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慎重に映画を作ることに挑戦します
映画づくりをしていると、一刻も早く撮影して、すぐに編集して公開したい衝動に駆られる。
しかし、それで挫折した企画を幾本も見てきたし、ピリついた現場に変貌した瞬間も何度も見ている。
それは監督にとって楽しくても、キャストやスタッフにとっては地獄である。
その時は手を貸してくれても、次の企画には来てくれないだろうし、来てくれたとしても嫌々でしかない。
本作「ナーストゥザフューチャー」はかなり余裕を持った制作スケジュールにしている。全員が余裕を持って、十二分に力を発揮できる場所にするためだ。
時間に余裕が生まれると、心にも余裕が生まれる。その空白から、良いアイデアやパフォーマンスが生まれる。
「早く作りたい」という意見もあったが、申し訳ないがそこは強固に貫かせてもらった。張りつめた現場にしたくないし、ミスを恫喝する組織にしたくない。
そのためには、「余裕」が大切なのだ。
加えて「早く作りたい」は、作り手のエゴでしかない。受け手側は一年後に観ようが二年後に観ようが何の変化もメリットもないわけで、ただ早く作りたいのはこちら側の願望でしかない。
ただ、「短い制作スケジュール」にはエゴ以外の理由やメリットもある。
それはおそらく、「モチベーション」だろう。
キャストであれば、一気に撮ったほうが一気に役に入り込める。スタッフもその期間にガッツリ取り組める。
こうしたメリットも確かにあるが、それ以外に生じるデメリットのほうが私は大きい気がして、今回は、スローペースな制作スケジュールにさせてもらった。
スケの早い遅いに正解はないし、私も今回やってみて「短期スケのほうがいいや」となるかもしれない。
ただ、この策は必ず成功すると思っている節もあって、なんでかというと、私が好きな作品のほとんどがスローペースかつ、良い意味で緩やかな現場で作られているからだ。
例えば、北野武監督の「ソナチネ」。
国内外で評価の高い本作の撮影スケジュールは非常に緩やかで、現場もかなり和やかだ。
ひとつのカットが終わるたび、監督がボケてスタッフやキャストが笑みを浮かべる。
クランクアップ後には「さあメシだ!」と監督が告げ、バーベキュー大会が始まる。
夜にはオトナたちが両手を振り上げ踊り、朝を迎える。
キリキリした現場が当たり前、という認識もあるが、実は名作たちはこういった環境で生み出されている。
こうした現場づくりに、私も挑戦します。
(文・小池太郎)