依頼そのものを指しています。
ルビーとサファイアを分け与えるくだりで、「病気」「母親」「劇作家」「幼い少女」というフレーズがあります。
病気の子供はユリス君やオリビア、劇作家はオスカー、マッチ売りの幼い少女は、花を売って生計をたてていたエイミーとテイラーに相当します。
ですので、単純に7話、10話、外伝、劇場版の4つのエピーソードに深い関係性があります。
しかしもっと単純に親子、兄弟といった関係に置き換えると、ほぼ全てのエピソードになぞらえることが出来ます。
「ルクリア、スペンサー兄妹と亡き両親」「シャルロッテとアルベルタ」「リオンと両親」「オリビアとオスカー」「アンとクラーラ」「エイダンと両親」「エイミーとテイラー」「ユリスと両親・弟」という面々です。

ヴァイオレット 3話 281-1

ヴァイオレット 5話 346-1-1

ヴァイオレット 6話 115-1-1

ヴァイオレット 7話 209-1

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ヴァイオレット 外伝 1

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1話での「私はなくなった子供の代わりには成りえません」という言葉も、ティファニーさんはヴァイオレットの「母親」になりたかった、という意味がこめられているかもしれません。
また、アデリーナ・ブーゲンビリア夫人の「あなたのせいではないわ」というセリフ。
これは、不幸な人々がいるのは王子のせいではないし、不幸な人々のために涙を流している王子を救えないのはツバメのせいではないのよ、と諭しているようです。

ヴァイオレット 13話 395-1

そして人々が涙を流し、王子が涙を流しが繰り返されているように見えますが、王子の願いとツバメのおかげで、哀しみだけの涙にはなっていません。

ヴァイオレット 10話 485-1

ヴァイオレット 外伝 3

ここで言う王子の願いとは不幸な人々を救済するという意味だけではなく、ヴァイオレットに普通の女性として生きて欲しい、というものです。
ヴァイオレットはギルベルトの生存を信じ続けていますが、自動手記人形として数多くの人々の想いを掬い上げてきました。
想いを伝える自動手記人形とは、ツバメが不幸な人々に宝石を持っていく行為そのものだと解釈することが出来ます。
初めは命令つまり王子の願いで行動していたツバメは、王子の命令がなくても人々の心を救うことが出来る「その名が似合う女性」になったのです。

ヴァイオレット 4話 386

そして、家族だけではなく「恋人」や「親友」まで、救済の対象とすることで、「エイダンとマリア」「フーゴとイルマ」「ユリスとリュカ」、そして「ヴァイオレット」自身も救われます。
これは作中の登場人物だけにとどまらず、この作品を観た私達も清々しいまでの涙があふれ、「幸福な王子」の願いが叶っていると言えるのではないでしょうか。

ヴァイオレット 11話292-1

ヴァイオレット 14話 269-1

ヴァイオレット 14話 356

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本来南国へ渡るはずだったツバメが「飛び立つ」ことをやめたのは、王子の願いを叶えるためですが、8話~9話にかけてのヴァイオレットの葛藤を現しているともとれます。
伝える」というのは目の見えなくなった王子に、願いが叶ったのかを伝える言葉通りの意味と、王子の願いを叶える為に人々のもとへ赴くという事の両者に当てはめて考えることが出来ます。
これが、「お客様がお望みならどこでもかけつけます」ということになるのだと思いますが、この画像での4話での美しいカーテシーは、まるで王族のような気品が感じられます。

カーテシー10-4話

そして、目が見えないつまり「盲目となった」は、2話後半のエリカの言葉を想起させるものです。
後にタイプライターと呼ばれる~(中略)~「小説家でありながら盲目となり、執筆出来なくなった妻モリー」の為に、という言葉です。

ヴァイオレット 2話 399

「まだ沢山の不幸な人がいると知った」というのは、現実に不幸がおとずれている人の事ではなく、終戦後のギルベルト視点でありエカルテ島のように戦争の被害で、労働力が激減したような地域の人々を指していると思います。
体の金箔を「剥がし」分け与えるは、ホッジンズいわく「いいとこの坊っちゃん」のギルベルトが生存を報せず、身分も名前も全て捨てるということだと思います。
そして片腕で不自由なまま、エカルテ島の為に労働力として身をやつし、戦後の復興にのみ生きていくという事ではないでしょうか。
失った両目の二つのサファイアは「隻腕隻眼」となったギルベルトと捉えることも出来ます。

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「死を悟ったツバメがキスをする」という情景は、少佐にもらったブローチを度々口元に当てる仕草にあたります。
少佐に会いに」エカルテ島へ来たこと自体が「ツバメのキス」と捉えることも出来ますし、ラストシーンもそれに近いものですが、「尊きもの」として選ばれる前で限定するなら前者でしょう。
死を悟るという意味においては、「エイダン」や「クラーラ」の方が適していますが、「少佐が世界そのもの」だったヴァイオレットにとって、少佐が会ってくださらないという事実は死ぬよりも辛いことだったと思います。

ヴァイオレット 2話 472-022

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ヴァイオレット 10話 510

ヴァイオレット 11話252

ヴァイオレット 6話 135

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「鉛の心臓が二つに割れる」という描写は、本当はヴァイオレットを愛してるが、自分の存在が彼女を不幸にさせてしまったから会わない、ということを現しています。事実として「幸福な王子」においてツバメが王子の頼みを聞かなければ、南国へ渡っているので衰弱死することはなかったはずです。
王子がツバメに頼み事をしたせいで、そのツバメを死なせてしまう。
これはギルベルトがヴァイオレットを引き取り、従軍させたせいで不幸になった(と思い込んでいる)描写と告示しています。

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鉛の心臓だけは溶けない」、これは「あの子は生きているわ、ここに」と胸を指し示すアデリーナ・ブーゲンビリアの言葉と、ヴァイオレットが大事にしているブローチのこと。
心の中でずっと生きているから溶けない、そして作中においてこのブローチが少佐そのものように描かれています。

ヴァイオレット 13話 382

ヴァイオレット 13話 366

ゴミ溜めに捨てられる」ですが「捨てる」という言葉は度々出てきます。
ヴァイオレットが1話や回想で口にしていた言葉では「どこかへ捨てて下さい」「処分されるのでしょうか」などです。
「幸福な王子」では心無い人に捨てられますが、これは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」においては2話でのディードフリーヒや、陸軍の上官でしょう。
そいつは武器だ」「戦場に捨ててくればいい」「俺が捨てた道具はなぜかそこに立っていた」などの言葉で、それがよく分かります。

ヴァイオレット 1話 205

ヴァイオレット 2話 017

ヴァイオレット 8話 107

しかし終戦後の「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」では誰も彼女を見捨てませんでした。
ホッジンズはもちろん、初めは敵意を持っていたアイリスやエリカも彼女の事を見捨てず、打ち解けていきます。
ヴァイオレットがどれだけ純粋でひたむきに生きているのか、それを認めざるを得ないから誰も彼女を見捨てないのです。

ヴァイオレット 2話 383-012

ヴァイオレット 4話 272

そして、エリカは自分の道を進み、アイリスはというとライバルだと言いつつもヴァイオレットに敵わないと認めています。
ベネディクトは短編小説「ベネディクト・ブルーの菫」にて、ヴァイオレットには頭があがらない存在になっていますし、ヴァイオレットが結婚する時はベネディクトに挨拶に行く約束までしています。元傭兵だけに戦闘能力も高く、テイラーとの邂逅により一回り成長したと思います。

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ヴァイオレット 外伝 910

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4・王子(ギルベルト)とツバメ(ヴァイオレット)の顛末

最後になりますが、事の次第を「天国から見ていた神」、この街から最も「尊きものを二つ持って来た天使」この役割は誰が担っていたんでしょうか。
ホッジンズやカトレアでは身近過ぎますし、安直です。
では誰なのか?私の考えでは、ギルベルトの所在が分かるきっかけとなる、「手紙を書いてもらった子供」です。
エカルテ島のお爺さんかとも思いましたが、あのお爺さんはヴァイオレットのエカルテ島来訪に寄与していません。
したがって、ギルベルトのかたくなさに業を煮やし、二人を引き合わせるために「代筆を頼んだ子供が神」なのではないかと考えます。

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そして、天使はディードフリーヒでしょう。
彼にとっての尊きものが、実弟である「ギルベルト」です。
そして武器として拾ったはずの少女は、ギルベルトの愛情を受けて成長したことで、短編小説「if」での言葉で言うところの「」ではなく、「美しい女性」へと成長しました。
ギルベルト」を心から愛し「ギルベルト」に心から愛されている「ヴァイオレット」も、ディードフリーヒにとって「尊きもの」として選ばれるのは当然の帰結といえます。
筆跡からギルベルトであることを特定し、今どんな生活を送ってるかの情報までホッジンズに知らせているのです。
そしてこのセリフ
ブーゲンビリア家は俺が継ぐ、お前はもう自由に生きろ
二人で幸せに生きろと言ってるようなものです。

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そして当然ですが「楽園」とは「エカルテ島」です。
「幸福な王子」のように永遠には生きられませんが、もう二度と離れることはなく、二人の余生はゆるやかに過ぎ去って行くものだと思います。

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5・あとがき

原典を軽くご紹介、と言いつつ長々と書いてしまいすいません。
乱文乱筆だったと思いますし、改めて言いますが文学のことは分かりません。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界観でしか通用しない解釈をしていますので、怒らないと約束してくださいね。
その上で気に入ってくださると嬉しいです。

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